諦観とエキス
具体的な仕事内容はまだ聞いてないんだろ?」
マークがレキに聞く。
「はい。あのー…今更なんですけど危険なお仕事…ですよね…」
「もちろん!とお〜ってもこわ〜いお仕事だよ」
からかったようにミッドナイトは言う。
「おい!脅かすな」
しかしレキはミッドナイトの言葉はあながち冗談ではないような気がして悪寒が走る。マークはレキの様子を伺うように続けた。
「俺たちの仕事はいわば『暗殺』だ」
「暗…殺…?」
耳鳴りがする。どうか聞き間違いであってほしいとさえ思う。レキはとんでもないところに足を踏み入れてしまったことに今になって気づく。
「わ…私…私には…」
間を入れずミッドナイトが口を開く
「死人に口なし…これ、どう言う意味か…わかる?」
ミッドナイトのおちゃらけた雰囲気は消え、代わりに身も凍るような殺気がミッドナイトを包んでいる。レキは恐怖で声が出なかった。それを見たマークはため息を吐く。
「まあそう固まるな」
レキの肩を優しくポンっと叩く。
「これは『法的に認められた殺し』だ。まあ、だからと言って安心できるわけではないが…」
「ほ…法的に…認められた…?」
「そうだよ〜」いつもの雰囲気に戻ったミッドナイトはお気楽そうに言う。
「要は俺たちは国家の犬〜、お役人様の汚れ仕事代理人〜…」
「いらんこと言うな間抜け」そう言い放ちミッドナイトを制すると彼も同じように少し殺気だったように続ける。
「もしここまで来て本当にやりたくないと言うんだったらこちらとしてもタダで返す訳にはいかない。こっちの世界を知ったまま外の世界に返すわけにはいかないからな」
言葉の一つ一つがレキの体を突き刺した。しかし感覚が麻痺して来たのだろうか、レキは威圧に体が慣れて来たようだ。
「…どうする…?」
薄笑いを浮かべながらミッドナイトは説いた。レキは静かに言う。
「…やります」
「まあ一択だよね〜」
「じゃあ話を進めるぞ」
淡々と進めるマーク。
「俺たちは上から与えられた任務をただこなせばいい。あとは絶対に守らなければいけない約束が二つある」
マークは2本指を立てた。
「まずは決して仲間を裏切らないこと。そしてもう一つは…」
レキは何か嫌な予感がした。
「どんな状況下でも任務を遂行すること。つまり…」
マークの言葉が詰まる。するとミッドナイトが代弁する。
「女子供、老人、友人、家族、誰だろうと依頼がきたら殺さなきゃいけないってことだよ。まあそんな任務ほとんどないけどね〜」
マークは渋々頷いた。
「…まあ、そう言うことだ」
「…」
「もっと怖気瑞ちゃった??」
「…いえ…暗殺と聞いた時から大方は想像していましたから…大丈夫です」
マークはその言葉を聞いて何か確信を持ったようだった。明らかにレキを見る目が変わる。
「…そうか。じゃあ正式に加入も決まったことだし明日から初任務だ」
「あ、明日??!」
「何をそんなに驚いているんだ?現場を体験するなら早い方がいい。」
するとマークは自分の内ポケットから小さなリングを取り出し、それをレキの手のひらに乗っけた。それはピアスほどの大きさで、黒く鈍い光を放っていた。ミッドナイトは言った。
「これは世に言うカードキーみたいなもんだ。このリングにはマイクロチップが内蔵されていて、これがないとこの部屋はおろか別の重要な部屋にも入ることができないから無くさないようにな」
「それね〜一人でも無くしたら全員分のリング作り変えなきゃいけないから無くしちゃダメだよ〜」
「まあこいつは数十回となくしているわけだが」
「何のことやら〜」
「死ね」
マークとミッドナイトがそんな話をしている間、レキは手のひらに乗ったリングをじっと見つめている。それを見たマークはミッドナイトとの言い合いを止めてレキに言う。
「無くすかもしれないのが不安か?」
「え?あ、はい…私鍵とかもすぐなくすタイプで…」
それを聞いたミッドナイトは思いついたようにいう。
「じゃあ挨拶がてら『あの人』のところで無くさないように加工してもらいに行こ〜」
「まあそれが得策だろうな。ついでに武器の申請も通しておくといい」
「?」
「仲間のうちの一人だ」
レキの表情を見てマークが言った。
「そうだよ〜。僕たちの機械担当、兼武器製作改造担当…コードネームは…」
「クリア」
Chapter4 End