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負の感情

作者: てと
掲載日:2020/09/25

サラッとお読みください



人間って面白いよね。皆んなもそう思わない?


人間は愚かで、嫉妬、憎悪、差別、侮蔑、堕落、不実、淫蕩、怠惰、横暴、報復、反逆、傲慢、滑稽、強欲、絶望……だからこそ面白くて愛しい。


え?全然面白くない?だったら皆んなは、誰も憎まず、嫉妬もしたこともない?後ろめたい事が一つもないって言い切れる?だったら面白くないだろうね。でもね、人間って自分より劣る人間を心のどこかで見下して知らず知らず優越に浸っているんだよ。


ほら、他人の不幸は蜜の味って言うでしょ?影で誰かの悪口や噂話で盛り上がったりしなかった?


私は大好き。だから誰にも愛されず、望まれない、悪意の中で生きる王子様、サミュエル様が愛おしくて愛おしくてしょうがない。


サミュエル様は第四王子殿下。王様の火遊びで出来たメイドから生まれた平民の血が混ざった王子様。なんの旨味もない第四王子殿下に取り入ろうとする人間はいなかった。居てもいなくてもどうでも良い存在。


小さい頃、私はお父様に連れられ王太子殿下の婚約者選びに王宮に踏み入れた。そこには私より歳上の令嬢ばかり。私は令嬢達の歪んだ感情が楽しくて楽しくて仕方なかった。お互い牽制し合い、ドロドロとしていて面白かったのだが、私はその場から離れて第四王子殿下を探した。お父様から聞かされていた誰にも必要とされていない第四王子殿下。


人気のない広大な迷路の様な庭。そこで私は私の運命と出会ったの。死んだ様な目をし、ガリガリに痩せ細った第四王子様殿下。碌に世話をされていないのが一目で分かる。周りを見渡しても護衛係もいない。


私はさっき出されていたお菓子をハンカチに入れていたので、それを持ちながら第四王子殿下に声をかけた。


「初めまして、第四王子殿下。私は絶賛迷子中の公爵令嬢アナスタシア・ヘリュードです」


「……」


「とりあえず疲れたので、私と一緒にお菓子を食べましょう?甘い物はお好きですか?」


「僕に取り入っても、意味ないよ」


私は無理矢理、第四王子殿下と一緒に地面に座り膝の上でハンカチを広げ、甘いお菓子をぽりぽりと食べる。作法などこの場ではどうでも良い。私はお菓子を第四王子様殿下の口に突っ込む。


私より歳上なのに目を白黒させる殿下が可愛くてケラケラと笑ってしまう。


「決めました。殿下、私と婚約しましょう」


「君は兄上の婚約者候補だろう……」


「さあ、これを食べたらお父様に殿下の婚約者にしてもらわないと」


「君、人の話しを聞いてる?」


「アナスタシアです、殿下」


「……アナスタシア嬢。何で僕なんかと婚約したいんだ?」


「秘密です。秘密は女を綺麗にするとお母様は言っていましたので。それでは、また近いうちにお逢いしましょう」


「アナスタシア嬢、迷子だったんじゃ?」


「あら?そうでしたか?大丈夫です、道順は覚えているので」


るんるん気分で来た道を正確に戻る。あんなにも死んだ目をした子供、初めて出逢った。胸のドキドキが止まらない。頭の中で殿下と婚約出来る算段を考える。


私を待つお父様を見つけニタニタと笑いながら近づく。


「お父様、私第四王子殿下の婚約者になりたいの」


「何を考えている。第四王子殿下には何も旨味が無い。寧ろ損だ」


「あの方は私がこの国の王にしてみせるよ?」


「お前は何を考えているか分からん。いつにも増して気味が悪い」


「ふふっ、お父様はいつも通りに私の操り人形でいてくれれば良いの」


お父様は強欲だから私の案を必ず呑むだろう。私の手のひらで転がってもらわなきゃ。じゃなきゃお父様を壊しちゃうかも知れない。私は私の邪魔をする人間を壊しちゃう癖があるから。


さあ、私のお遊びの時間だ。


直様、私とサミュエル殿下は婚約し、サミュエル殿下の待遇をよくした。仮にも公爵令嬢の婚約者なのだから、放置など出来ない。


周りからはサミュエル殿下との婚約を馬鹿にされるが、皆んなは知らない。あの死んだ目の奥にある憎悪を。私はサミュエル殿下のそばでサミュエル殿下と私を馬鹿にする人達をいずれ見下す立場になるだろう。


定期的に開かれるサミュエル殿下とのお茶会は実に楽しい。仄暗い目が私を見つめて捉えて離さない。


「アナスタシア、君は何を考えている」


「何も?ただ、貴方の周りは面白いもので溢れているので」


「面白いもの?」


「ええ。強いて言えば感情です。サミュエル様の周りは人間の汚さが溢れている……それが面白くて楽しいんです」


「君は狂ってる」


「サミュエル様も既に狂ってらっしゃいますよ?今、自分がどんな顔をしているか分かりますか?」


サミュエル様の歪んだ笑みを見つめ、私は微笑む。もう既に私の毒が王家を蝕んでいる。たが、それを知っているのはお父様と私だけ。少しずつ、少しずつ私が王家を蝕んでいく。気づいた時にはもう遅い。


最初に皇帝陛下と王太子が亡くなり、次に王妃様と第三王子が亡くなった。第二王子ももう虫の息。ただ一人サミュエル様だけが健康なまま。サミュエル様を見下していた人達がサミュエル様に取り入ろうとするが、サミュエル様は私以外信じない。


「ねえ、サミュエル様。人間って本当に面白いね。見下していた人間から見下される立場になって焦ってるよ」


私はサミュエル様の私室のソファに寝転び、足をパタパタさせる。


「行儀が悪いぞ、シア。俺以外の前では控えろよ」


「はあい。でもやっぱりサミュエル様の側にいて良かった。噂話、虚言、陰口、皆んな皆んな楽しくて楽しくて壊しちゃいそう」


サミュエルが私の足を掴み爪先に口付ける。


「シア、お前がいなきゃ今の俺はいない。だからずっと側にいてくれ」


「いいよ。だって、これからがもっと面白くなるんだから」


私は起き上がり、サミュエル様の頬を撫でて瞳を覗き込む。仄暗い憎悪の火は消えてはいない。


ねえ、ほら皆んなも人間の負の感情って面白いでしょう?





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