12日目
「………」
「………」
二人の間に、緊迫した空気が流れる中、真剣な表情で、早見さんが僕を見つめている。
「あの、先生。最後にデートしたのはいつですか?」
「……え、それはいったい。」突然の質問に思わず首をかしげる。
「先生は、恋人とかいないんですか?」
「あの、僕、今口説かれてますか?」どう答えてよいかわからず、敢えて質問を返してみる。
「っつ!!違います、滅相もないです。そうか、そういう意味にもなりますよね」
すこし顔を赤らめて、力いっぱい否定する。どうやら口説かれていたわけではないようだ。
「なんというか、少し古臭いような気がします。」
僕の胸の方でグサッという音が聞こえた気がした。
「いえ、決してつまらないわけではないですが、その、気になるというか、共感しづらいというか。。」
「いえ、はっきり言ってください。でないと僕もわからないですし。直せるなら直したいです。」
「じゃあ、言いますね。」そう言って彼女は僕の書いたプロットをめくってページを広げる。
そう、僕の考えた物語を読んだ、彼女の感想は、「古臭い」だった。嫌な言葉だなぁ、「古臭い」。。。
「例えば、この、ヒロインと出会った男の子が連絡してくるシーンなんですけど。流石にメールは使わないと思います。文字だったらLINEとかSNSですし、電話も無くはないですけど。」
「あと、デートで映画館に行くのは解るんですが、座席がいっぱいで別の映画をみるというのはちょっと。予約もできますし。」
「あとは…」
そういって幾つか、彼女の指摘を受ける度、どんどんと凹んでいく。
「いっそ90年代くらいの話にします?」
「できれば現代の方が、読む方も共感しやすいですし」半ば投げやりに出した言葉に、彼女は律義に答えてくれる。
ここまで自分の感覚が古いとは思っていなかった。もちろん彼女の意見が絶対正しいわけではないだろうけど、言われると確かにその通りだと思う。
「あの、良かったらなんですけど。」
あまりにも落ち込んで見えたのかもしれない、気づかわし気な表情でおずおずと彼女がそう切り出してきた。
「試しにデートしてみませんか?」
「は??」
「いえ、デートというか、東京観光というか。いろんなところに出かけてみるというのはどうでしょう?引きこもってばっかりだと、いろんな設備とかわからないと思います。」
「いえ、それなら大丈夫です。一人で見て回ります。」
「どこに行くんですか?」問い詰めるように訪ねてきたので思わず黙ってしまう。
「どういうところがデートスポットになっていて、そんなデートスポットに先生は一人で行けるんですか?ゆっくり見て回れますか?」
どうしよう、何も言い返せない。
「そこで、私の登場です。二人ならデートスポットも怖くありません!!」
この人は結構強引だなぁ、初めて会ったときはもう少し遠慮深い印象だったけど。
ただ、言われたことは本当で、デートスポットを回るのであれば、一人で回るのは精神的につらい。
「わかりました。ありがたくお言葉に甘えます。」
そういって彼女の言葉に頷いた。