第七章 夫のこと
夫の話か〜。
あまり話したくないな〜と思った。
少しだけだからね。
と卓也に予防線を張って
私は思いつくままに話し始めた。
初めて付き合った年下の男だったんだ。
可笑しいでしょう。旦那が年下って。
今までの話と全く違うよね。
初めての年下は新鮮で楽しかった。
一緒に安い居酒屋に飲みによく行ったよ。
そのうちに私の部屋に居ついて帰らなくなった。
まあ、いいかと婚姻届け出した。式は挙げてないよ。
旦那の実家は大反対だったから式どころじゃなかった。
大学院卒のかわいい息子が
変な女に引っかかったぐらいに思ってる感じ。
旦那には
私か実家か、どちらかを選んでと迫った。
しょうがないよね。
今でも旦那の実家とは絶縁状態。
私も強気なフリしてたけど、深く傷ついたよ。
上手くいかないな~って。
本当は祝福されることなのにって。
卓也さんは
みんなに祝福されたんでしょう?
ダラダラ続いていた年上の男たちとは
ちゃんと別れたよ。
勤めてた会計事務所に
私に興味を持っている男が何人もいた。それも面倒だった。
結婚すればそういうモテモテの面倒も解消されるかなって。
自分で言うのも何だけど
私は見た目だけはいい女だから、男にモテるんだよね。
中身は悪女だけど。
私は税理士の資格も取ったので
経済的にも何とかなるかなというのもあった。
旦那は大学院卒で外資系の製薬会社勤務。
普通よりは稼いでるけど、まだ若かったし
サラリーマンだからね。
え~見た目はどんな感じかって?
そうだな~。
背が低くて筋肉モリモリの豆タンク。
私とは不釣り合い。
美女と野獣って感じ。と言って私は笑った。
すぐに娘が生まれた。
子育てに忙しかったし、楽しかったかな。
子供は無条件で私を愛してくれた。
私は生まれて初めて自分の存在意義を強く感じた
今は旦那とは、長い事レス状態。
私の気分障害に振り回せれて疲れたのかもね。
今は、私に無関心なんだよね。
私に触ろうともしない。こんないい女なのに。
これは犯罪だと思わない?
無関心ほど傷つくことはないよ。
父のようなダメ男じゃないよ。
暴力も暴言も絶対しない。
毎朝、娘の食事の世話してくれるし
休日は娘の面倒をみてくれる。
トイレや風呂掃除もしてくれる。
私も仕事してるから当然だけど
それをしない男も多いよね。
旦那は私が忙しくても保育園のお迎えだけは
何も言わずに私がしてるのを感謝してるみたい。
私の悪口を娘に言わないのもいい。
ママは体調良くないからパパとしよう・・・・
と言って、気分障害で動けない私を庇ってくれる。
少しは感謝してるけど・・・。
そんな感じかな。
卓也さんに出会うまでは、なんとか旦那とも上手くやっていた。
他の男のことは考えたこともなかったよ。
卓也さんに出会わなければね。
だから卓也さんはそういう意味じゃ、すご~く悪い男だよね。
私に女を思い出させたんだから。
私は冗談で卓也さんを少し責めるように言って笑った。
卓也は黙って聞いていた。
いいご主人だと思うけど、と一言言った。
私は、話続けて少し疲れてきた。
自分のことなのに、うまく話せないな~と思った。
卓也は天井を見つめ、何か考えているように見えた。
私の夫の話で、自分を責めているんだろうなと思った。
マジメ人間で疲れるな~と私は可笑しくなった。
そんな卓也だから好きなんだけど。
「卓也さんの考えていること、当ててみようか」
「罪悪感みたいなことでしょう」
私は卓也に言った。
卓也は黙っていた。
「図星でしょ」
「卓也さん勘違い男だな~」
「私は卓也さんのことなんて、すぐに飽きてサヨナラだよ」
「私はね、卓也さんの体が目的で付き合ってるんだしさ」
「私は、そういう女」
「だからさ~、私のことなんてセフレって思えばいいんだよ」
私はできる限り悪い女を演じた。
それは、私を大切にしてくれたことへのお返しのつもりだった。
卓也は、何カ月も長~いメールを書き続けてくれた。
何カ月も一緒に食事する以上のことは求めて来なかった。
私に好意を寄せてくれることが嬉しかった。
私の容姿ではなく
私の存在を認めてもらえた気がした。
いつも私のことを想ってくれていると感じた。
卓也は今まで付き合ってきた
セックスが目的のような男達とは違っていた。
卓也は、私にいつまでも丁寧な言葉で話しかけた。
私の話に耳を傾けてくれた。
私に敬意をもって接してくれた。
品のないことを言っても
過去の暗い話をしても何も変わらなかった。
私のことを見下すようなことは一度もなかった。
私が自分に否定的な言い方をした時だけは
卓也に叱られた。
私は、そんな卓也に戸惑っていた面もあった。
だから横浜で部屋に誘ってくれて、ほっとした。
私に性的な魅力を感じてくれていたと知った。
私は嬉しかった。
心が穏やかになっていった。
素直な女に変われる気がした。
私は悪い女を演じて
卓也の負担を軽くしてあげようと決めていた。
ただそれは、気分障害が安定している
ときだけのことだったけど・・・。