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第十一話

 次の日の昼休み。


「はあぁぁぁぁあああ……」

「うっわ、すげぇため息だな……。昨日のオフ会上手くいかなかったのか?」

「……上手くいったといえば上手くいったし、上手くいかなかったといえば上手くいかなかった」

「なるほど、わからん」


 結局、学生証を拾ってもらった後、なにか分からないまま解散となった。

 ふぉっくすさんも混乱してしまって、正常な判断ができなかったのかもしれない。

 とはいえ、あの頭脳明晰な伏見副会長だ。

 一日も経てば状況も整理できるだろう。


 ……伏見副会長が学校では隠しているオタク趣味を、俺は知ってしまった。

 果たしてそのことを彼女がそのまま放置するだろうか。

 仮に俺が副会長の立場なら、どんな手段を使ってでも口封じすると思う。


「まあ元気出せよ。言い方は悪いかもだけど、所詮はオフ会の相手だろ? なにしたかは知らんけど、会おうとしなきゃ会うもんでもないだろ」

「……はぁ」


 酒井の言葉を聞いて、さらにため息を吐いてしまう。

 会おうとしなくても会うもんなんだよなぁ……。

 酒井がせっかく話聞いてやってるのに、みたいな顔してるがそんなのは知ったことではない。

 もはや俺は、刑が執行されるのを待つのみ──。


「すみません、黒木場さんはいらっしゃいますか?」


 突如響いた声に、クラスの注目が集まる。

 そこにいたのは伏見副会長。

 普段は来ることのない来訪者にクラスが少し騒然としている中、俺の心は驚くほど落ち着いていた。


 ──ああ、きっと副会長の絶対的な権力みたいなやつで、もう俺はこの学校に居られなくなるのだろう。


「おい、呼ばれたみたいだぞ黒木場……。黒木場?」

「……ああ。今行くよ……。今までありがとな、酒井……」

「お、おう。……なんなんだアイツ」



「すっ、すみません、突然呼んでしまって。ここだと周りに人も多いので、場所を移しましょうか」

「……はい」


 ここまできてしまったんだ、俺も覚悟を決めよう。

 もう煮るなり焼くなり好きにしてほしい。


 俺は伏見副会長の後ろを着いていく。

 その間、一切会話はない。

 変な行動をしないか見張ってるのか、さっきからチラチラ見られてるけど。




「……ここでいいですかね」


 連れていかれた先は、普段は使われていない空き教室。

 別館の奥の方にある教室だからか、全くといっていいほど人の気配がない。

 つまり、ここでなにかされても助けは来ないのだ。フフフ、怖い。


 クソッ、こうなったら先手必勝だ!


「さて……。それで、えっと……。くっ、黒木場さん、私と──」

「ごめんなさい! 退学だけは許してください!」

「──って、えぇっ!? な、なんの話しですか?!」


 伏見副会長が本気で困ったように言葉を返す。

 ……あれ?

 思ってた反応と違うな……。


「俺が副会長のこと隠れオタクだって知っちゃったから、副会長の権力で俺を退学させて口封じしようって話じゃないんですか?」

「いや、そもそもそんな権力なんて副会長が持ってるわけないじゃないですか……」


 ……。

 た、確かに……!


 普段アニメやラノベやらの見過ぎで思い違いしていたが、普通生徒会にそんな権限はないんだった。


「……あれ? それじゃあなんの用があって俺を呼んだんですか?」

「そっ、それはですね……」


 俺が聞くと、伏見副会長があたふたと少し恥ずかしそうにして言い淀む。

 ……普段、全校生徒の前で凛々しく話している姿とは全く結びつかない。

 ギャップ萌え好きな俺にとってかなりクるものがあるな……。


 少しして、意を決したように伏見副会長が口を開く。


「き、君と仲良くなりたくて……」

「……え?」


 気のせいだろうか、俺に対しての言葉としては全く相応しくないことを言われた気がする。


「あの、副会長。俺、黒木場ですよ」

「知ってますよ! 言う相手間違えてるわけじゃないですからっ!」

「じゃあなんで……。というかふぉっくすさんと俺ならもう仲良いじゃないですか。なんならSNS上だと一番仲良いフォロワーだと思ってますけど」


 だからオフ会誘ったわけだし。


「え、ホントですか、えへへ……。……じゃなくてっ! 私は伏見早織としても、黒木場さんと仲良くなりたいんですっ!」


 声を荒らげながら顔を真っ赤にしてそう伝えてくる伏見副会長。

 なにこの人可愛い。


 ……ふむ。


 最初は乱心でもしたのかと思ったけど、少し考えてみれば伏見副会長の言葉はそんなおかしくはないのかもしれない。


 というのも、学校では完璧な生徒を演じている伏見副会長だ。いくら優秀といえど、周囲からいつも期待の眼差しで見られていてはストレスも溜まる。

 その鬱憤をSNSで解消してるのかもしれないが、それだけでは解消しきれないのだろうし。

 だからこそ、学校という場でも気兼ねなくオタク的な会話ができる俺と仲良くなりたいのかもしれない。

 そうすれば学校にいる間でもストレスを解消できるしね。


 ……そういうことなら俺に断る理由もない。

 ふぉっくすさんが困っているなら俺も協力したいし。


「……仲良くするっていってもなにすればいいか分からないけど……。俺でよければいくらでも仲良くしますよ」

「──! ホントですか……!」


 俺の言葉を聞いて、見る見るうちに顔を綻ばせる伏見副会長。

 ……控えめに言って可愛過ぎる。


 ……それにしても、俺が退学させられる話じゃなくてよかった。

 伏見副会長の笑顔を見ながら、そんなことを思うのだった。

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