フランスへ
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『僕は助けたいんだ。こんな運命から何とか逃れさせたい』
夢の中で誰かが私に話しかけていました。
気が付くと、そこはどこかの城の大広間のようでした。
その大広間の中央には、黒い布でおおわれた処刑台がしつらえられていました。その上には、木の台が置かれていました。そのそばには、斧も用意されていました。
外は冬の朝、空は快晴でした。朝早くにも関わらずそこには大勢の人が集まっていました。
そして彼女は役人らしい男に連れられてそこにやってきました。彼女は黒のサテンのコートを羽織り、白の髪飾りとヴェールをつけ、背の高い、赤みの強い金髪の女性でした。彼女は堂々とした気品に満ちた女性ように見せるよう、精一杯頑張っていました。役人らしい男が何かを読み上げました。そして、彼女は司祭らしい男としばらく何かを話した後、一人で祈り始めました。
祈り終わると、彼女はコートを脱ぎました。下には真っ赤なドレスを着ていて、大勢の観衆は驚き、歓声を上げました。周囲がざわつく中、彼女に白い目隠しがされました。彼女はは跪き、台に首を乗せました。
処刑人は、ゆっくりと斧を振りあげると、彼女の首に向かっていっきに振り下ろしました。
その瞬間、目の前が真っ赤に染まって…。
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「首……あるわね」
思わず自分の首をさすって確認してしまいました。
何だか凄い悪夢を見ていました。しかも妙にリアルで、生々しく感じるのです。
船の揺れに慣れないせいでしょうか?
私はいまフランスからやってきたガレー船に乗っているのです。
祖国スコットランドを離れてお母さま、マリー・ド・ギースの故郷である、フランスに向かっているところなのです。
「陛下、お目覚めですか?」
声のする方を振りかえると、そこには4人の同じくらいの年頃の女の子がいました。皆わたしと同じような背格好の美少女ばかりです。
「ええ、おはようございます、皆さん」
メアリー・フレミング、メアリー・シートン、メアリー・ビートン、メアリー・リヴィングストンという私の侍女達です。
「顔色が良くありません」
「夢見が悪かったので、よく眠れなかったのでしょう。もう少し休みますね」
皆にそう言って私はもう一度横になりました。
先程の夢は何だったのでしょう?
誰かが処刑される夢?彼女を助けたいって、彼女とは一体どなたなのでしょう?
私はスコットランド女王、メアリー・スチュアート。生まれて6日で女王になりました。お父様がなくなり、スコットランドは混乱を極めていました。スコットランド貴族からの暗殺や、私を息子の婚約者にしてスコットランドを支配しようとするイングランド国王から逃れるため、フランスに渡るところなのです。今までずっと国内を転々としていて、休まることもない日々でした。夢見が悪いのも仕方ありません。
「ただの、悪い夢ね……」
私は一人呟いて、また眠りに落ちていきました。