フランス2
そして、とうとう私の婚約者であるフランソワ殿下とお会いすることができました。
フランソワ殿下は柔らかそうな明るい茶色の髪に、濃い青の瞳をした、可愛らしい王子様でした。
「始めまして、スコットランド女王陛下。貴女の婚約者のフランソワ・ド・ヴァロワです。フランソワって呼んでね。これから一緒に過ごす事になるから、よろしくね。わからないことがあったら、何でも訊いて?」
少し鼻をグズグズさせながらおっしゃいました。生まれつき中耳炎を患っていらっしゃるらしいので、仕方ありません。でも、とても優しそうな方で、よかった!
「スコットランド女王、メアリー・スチュアートです。メアリーとお呼び下さい。フランスは初めてで、何もかもわからない事だらけです…。色々と教えて頂けるとありがたいです…。こちらこそ宜しくお願いします。」
自己紹介の後は、家族のことや、お城のこと、お勉強のこと……沢山お話が聞けました。仲良くなれたと思います。婚約者ですもの。仲良くならなくては!
一人きりですと不安ですが、私にはスコットランドから一緒にやってきたメアリーさんたちがいます。小さなころから姉妹のように一緒に育ってきました。彼女たちが結婚するまでは私とずっと一緒です。
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『見てごらん。もうずっと捕らえられているんだ。君しか助けられる人はいないんだよ?』
誰かがまた私に話しかけてきました。
場所は変わってどこかの城の部屋の中のようでした。
彼女は暗い城の中で外に出る自由さえも奪われていました。運動をしなくなったので、小太りになり、足はリュウマチを患って歩くのも不自由になってしまっていました。そこで彼女は有り余った時間を刺繍に費やしましていました。
お金には困っていませんから、刺繍の材料は幾らでも手に入れられます。フランスと違って、色合いがどうも鄙びているのが難点ですが。正しいキリスト教の信者として、聖書の場面を沢山タペストリーにしました。ただ美しいだけではつまりませんから、今の彼女の状況などを風刺して図案を作ってみたりもしています。
今や刺繍は彼女の人生の殆どを捧げる行為となっていました。時間にもお金にも困っていませんので、いくらでも拘って仕上げられるのです。
彼女は今度の図案に「わが終わりにわが始まりあり」という文句を組み入れてみました。予言のように。そして鬱々とした日々を送る原因となったエリザベスへの憎しみを刺繍の中にたっぷりと縫い込んでいきました……。
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「エリザベスって誰かしら?」
フランソワ殿下の妹はエリザベート様ですし。
エリザベート様は明るく、聡明で、美しい少女です。カトリーヌ様の産んだお子様ですが、凛とした美貌はあまりカトリーヌ様には似ておらず、アンリ陛下にそっくりでいらっしゃいます。お兄様であるフランソワ殿下や弟のアンリ殿下、シャルル殿下には少々厳しいところもありますが、快活で、誰かに恨まれるような方ではありません。
私はまた妙に悪い夢を見てしまいました。前のものよりはマシなのですが、妙に生々しく、余り気分の良い夢ではありません。フランス宮廷では、皆さん可愛がって下さって、楽しく過ごしているというのに。