帰国3
それでも私はお義兄様とメートランドの助力でスコットランドを統治する事ができるようになってきました。フランスにいた時の様に私は美しく、快活でかつ勇敢に見えるように振る舞えば良いのです。国民皆の憧れに足りる女王として私は君臨しました。難しい政治のことはお義兄様とメートランドに任せておけば安心でした。エディンバラの人々もそんな私に満足してくれているようで、何処にいっても歓迎されました。
初めは険悪だったイングランドのエリザベス女王とも隣の国の女王同士で、しかも彼女は父の従妹なのですから、お義兄様やメートランドも勧めるので、少しずつ手紙のやり取りなどして、友好を深めていきました。あちらもこの方針には文句が無いようで、いちいち嫌味や嫌がらせの様な事をしてくる事はなくなりました。私のイングランド王位継承権についてははっきりさせておきたかったので手紙で再三確認をとったのですが、エリザベス陛下はうまくはぐらかすばかりで、認める気はないようです。まあ、今は良いでしょう。私の血統のほうが高貴なのはだれの目にも明らかなことなのですから。
そういった穏やかな日を過ごすようになっても、スコットランドの田舎臭さや貴族の争いの果てしなさといったものが嫌になってしまうこともあります。そんな時にはフランスから一緒にやってきた友人たちとフランス時代を懐かしみ、小さなフランス空間を作って楽しみましたゴブラン織りやトルコ絨毯、家具や絵などフランス風に飾り付け、その中ではフランス語でお話をして、フランス流に音楽を奏で、社交ダンス、仮面舞踏会などを催してみました。私はフランスから一緒に来た、詩人のシャトラールとペアになって異性の仮装をしました。私は格好よく男装し、シャトラールは美しい貴婦人に仮装したのです!シャトラールがあんまり似合っているので、私は彼をすっかり気に入って、ダンスの時やゲームのパートナーに指名したりしました。
シャトラールはフランス風の貴婦人を賛美する詩をたくさん私に捧げてくれました。素晴らしい出来だったので、私も彼に詩を送りました。それがいけなかったのか、彼は私の部屋に隠れて私を待ち伏せするようになってしまったのです。一度だけだったのなら笑ってすますこともできたのですが、何度も私の部屋に入り込み、私のベッドに隠れて、私の着替えまで隠れ見ていたのですから、さすがに不問にすることはできなくなってしまいました。
その日、着替えの最中にシャトラールを見つけた私は思わず悲鳴を上げてしまいました。私の悲鳴に隣の部屋にいたお義兄様が駆け付け、あっという間にシャトラールを取り押さえました。
「女王の部屋に隠れ、女王を害そうとしたのだから、この者は公然と贖罪させなければなりません。でなければ女王の名誉を害します。あなたが完全に潔白であると知らしめねばなりません」
お義兄様はこういいました。
公然と裁かれることになってしまうのなら、私には救いようがありません。彼が罪を犯したのは本当のことなのですから。
数日後、シャトラールは裁判で裁かれ、断頭台に連れていかれました。女王を害そうとしたのだから、どうしようもないのです。
「さらば女王!愛している!! 貴方はなんて残酷なんだ!!」
彼はこういって首をはねられました。
シャトラールは私を愛してくれていたと思っています。私はその愛には応えることはできませんでした。私は国民皆の憧れであるべき存在なのですから。そうであるならもっと彼とは一線を引いているべきだったのでしょう。懐かしいフランスを彷彿とさせるシャトラールは大事な臣下でした。もっと長く側にいてもらいたかった。