表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

11日目

編集長視点の話になります。

「いらっしゃいませ」

40前半くらいの板前が出迎えてくれる。

「今日の20時から予約してたと思うんだけど。」

「はい、伺ってます。いつもありがとうございます。奥の部屋へどうぞ。」

そういって個室に通してくれる。

襖を開けると、女性が一人、手酌で始めている。

「やぁ、遅かったじゃないか」

「これでも時間通り来ましたよ、そちらはもうリタイアして、時間が有り余っているとおもいますが、こちらはまだ現役なもので。」

「サラリーマンは辛いねぇ」

自らあいつの師匠と名乗ってるこの女性は、見た目は30代だが、実年齢は俺の年を優に超えている。

「それで、その忙しいサラリーマンを呼び出して何の用ですか?」

「いや、たまには人と酒が飲みたいと思っただけ、あいつは下戸だしね。」

「あ、ビールください」案内してくれた女中さんに注文を入れて、向かいに腰を下ろす。

「それだけですか?」

「あとは、あいつの新作、どこまで本気で書かせようと思ってるのか。少し気になったんだよ。」探るように、上目遣いで聞いてくる。顔は笑っているが、目は全然笑ってない。

「そんなに心配しなくても、きちんとサポートするつもりですよ。これでもあいつのことは友人だと思ってる。公私混同するつもりはないですが、あいつにとって最善を見極めることはできるつもりです。」

「だったらいいけどね。」注いであった酒を一気に煽ってそう言った。

「書こうとすることは悪いことじゃないでしょう?」

「もちろんそうだよ。でもあいつは、二年前に書こうとして書けなかった。今度も書けないと、引退を考えるだろう。あいつには、私の老後を楽しませるために、もっともっと書いてもらわないといけないんだよ。」

「素直に心配だといってあげれば、あいつも喜ぶと思いますよ。」

「あいつが一緒に酒を飲んでくれればね。流石に素面でそんなことは言えない。」

「作家にとっては、そういう言葉が一番の励みになる。気が向いたらでいいんでおねがいします。」

「死ぬ前には言っとくよ。」投げやりにそういうと、また酒を注ぎ始めた。

「ちょっと、一人で酔って気持ちよくならないでください。すぐ追いつくので、ペース落としてもらえます?」

「貴方より先につぶれるほど弱くないよ。さっさと追いついて。」

ちょうどその時、頼んだビールが届いた。それをもらうと、追加の酒と、適当につまみを注文する。

「書いてもらいますよ。あいつの本で、俺のボーナスの上乗せをしてもらわないといけないんで。」

「そういうところは信用してる。ただ、本人にも満足できる仕事をさせてあげて欲しい。今回は大丈夫なの?」

「それはなんとも。ただ、俺があいつの担当まがいのことができるのは今回が最後なんで。雑誌が始まると、そっちに忙殺されるでしょうから。こんな風に一人の作家を面倒見ることはできなくなる。」

「だから3か月で新作を書けと?」

「あいつならできると思ってます。多分ね。」

そういうと、彼女は少し笑って、空いたグラスにビールを注いてきた。

どうやら保護者の許しは得られたようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ