第十三話
「……なんだか、新鮮な感じがします。こうやって誰かと一緒に帰るのって」
俺の隣を歩きながら、そんなことを話す早織さん。
「いつも誰かと一緒に帰ってるんじゃないのか?」
「いえ、いつもは生徒会の仕事とか先生の手伝いで、遅くまで学校に残ってるんです。だから一緒に帰る人もいなくて……。中学生の時もずっとそんな感じだったので、誰かと一緒に帰るのなんて小学生以来かもしれません」
なるほど。
今までの人生の中で生徒会なんて関わったことないから、どんな仕事をしてるのかは分からないけど……。
それでもきっと大変な仕事なんだろうってことは想像に難くない。
「そうなのか……。やっぱ副会長って大変なんだね……」
「いえ……ホントはこんなに忙しいはずじゃないんですけどね……」
早織さんが遠い目をしながら呟く。
な、なにがあったんだろう……。
「……と、そんな生活を続けていたからか、ママ先輩……じゃなくて、牧庶務から『たまには休んでください』って言われまして。なので今日一日だけ、放課後の生徒会活動を代わりにやってもらってるんです」
「なるほど……」
なんだか、普段は聞けない生徒会の裏側って感じで面白いな……。
「……ていうか、そんな貴重な放課後だったのに俺の睡眠に時間使ってしまってごめん……」
「いえ、それは私が好きで待ってただけなので気にしないでください!」
そうは言っても、なんか申し訳ない……。
うーん、そうだな……。
「……そうだ。お詫びに、なんてものじゃないけどさ。放課後、俺にもなにか手伝えることがあれば手伝うよ。生徒会の仕事の雑用とか」
しばらくは気になっている新作の漫画とかラノベも出ないし、時間もある。
俺でも雑用くらいはできるだろう。
……まあ、早く家に帰れるならばそれに越したことはないが、いつも学校のために身を粉にして働いてる早織さんの力に少しでもなりたい。
……というよりふぉっくすさんの力になりたい。普段お世話になってるし。
「い、いいんですか……?」
消え入りそうな、だけど少し期待しているような声で早織さんが訊ねてくる。
「もちろん。俺とふぉっくすさんの仲だし」
「あっ、ありがとうございます……! すごく助かります……! 正直もう手が回らなくなってしまうほど大変だったんです……」
震えながらも心底嬉しそうな声色。
目にはうっすらと涙を浮かべていた。
そ、そんなに忙しいのか……。
早織さんも苦労してるんだな──。
「……それに、一緒にいられる時間も増えますし……」
「……ん? なにか言った?」
「い、いえ。独り言です」
……まあ、聞こえてたんですけどね。
どういう意図の言葉なんだろうか?
ま、まさか俺のことが好き──。
……うん、そんなわけないね。
冷静に今までの行動見返しても好かれる要素が一つもなかった。
そもそも俺、陰キャだし。
ハイスペックだけど普段はそれを隠してるとかじゃなく、ただ単純に陰キャなだけだし。
少し自惚れてしまった。
……まあ、オタク趣味という裏の顔を気にせずに出すことができて、ストレスも溜まりにくいから、とかそんな理由で出た言葉なんだろう。
「そっ、そんなことよりも。今日ってきつきみ二話の放送日ですよね! 私すごく楽しみで──」
その後、駅に着くまでアニメの話に花が咲き。
いつの間にかさっきの言葉のことなんて、忘れてしまっていた。




