第九話
……まさかふぉっくすさんが女性だったなんて。
今までずっと男性かと思ってた……。
確かに自分から男性とは言ってなかったから俺の思い込みだったんだけど、まさか自分とめっちゃ趣味が合う人が女性だとは思わないだろ……。
……ていうかふぉっくすさん、めちゃくちゃ可愛いな!
あんまり詳しくはないけど、モデルとかやっててもおかしくないレベルじゃないだろうか。
こんな人がホントにオタクだなんて、とてもじゃないが信じられない。
「あ、あの……。私の顔になにか付いてますか?」
しまった。これまでにいろいろと驚くことが多すぎて、脳死でマジマジと見つめてしまっていた。
なんとか誤魔化さないと……。
「あっ、いやその、すみません、見惚れてしまって……」
駄目だ、緊張で思うように口が動かない。
なんだよ見惚れてしまってって。
今日日ギザなナンパ師でもそんなこと言わねぇわ。
ふぉっくすさんも少し顔を紅くして、顔を少し伏せている。俺の言葉に共感性羞恥を感じてしまったんだろう。誰か俺を殺してくれ。
は、話を変えなければ……。
「そ、それにしても、今日は良い天気ですね」
話が下手か。
いや、確かにコミュ障だから下手だけれども。
しかも結構曇ってるからそこまでいい天気じゃないし。
「……ふふっ、なんですかそれ。結構曇ってるじゃないですか」
は、恥ずかしい……。助けて酒井……。
心の中で酒井に助けを求めていたら、ふぉっくすさんがくすくすと笑いながら、さらに続けて話す。
「なんだかおかげで、すっかり私の緊張も解けちゃいました。クロノスさんもそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。せっかくの機会なので、お互い楽しんじゃいましょう!」
その言葉に、俺も少し緊張が解ける。
まさかこんな美少女が来るとは思わなかったから必要以上に緊張してしまったけど、今の言葉を聞いて、相手がいつも話してるふぉっくすさんだってことを再認識できた。
「……うん。ありがとね」
「いえいえ。改めて、よろしくお願いしますね、クロノスさん」
「うん、よろしくね、ふぉっくすさん」
*
「──そうなんだよ! あそこのサレンの行動がもう、他の誰でもないミィの為ってだけで尊いのに、そのあとのミィの返しがもう……! 俺はあの時百回は尊死したね……」
「いやもうホントそうですよね! ミィの『君がいない世界で生きるくらいなら、君とともに滅ぶよ』って言葉なんかもう……! どれだけ私たちを殺す気かって感じでしたよ……!」
「さすがふぉっくすさん、わかってるね……!」
「クロノスさんこそ……!」
緊張の解けた俺たちは、好きなラノベの話や今季のアニメの話で盛り上がっていた。
そう、これぞオフ会って感じだ。思ってた五十倍は楽しい。
「……いやぁ、オフ会ってこんなに楽しいものなんだね。急な誘いだったのに来てくれてありがとね」
「いえ、こちらこそありがとうございます! 誘われた時、とっても嬉しかったです!」
その言葉に少しドキッとしてしまう。
……ホントに綺麗な人だなぁ、ふぉっくすさん。
長く透き通った髪に、白い雪のような肌。
なんというか、まるで伏見副会長みたいな──。
……あれ? っていうか伏見副会長じゃね?
ふぉっくすさんが眼鏡かけてるから今まで気がつかなかったけど、よく見たらめっちゃ副会長に似てるような……。
ってまさかね。あの副会長が隠れオタクなわけな──
「あっ、眼鏡に汚れが。えーっと、眼鏡拭きは……」
そう言ってふぉっくすさんが眼鏡を外す。
いやめっちゃ副会長ですやん。ハハッワロス──。
いや笑ってる場合じゃねぇ!
ど、どうしよう!
今はまだ副会長も俺の事に気づいてないっぽいけど、もし気づいてしまったら……。
『えっ……。あなたもしかして、黒木場さん? 私の秘密を知ってしまいましたね……。……そういえばあなた、この間保健室でも私にセクハラ行為を働きましたよね? ……覚悟はできてますか?』
ってなるに決まってる……!
副会長の権力で、もう学校に居られなくなることは間違いないだろう──
「クロノスさん? 大丈夫ですか、なんだか急に思い詰めたような顔してましたけど……」
「ひゅいっ! ぜ、全然大丈夫でござるよ?!」
全然大丈夫じゃない返事してしまった。
……ともかく、ここからはバレないように立ち回らなければならない。
……どうしてこうなった。