第十六話
「終わったー! 疲れたー!」
「二人とも、お疲れ様でした。いつもよりかなり早く終わりましたね。おかげで暗くなる前に帰れます」
既に時刻は十八時。
外は綺麗な茜色に染まっている。
この時間で早く終わったって、いつも何時くらいに帰ってるんだ……。
「……それじゃ、ボクはお先に帰らせてもらうよっ! お二人はごゆっくりー! あ、でも健全にねっ!」
いや、ごゆっくりって言っても帰るだけなんだけど……。
絶対なんか変な勘違いをされてる気がする。
……っていうかなんで男子の制服着てるのか聞き忘れた。
いや、そもそも聞いていいのだろうか?
「あ、あはは……。私たちも帰りましょうか」
早織さんが苦笑しながらカバンを取り出す。
なんだか少し顔が紅いような気もするけど、空の色がそう見せているだけかもしれない。
……なんかナチュラルに一緒に帰ることになってるな。
嬉しくないといったら大嘘になるけど、やっぱり少し緊張してしまう……。
*
「にしても……。話は聞いてたけど、ホントにいつも相当遅くまで残ってるんだな……」
「そうですね……。暗い中、一人で帰るのにはもう慣れちゃいました……」
暗い空の元、家の明かりを頼りに駅まで向かうのは想像するだけでキツそうだ。
っていうか、会長はなにをしてるんだ。
全校集会の時もだいたい早織さんが前で話してる気がするし、なんなら選挙以外で今まで見たことない気がする。
よくそれで会長になれたな……。
いや、俺も適当に『なんか分かんないから一番最初の人でいいや』ってその会長に投票したんだけども……。
……そう考えると早織さんにすごく悪いことをした気がする。
「ご、ごめんなさい……」
「えっ? 急にどうしたんですか……?」
キョトンとした顔の早織さん。
まあそりゃ急に謝られたら困惑するよね。
「ああいやごめん、なんでもない……ん?」
ふと周りを見渡す。
話してて全然気づかなかったけど、なんかいつも通ってる道と違うような……。
っていうか結構遠回りしてるな……。
俺……というか電車で学校に通っている生徒のほとんどは、最短距離で学校にたどり着く、住宅の多い道で登下校している。
その道だと買い物したりする店がコンビニしかないから、帰りにどこか寄ったりするには遠回りになるアーケード商店街の方まで行かないといけないのだけど……。
今、俺たちが歩いているのはその商店街へと通じる道だ。
いつの間にこっちの方に来てたんだ?
早織さんがなにも言わないってことは、なにか買う用事でもあるのだろうか?
……と、考え込んでいた俺の様子に気づいたのか、早織さんがおずおずと話し始める。
「あっ、その……。すみません、今日はいつもと違う道で帰りたいなと思いまして。……あっ、あのっ! お時間があればなんですけど、買い物に付き合って頂ければ、なんて……」
その声は次第に尻すぼみになり、最後には消えいってしまう。
顔を見てみると、恥ずかしそうに俯きながら、でも期待しているような上目遣いでこちらの様子を伺っている。
まるでラブコメのヒロインが勇気を出して好きな人へアタックしてるみたいな……。
……あれ?
なんかすごくラブコメっぽいぞ?!
やばい、そう考えるとなんかデートのお誘いっぽく感じてきた!
……いや、落ち着け。
冷静に考えるんだ。
そう、昨日も考えたが早織さんが俺を好きになる理由がないんだ。
そもそも初めて話したのだって先週の保健室だし、なんなら多分第一印象最悪だし。
ここで調子に乗ってしまうと痛い目を見る、きっとそうなのだろう。
危なかった……。
俺が歴戦の陰キャオタクじゃなければ、勘違いして近い将来死んでいただろう……。
うーん、だけど早織さんの発言の意図が読めない──。
「……その、やっぱり駄目……ですか……?」
今にも泣きそうな、というか半分涙目になりながら不安そうに早織さんが訊ねてくる。
しまった、考え込んで返事をするのを忘れていた……。
「あぁ、ごめんごめん! ちょっと一瞬意識飛んでた。……えと、この後は特に用事もないから、全然大丈夫だよ」
「ほ、ホントですか……! よかったぁ……私、ずっとクロノスさんと行きたい場所があったんです!」
満面の笑顔でそう話す早織さん。とてもかわいい。
……ん? 『クロノスさんと』?
ずっと俺と……というか、SNSでの俺と行きたかった場所って、どこなんだろう?




