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第三話

『転セカ面白すぎる。こりゃもう今日寝れませんね……。』


 送信。といってもこんな時間まで起きてる人あまりいなさそうだけど。


 時刻は既に夜中の三時を超えている。

 帰ってからすぐに食事や風呂を済ませて買ってきたラノベを読み始めたが、かなりページ数が多いのもあり、まだ三分の二程度しか読めていない。

 中途半端なところで中断したくないし、何より面白くて寝る気が起きない。

 仕方ないので明日、というか今日の俺を犠牲にして今を楽しく生きよう。


 そう考え、読み進めようと本を手に取ろうとした時、スマホがピコンと音を立てる。

 どうやら通知が来たみたいだ。こんな時間に来るとは思ってなかったな。

 スマホを手に取り確認してみる。


『ふぉっくす@祝きつきみ十二巻&転セカ六巻発売! さんからのリプライがあります。』

『クロノスさんももう転セカ読んでるんですね! 私も寝なきゃと思ってるんですけど、さっきから読む手が止まらないんですよね…… 同じく徹夜になりそうです泣』


 ふぉっくすさんからだった。どうやらふぉっくすさんも転セカを読んでるらしい。

 前から思っていたけど、俺とふぉっくすさんはかなり趣味嗜好が似ている気がする。いつかアニメやラノベについて、深く語り合ってみたいものだ。


 ふぉっくすさんにリプライを返し、転セカを読み進める。時々ふぉっくすさんとリプライでやり取りしながらも、六時過ぎくらいにはお互い読み終わっていた。


 ……さて。学校の準備するか。






 ***






「……場、起きろ、黒木場!」


 酒井の声が聞こえる。

 教室が騒々しい。いつの間にか四限目も終わって昼休みに入ってたみたいだ。


「……おお、おはよう酒井」

「おはよう、じゃねえよ。もう昼だぞ」


 酒井が机を向かい合わせに移動させながら呆れ声で話す。


「仕方ないだろ、徹夜で転セカ読んでたんだから」

「ああそうか、そういえば転セカ昨日出たんだったな。まあ気持ちは分かるがせめて授業はちゃんと受けろよな。お前進級できるか怪しいらしいじゃん」


 ……痛いとこを突いてくる。

 実際、教科によってはあと一回赤点を取ったら単位が無くなる教科もある。

 やばいとは思ってるんだけど、どうにもやる気が出ないというか、危機感を覚えないというか……。


 ちなみに酒井は結構頭が良い。

 一学期末の試験では確か四十番台だったはずだ。

 こういう筋肉キャラって大体頭も筋肉でできてるはずなのに……。


「……おい、今失礼なこと考えてるだろ」

「ハはっ、まさか」


 速攻でバレた。ビビって声裏返ったし。

 こいつ妙に鋭いんだよなぁ……。


「……まあいいけど。でもさすがに午後の授業はちゃんと受けた方がいいぞ。……そうだ、昼休みの間保健室で寝てきたらどうだ? 今日保健室の先生出張で居ないらしいし。ちゃんとしたベッドで寝れば少しはスッキリするだろ」

「保健室かぁ……」


 まあ確かに、こいつの言う通りこのまま授業中眠るのは良くない。

 机で寝るよりは保健室で寝た方がスッキリできるだろうし、悪くない提案だ。

 でもいいのだろうか。


「俺が居なくなるとお前一人になるじゃん」

「俺は誰かと違ってお前以外にも友達いるんで。まあ最悪図書室に籠るから安心しろ」


 ……なんか鼻につく言い方だけど、まあこいつが良いって言うなら行くとしよう。


「べ、別にそんな言葉で安心なんかしないんだからね!」

「すっげーキモイぞ。さっさと保健室に消えろ」


 ひ、酷い……。ちょっとふざけただけなのに……。

 チクチク言葉はやめなさいって習わなかったのだろうか?

 心に傷を負いながらも、保健室へと向かう。




「失礼しまーす……」


 中には聞こえない程度の小声で呟きながら、音を立てないように軽くドアを開ける。もしベッドが陽キャ達によって占領されていた時にバレないように退避するためだ。


 ドアの隙間から覗いてみる。

 二つあるベッドのうち、一つはカーテンが閉められてるが、残りの一つは使われていないようだ。どうやら陽キャは居ないらしい。よかった。

 実の所、結構眠気が限界まで来ている。昼休みの時間も限られてるし、さっさと──


「……入らないのですか?」

「ひゅい!?」


 不意に後ろから声をかけられ、今世紀最大の情けない声を出してしまった。


「そ、そんなに驚かれなくても……。すみません、私も保健室を利用しようと思って先程から待っていたのですが、中々入らないようだったので……」

「あ、すいません……。すぐ入りますね」


 迂闊だった。

 陰キャたるもの、人の気配なんて一番に感じ取らなきゃいけないものなのに……。


「あれ、あなたは……。確か図書委員の人でしたよね? 体調が優れないのですか?」


 その言葉を聞いて、俺は初めて相手の顔を見る。

 それは、つい最近見た事のある顔。昨日前で話していた、伏見副会長だった。


「あ、いえ……。少し寝不足だったので、ベッドで休ませてもらおうかと思って……。副会長こそ、どうされたんですか?」


 酒井以外のやつと事務的な話以外で話すのが久々すぎて距離感が分からず、つい聞き返してしまった。

 で、でもそんなに会話の流れ変じゃないよな?


「そうなのですね。私も寝不足気味だったのでベッドをお借りしようと思ったのですが、そういうことならあなたが使ってください」

「いや、副会長が使ってくださいよ。普段からお疲れだろうし、俺は自分の机で寝ますよ」


 というか、もう色々といっぱいいっぱいで寝れなさそうだし。

 気心知れない相手と会話するのってこんな大変なんだな……。


「いえ、あなたが使ってください。一般生徒を差し置いて、私がベッドを使うなんてできません。そもそも私の寝不足は自業自と、く……きゃあっ!?」

「あ、危ないっ!」

「ひゃっ!」


 ドアの方に向かいながらそう話していた伏見副会長だったが、寝不足からか足がもつれて倒れそうになる。俺は咄嗟に、伏見副会長の肩を掴んで支えてしまった。


 ……しまったー!

 これってセクハラになるんじゃ!?


「あ、その……ありがとうございま──」

「すいませんでした! そんなつもりじゃなかったんです! どうか許してください!」


 すぐに手を離して頭を下げる。

 早くこの空間から逃げたい。


「え、えぇっ!? いや、あの──」

「あっなんか急に目が覚めたのでベッド使ってください! それでは! 失礼しましたー!」


 逃げるように保健室から飛び出る。

 やってしまった。


 結局その後、机に突っ伏しながらセクハラ男の噂が広まらないかビクビクしながら昼休みを過ごすのだった。




 ちなみに午後の授業は全部寝た。

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