結婚1
次の日、イングランド大使がエリザベス陛下からの手紙を携え、面会を求めてきました。
「わかりました、面会します」
お義兄様のおっしゃっていたとおり、イングランドはヘンリーとの結婚を阻止しようと考えているのでしょうか。
そして、予想どおりイングランド大使は反対の意思を示しました。
「ダーンリー卿は見かけどおりの好青年ではありませんよ。女遊びの悪い噂も度々耳にしました。イングランドとしてはレスター伯ロバート・ダッドリー卿との結婚を強く望んでいます。詳細はエリザベス陛下からの書簡に記載されておりますので、ご検討ください」
今更ながら、レスター伯との縁談を持ち出してきました。検討するまでも無い、下らない縁談です。ですが、エリザベス陛下の書簡は無視するわけにはいきません。
「レスター伯とのお話はなかったことになっているかと思っていました。何しろヘンリーはレスター伯がスコットランドに紹介してやってきたそうですから。イングランド貴族から配偶者を選ぶ様にと、エリザベス陛下がおっしゃるのでそのとおりにしたつもりだったのですが。まあ、取り敢えずエリザベス陛下の書簡はじっくり拝見してみましょう」
こう答えてイングランド大使を帰しました。
エリザベス陛下からの書簡は概ねイングランド大使の言った事と同じ内容でした。ヘンリーでなく、レスター伯と結婚するならイングランド王位継承権を公式に認めても良いとも書かれていました。ですが、私のイングランド王位継承権はエリザベス陛下が認めていなくとも誰にとっても明らかな、正当なものですから、そんなものは必要ありません。ですから私はイングランド大使に返答したままの事をエリザベス陛下への書簡に書きました。
「エリザベス陛下からイングランドに帰還するよう、命令が来たよ」
ヘンリーの家に遊びに行くと、困り果てた顔をしてヘンリーは言いました。
「母上を反逆の疑いでロンドン塔に拘禁したそうだ。僕が帰ってエリザベス陛下に事情を説明しなければ、母上を処刑するって」
完全に強迫です。こんな事は許されない。私は怒りに燃えてきました。
「ローマ教皇猊下から結婚許可の書簡が届いたの。聞かなかった事にして、さっさと結婚してしまいましょう。反対する人には後で対処しましょう。事実を先に作ってしまえば反対したって後の祭りですもの」
こうして私はヘンリーと結婚式を挙げることにしました。
イングランドとお義兄様の反対や抗議は続いていましたが、私は知らないフリをして、結婚式の準備を続けました。そしてとうとう次の日が結婚式という段階になって、私は1束はあろうかという、抗議書を持って現れたイングランド大使に言いました。
「明日からヘンリーはスコットランド王と呼ばれる事になりました。私と共にスコットランドを統治するのです。これはもう公に決定した事ですから」
こう言い渡され、唖然としているイングランド大使を置いて謁見の間を後にしました。
こうして次の日、私とヘンリーはホリルードの小さなカトリックの礼拝堂で結婚式を挙げました。前々からリッチョが準備してくれていたのです。連絡を受けて、司祭は急いで結婚式の準備をしてくれました。
私は始めは先の夫、フランソワ陛下の葬儀できた喪服を着て、皆の前に現れました。フランソワ陛下との結婚も大事だった事を皆に示す為です。そして神の前で結婚の誓いをたてました。
カトリックのミサを聞き終わって、自分の部屋に下がってから、私は喪服を脱いで晴れ着に着替えました。新たにヘンリーの妻になったのですから、新たな妻として、誰よりも華やかで美しいところを皆さんにお見せしなければ。
美しく着飾った私とヘンリーを見て、結婚式を見物に来ていた人々は感激してくれました。
「おめでとうございます、女王陛下!」
「おめでとうございます、ヘンリー陛下!」
「世界一美しい夫婦ですね!」
「お幸せに!」
こうしてスコットランドは私とヘンリーの結婚のお祝いで至福に包まれました。