縁談2
そんな中、国内で結婚相手を探すためのウェスミース城で舞踏会が開かれました。スコットランドの貴族子息たちは、なんというのか、ひなびていてとても結婚相手には考えられません。フランス貴族を見慣れているのでどうしても立ち振る舞いや、芸術的素養がないのが気になるのです。それに私より皆身長が低いのも難点でした。
「お久しぶりです、女王陛下」
話しかけてきたのは、背が高く、均整のとれたスラリとした身体つきをした、薄い色の金髪の美しい青年でした。
どこかで見た事があるような気がするものの、一瞬誰だったか、思い出せなかったのですが、隣にレノックス伯がいたので、思い出しました。
「まあ、ダーンリー卿、お久しぶりですね。随分立派になられましたのね」
「最後にお会いしたのは、私が15の時ですからね。あれから私は随分背が伸びましたので」
一瞬思い出せなかったのは、ばれていた様です。
仕方ありませんよね?視線の位置が全然違うのですから。
彼はダーンリー卿ヘンリー・スチュアート。私の従兄弟にあたります。彼の父親レノックス伯はスコットランドの貴族でスチュアート家の一員であります。レノックス伯はヘンリー7世の妹を母とするイングランドの貴族女性と結婚したので、イングランドとスコットランドどちらの爵位も有する貴族です。ダーンリー卿はイングランドの国教会にしたがっているものの、有力なカトリック信者でもあります。
色彩が変わっていないので、なんとか思いだせました。ダーンリー卿は髭がなく、男性らしくは無いのですが、それなりに鍛えているらしく、均整のとれた身体つきをしています。フランスやイタリアから最先端の流行が入ってくるロンドンっ子らしく、スコットランド貴族とは違って、趣味のよい服を着こなしていました。
「マダム、今日は踊って頂けませんか?私は背が伸びましたので、マダムとつり合うようになりましたよ」
ダーンリー卿はにこやかに微笑みを浮かべて、私をダンスに誘いました。
私はダンスが大好きなのですが、180センチある私と上手にダンスできる方は、スコットランドにそうそう居ないのです。ダーンリー卿は長身なので、私と釣り合いますから、楽しみになってきました。
「もちろん、喜んでお受けします」
私が答えると、ダーンリー卿はエスコートすべく、手を差し伸べてきました。私は彼の手を取り、二人でホールの真ん中に進みました。
皆の注目を集める中、私とダーンリー卿は何度も踊りました。私と上手く踊れる男性はシャトラール以来でしょうか。しっかり支えてくださるので、とても踊りやすい!難しいステップも軽々とこなしていました。
「ダンスがお上手ですね」
「ありがとうございます。体を動かすのが好きなのです。よく練習しているのですよ」
私が褒めるとダーンリー卿は笑いながら答えました。
ダーンリー卿はその日からスコットランドに留まることにした様で、しばしば私の宮廷にやってくる様になりました。
リュートを嗜むダーンリー卿は私と一緒にフランスからスコットランドに渡ってきた、音楽家のダヴィード・リッチョと親しくなり、一緒に音楽を演奏したり、クリケットの手合わせをしたりする様になりました。
教養のあるダーンリー卿は私と一緒にフランスからスコットランドに来た他の方とも、話が合う様で、私と極親しい者だけの集まりにも参加する様になりました。ダンスや詩や音楽が好きな彼は私と趣味があい、会話も弾むのです。
そんな風に、そつなく色々な方々と交際するダーンリー卿はスコットランド宮廷でたちまち人気者になりました。それになんといっても一番の美青年なのです。少々中性的な面は否めませんが、それを差し引いても美しい青年なのです。それに彼は私と同じ、ヘンリー7世の血統を引くイングランドの王位継承権を持っている、高貴な男性でもありました。
年下で中性的なダーンリー卿と接していると、私は亡くなった夫のフランソワを思い起こしました。頼りないけれども、私を心から愛してくれたフランソワ。あの頃の幸せだった日々。
「ダーンリー卿、ヘンリーとお呼びしても良いかしら?」
もっと親しくなりたくて、私は言いました。
「もちろんです。私もメアリー陛下とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
こうして私たちはお互いを名前で呼び合う仲になり、親しくなっていきました。
そして私はヘンリーとの結婚を考えるようになりました。