裏切りと過去
「…ミッドフィルター…」
男は小さくそういうと、足早に教会の方に駆けて行った。しかし途中で止まると「一緒に行動しなきゃだった」と言い、レキが来るのを待った。
教会までの距離は近そうで遠かった。
ミッドフィルターが呟いた。
「雲行きがあやしいな」
その頃、ミッドナイトとクリアは…
「おかしい」
二人は教会の裏出口にいた。マークは腕組みをして唸っている。
「そうだねぇ」
ミッドナイトは壁によしかかり、いまにもターゲットに噛みつこうとする猛獣のような殺気を放っている。
それもそのはず、礼拝が終わっても来るべき牧師がこないのであった。
「上からの指令に間違いはないはずだ。下手に動くのも良くないがこのままここで待っているのも何も起きないだろうしな…さっきからリングの調子もおかしい」
「…ミッドフィルター達に聞いてみよう。きっとそっちの方が早い気がする」
ミッドナイトの目は鋭く冷たい。クリアは腕につけた時計に「MF」と文字をかいた。ミッドフィルターと繋がった。
「マークだ。そっちに何か変わったことないか。一向に牧師がこない」
ミッドフィルターとレキは一旦草むらの中に隠れていた。
「大変だよマークっ…えーと、マークさん」
マークは全て分かっているのか、つっかえつっかえ喋るミッドフィルターを気にしていない様子だった。
「今レキが『聞こえた』らしいんだけど…」
ミッドナイトの視線が揺らいだ。
「どうやら教会の鐘が壊れているらしいんだ。だからここには来ない」
「何?!本当かレキ?!」
「はい、そう聞こえました」
「おかしいな…そんな情報一切入ってこなかったはずだが…」
するとミッドナイトが素早くレキに聞いた。
「レキちゃん、今牧師はどこにいるの」
「…ちょっと待ってください…」
レキは耳を澄ました。クリアの作った武器の性能は素晴らしいものだった。目を瞑り耳を澄ますと、様々な音が聞こえて来る。しかしまだ使い慣れていないからなのか、聞き分けがなかなか出来ない。レキはさらに神経を研ぎ澄ます。
「…いた」
ミッドナイトが身を乗り出す。
レキが叫んだ。
「後ろ!!」
牧師の一振りが寸でのところでマークの頬と胸をかすった。牧師が手にしていたのは 斧。
「っな!?」
体勢を崩すマーク。
素早くミッドナイトがカバーに入り、斧を振りかざして無防備になった首に向けてハサミを抜いた。しかしそれを軽々しく避け、蹴りを入れる牧師。ミッドナイトは間一髪でガードしたが、打撃の重さに一瞬怯む。
その隙に躊躇なく踏み込む牧師ー。
牧師の動きが止まった。どうやらマークの『武器』のようだ。
少し喘ぎながら話すマークの顔は歪んでいる。
「貴様…その武器…」
牧師の顔は冷徹そのものだ。表情が全くもって動くことがなく、まるでロボットのようだ。ただじっと、自分の置かれた状況を観察しているようだった。
「…マーク。無理しなくていいよ」
「五月蝿い…」
するとミッドナイトはマークの背をハサミで刺した。正確にいうと「すり抜けた」のだが…。ミッドナイトがハサミをパチンッと打つと、マークは床に倒れこんだ。それを受け止め、ゆっくりとマークを床に伏せた。牧師はまた身動きが取れるようになると、すぐにミッドナイトに襲いかかってきた。しかし牧師はなぜか襲うのをやめたようだ。牧師の目にはミッドナイトが写っている。
ミッドナイトはゆらり ゆらりと体を揺らしながら起こすと、大草原を震撼させるほどの冷たい声で言った。
「…その武器どこで手に入れた」
牧師は初めて口を聞いた。
「サアナ」
カタコトの言葉が人外のイメージを強調させる。
瞬間。牧師の視界から消えるミッドナイト。牧師が身動きを取ろうとしたときには、すでにミッドナイトは牧師の首に刃先数センチを突きつけていた。牧師の首から真っ赤な血が首筋を通って滴っている。
「言え。さもなくば殺す」
「トリヒキダ オシエルカワリニ ワタシヲ タスケテクレ」
「…分かった。答えろ」
「コノブキハ オマエタチト オナジ ブキト イワレタ」
「へぇ〜。誰から渡された」
「…ヨウキュウニハ オウジタ タスケロ」
「お前に生きるという選択など毛頭無い」
ミッドナイトはそのまま一直線に腕を振り抜いた。迸る血、牧師は大きく背をそらし忌まわしい音を立てて床に倒れた。
地面には牧師の血が床を這って、ミッドナイトの足元にまで広がろうとしていた。
その血を汚らわしくあしらうと、ミッドナイトは冷たい笑みを零して呟いた。
「…また裏切るのか」
Chapter end