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鞘の魔法使い ーーコレクターデビルと魔力のコインーー

 

「サヤちゃん、今入っていい?」

 ベッドの上に、サヤと呼ばれた少女がいた。

 その体は見るからして貧弱で、たくさんの傷跡もあり、まるで誰かに虐待でもされたのようだ。

 そして、サヤは一つのコインを弄んでいる。

 コインにスライムの顔が彫られてある。

「……いいよ、リーフ」

 ドアを開けてもう一人の少女が入ってきた、サヤと同じような歳、十八歳に見える。

 その少女の名はリーフ、サヤの一番の友人だ。

 リーフは一つのでかい袋を持ってきた。

 リーフが動くたび、袋の中のコインに音がする。

「今日の治療をしよう」

 そう言って、リーフは袋の中のコインを取り出した。

 そのコインはサヤが先弄んでいるコインと同じ、スライムの顔が彫られてある、少し表情が違うけど。

 リーフはコインをサヤの体に当てて、強く念じた。

 そうしたら、コインが光りだして、しばらくすると、光が消えた。

 袋の中のコインが使い切るまで、それを繰り返した。

「どう?」

 リーフが心配そうでサヤに視線を投げた。

「やっぱりだめ……」

 サヤが首を左右に振って、落ち込んでいる。

「サヤちゃん、何かを食べに行こっ?」

 もう一度首を振って、サヤはコインを睨み続けた。

 気まずいと思って、リーフは退室した。

 これが今の二人の日常だ。

 二人は前途ある魔法使い、しかし……

 サヤに魔力がなくなっていた。


 乱世!

 かつて人間が力を持つ時代が過ぎ去り、今はまさに……

 魔の時代に突入しようとしていた!

 魔物が暴れ、人間たちが隠れる場所を探す!

 闇の時代が始まろうとしていた!

 原因も簡単だ。

 スライムの王・カネシゲが人間最大の魔法都市を襲ってから、まるでそれと同調しているかのように、魔物たちが立ち上がった!

 魔王なき今でも、人々に恐怖を与えようとしていた!

 混沌!混乱!そして競争まみれのーー

 そんな時代が!

 始まった!

 ……

 そんな現実と無関係かのように、ここは弱小な魔物しかいない辺鄙な地ーーコイン村。

 魔物の魔力を圧縮して特殊なコインを作り出す技術を持ち、知る人ぞ知る魔法使いの村だ。

 そして、友達のサヤの魔力を取り戻すため、リーフがここへサヤを連れてきて治療をしていた。


「もうコインが作れない?!」

 たまたま出会った村長の話を聞いて、リーフが焦っていた。

 コインが作れない、つまりサヤの治療もできなくなるということだ。

「どういうことですか!コインが作れないなんて……」

 もしこのままコインが作れないなら……

 当然サヤの治療もずっとできない!

 魔力が戻らない!そしてサヤのその体では、体力を使う仕事もできない……

 廃人化してしまう!

 コインが作れない=廃人になる!

 夢も未来もなくなる!

 焦り、ストレス、色々感じながら、リーフは村長に迫る。

(サヤちゃんの魔法使いになる夢を終わらせてはいけない!)

「落ち着け、リーフよ、仕方ないことじゃ、なんせ……」

「コレクターデビルが出てしまってのう」


 コレクターデビル!

 名前からして、悪魔の一種に聞こえるが……実際そうだ!

 物を集めるのが好きで、狙った獲物は離さないという上位悪魔!

 世界各地に魔物が暴れてる今は、悪魔が出るのは別におかしくはない……

 しかし!こんな辺鄙なところまで上位の魔物が出ることはつまり……

 魔物たちがもうそこまで迫っていることだ!

 この村に戦うか逃げるか、二つの選択に迫られているということだ!

 戦争の予感!

 死の匂いが漂っている!

 もうコインなどを作る場合ではない。

(待て……これはもしかしたら……?)

 その時リーフに浮かぶのは、一つの想像。

(逆……これは逆に……)

(……チャンス?)


 サヤのの魔力はずっと戻らなかった。

 カネシゲとの一戦で負った傷は奇跡的に少しづつ回復したのに、失った魔力が戻ってなかった。

 魔王の遺体を失った影響なのか?

 それともカネシゲの魔力の影響か?

 答えは知らず、普段落ち着いていて、最初の頃はポジティブな思考を持つサヤ自身すら焦っていた。

 そしてコイン村にある魔力のコインの噂を聞き、たどり着いた。

 ……が、だめ!

 コインの魔力を注入しても、魔法を使える時は注入した一瞬だけ。

 諦めずに、リーフは色々試したが、どれもだめたった。

 いつの間にか、サヤは何も言わなくなった。

 このまま、終わってしまう……そう思った時。

 コレクターデビル!

 上位の魔物の噂……

 本来なら、良くない噂だが……

 リーフには希望が見えた。

 かすかな、いつでも途切れそうなちっぽけな希望……

(もし、上位の魔物を倒せたら!)

 スライムのような弱小な魔物とは違い、魔力の質も量も圧倒的に上回っている上位の魔物を狩れたら……!

 質の高い魔力のコインができるかもしれない。

 そのコインで、サヤを救えるかもしれない。

 都合のいい幻想……

 それでも、リーフは思う。

(する価値はある!)

 親友を救うための、命を賭ける行動……

 その価値あり!


 サヤを騙そう!

 リーフは思った。

 悪魔を狩るのは危険極まりない行動だ。

 もし知られたら、止められるかもしれない。

 もしかしたら、こっそり付いてくる可能性もある。

 そのために騙す!嘘をつく!

 一人で悪魔を狩りに行く!

 一人で……

「……どうしたの?リーフ、顔が暗い」

「うわぁ!べっ別にいつも通りでしょ!」

 怪しいったらありゃしないが、リーフの精一杯の演技だ。

 奇妙な目でリーフを見ているサヤに、リーフが頭を横に振った。

 怪しい!

「……わかった」

 沈黙に落ち、サヤは隣の本を読み始めた。

(よかった〜〜バレなくて……)

 否、実はバレている!

 いつも側にいる親友の考えなんて、サヤに読めないはずもない。

 しかし、サヤに力がない今では、どうしようもない!

 認めるしかない……リーフのその暴挙を!

 自分も乗るしかない!その泥船に!

 顔に出さずにいたが、サヤの心の中に今あるのは……

 不安しかない!


 不安に包まれ、一晩が過ぎた。

 サヤを起こさないように気をつけ、リーフは準備を整えている。

 準備と言っても、特別なことはなく、ただただ覚悟を決めること……

 討伐に行く覚悟を!

 それはそうと、まだまだリーフは気づいてない。

 だからか……

 いや、気づいたにしてもだ。

 あれに対応できるのか?

 とにかく、こうして、リーフは気づかずに、小屋を出ていった。

 村に染まっていたその妙な静寂に気づかずに……


 朝の村は静かだ。

 仕事をしている人もいないし、買い出しに行く婆さんたちもいない。

「……?」

 早起きな人もなく、みんなはきっと引きこもりか夜でしか起きないタイプに……

「なるわけない!」

 そこでやっと、リーフは気づく。

 村に起きた異変に!

「なんで誰もいないの!普段は……」

 普段のコイン村は騒がしいまでは言えないが、それなりににぎやかな村だ。

 しかし今は、まるで廃村……

 人気も!声も!音も!

 生きてるものが感じられない!

 生気がない!

 死んでいる村!

 それはもう、はっきりとした……

 異常だ!


 村は異常に落ちている!

 その事実に対して、リーフは考えをめぐる。

(先に村を調べる?いや、それより……)

「サヤちゃん!」

 異常を親友に伝えるべく、リーフは足を運ぶ。

 運ぶ……?

 いやいや、それはない。

 それどころではない。

 異常の正体はもうそこに、近づいているのだから。

 そもそもだ。

 もしこれは村の全体を目標とした攻撃なら……

 次に襲撃する相手はもう決まっているだろう。

 友のことで頭がいっぱいで、隙きだらけの少女なんて……

 絶好のカモでしかない!


 襲う……襲ってくる!

 リーフを襲う!

 誰がって?

 そりゃ……

 悪魔に決まっている!

 例のコレクターデビルに決まっている!

 リーフの後ろに現れたその黒い影……

 手に持ったハンマーを振り落とす!

「あんたね、村を襲ったのは」

 悪魔は驚いた。

 襲うことに気づくのも驚いたけど、もっと驚いたのは……

 その少女に、自分の攻撃を防ぐ術を持っていることだ。

「魔力を隠すのに上手みたいだけど、流石にこの距離は……」

 リーフがいつの間に座っていて、手を土の中に詰め込んだ。

 そしてリーフの周りに変な土人形が生えてきて、ハンマーを防いだ。

 他物に自分の魔力を注ぎ込んで、暴走させてからコントロールする……

 リーフのオリジナルの魔法だ。

「気づくし、そしてわたしの魔法ーークッキー・サクリファイスの……」

 コレクターデビルがハンマーを抜こうとしたら、抜けなかった。

 そして、気が付くと、周りにたくさんの土人形が生えてきて……

「射程距離内!」

 襲ってきた!


 コレクターデビル!

 悪魔の中でも上位で、地位も力もある悪魔。

 ハンマーと角が特徴の外見で、物を集めるのが大好きだ。

 あるものは石を集める。

 あるものは食べ物を集める……

 いろいろあるけど、その集める物には共通の特徴を持っている。

 それは、何かの死体から自分で作ったものだ。

 そして、このコレクターデビルの集める物はコインだ。

 人の魔力から作られたコイン……

 それが大好物だ。

 作る方法って?

 それは……


「ゴールド・ハント」

 人形たちは襲いかかった……が。

 今はどこにもなかった。

(どういうこと……?)

 リーフは混乱に陥っていた。

(人形たちはどこ?攻撃したのになんで消えた?そして、あれは……?)

 人形たちは消え、代わりに地に何枚のコインが落ちていた。

 そして、コレクターデビルの手には、金色に輝くハンマーが握られていた。

「ゴールド・ハント!我々のオリジナルの魔法だ」

 コインを拾い、コレクターデビルは気持ち悪い笑顔を浮かんだ。

「魔力も、物質も、命も、何もかもが……」

(……逃げなきゃ!)

 小さく念じて、魔法の風を起こし、リーフは風に乗って逃げようとしたら……

「このハンマーの前では無意味なのだ!」

 魔法の風は消え、リーフは地に落ちた。

(嘘よ!そんな……)

 振り返ってみれば、コレクターデビルがハンマーを振ったことがわかる。

 それで、魔力の流れが断たれたこともわかる。

 さらに……

「死ね!」

 死にかけている現実も!

 コレクターデビルのオリジナルの魔法は触れたものへの現実改変!

 その前では、空気の流れすら許されない!

 絶体絶命!


 死ぬ!

 死にかけている!

 リーフの魔法が効かないようじゃ、倒すどころか……

 逃げることすら困難なのだ!

(なんで……こんなことに……)

 絶望!決定的に絶望!希望がない!

 為す術もなく!

(結局……わたしは……何も……)

 殺される!

 犬死に!無駄死に!

 残酷で!あっけなく!

 このまま消え……

 去り……

 ……?


 リーフは生きている。

 彼女に振り落とすそのハンマーは、止まっていた。

 止まった、というより……

 止められた?

 ハンマーを振り落とさずに、コレクターデビルは沈黙になった。

 リーフはすぐ気づいた。

 この異変、意外な出来事の原因に……

 コレクターデビルの顔に、馬の糞があった。

 っていうか、投げつけられた。

 視界を広げると見えるようになる……

 馬の糞を投げたサヤの姿が。


(この隙きに!)

 馬の糞に気を取られてるその隙きをとって、リーフは再び魔法の風を起こした。

 奇妙なのは、コレクターデビルに動きはなかった。

(助かるのはいいけど、反応なし……?)

 風に乗ってサヤの隣につくリーフは、不思議に思う。

(止めようとすらしないの?)

 コレクターデビルがやっと動き出したのは、数秒後のことだった。

 顔についてる馬の糞を手でとって、それから土で顔を洗い出した。

「……だめだ、きれいにならん……」

「水で洗わないと……」

 そこでやっとコレクターデビルはサヤたちに顔を向けた。

「て……」

(て?)

「てめぇらの血で洗うわ!」

 コレクターデビル、暴怒!


 激!超!限度以上に!

 怒っている!

 コレクターデビルが!

 敵が!

 悪魔が!

 怒っている!

 馬の糞のせいで!

 怒りに身を任せ、コレクターデビルはサヤたちの方向に走り出した。

「や、やばい!速く逃げないと!」

 魔法の準備をして、逃げようとしたリーフだが……

「違う、リーフ」

 止められた。

 リーフの手を掴んで、サヤは言った。

「逃げるんじゃだめ、それこそ墓穴」

「何言って……」

「もう覚悟決めてるでしょ、あいつを狩るって、それに……」

 それに、仮にここを逃げられたとしてもだ。

 世界中に魔物たちが暴れてる今は、どこへ行ったって一緒なんだろう。

 逆にだ!

 ここでコレクターデビルを狩ることが、サヤの魔力を戻す、最後の機会かもしれない!

 逃げてはだめだ!

 リーフは気づいていない!

 ここで逃げたら、先に待つのは死しかない!

 この機会を逃してはいけない!

 勝って進む!

 ここはすでに地獄の底なのだから!

 コレクターデビルこそが、最後の希望の糸なのだから!

 戦うしかない……

 二人で!


 悪魔を狩る!

 ……って言っても。

「どうやって戦うのーー?」

 必死に考えているけど、リーフにいい案が浮かばなかった。

 彼女のような魔法使いにとって、魔法を封じられてはどうしようもない。

 あの魔法を消すハンマーに対応できない限り、勝ち目はない!

「リーフ!クッキー・サクリファイスを!」

 サヤがリーフに言葉を投げるけど、リーフはどうするべきかわからなかった。

「無理だよ……サヤちゃん……わたしの魔法はあのハンマーに効かない……!」

 絶望!リーフの心に大きな絶望が!

 勝てないという幻想が!

「違う、リーフ、ハンマーじゃない」

 リーフの手を自分の体に当て、サヤは覚悟を決める!

「使う対象は私!」

 リーフのクッキー・サクリファイスは、魔力を注ぎ込んで、暴走とコントロールをするオリジナルの魔法……

「私に魔力を注ぎ込んで!」

 もしかしたら人に使ったら副作用があるかもしれない……

 もしかしたら失敗するかもしれない……

 しかし……

「クッキー・サクリファイス!」

 やるしかない!


 サヤには悪夢のような記憶があった。

 一年前の時に……

 カネシゲと対峙した思い出があった。

 魔法都市の王城を容易く壊滅にしたスライムの王……前に立つことすら難しいのだ。

 泡のような儚い思い出だが、寝るたびにそれらが蘇ってくる。

 自分の体がスライムのような液体に溶ける痛みも……

 カネシゲと魔王の遺体が融合した時の絶望も……

 そして、何よりも忘れないなのは……

 刀……

 自分の体が変化するその感触……

(それっきり、使ったことのない……)

 サヤのオリジナルの魔法!


「無駄無駄!てめぇらが何をしようと!」

 サヤとリーフの妙な動きに気にせず、コレクターデビルが突っ走った。

 コレクターデビルが向かってくるのを見て、サヤはスライムのコインを取り出した。

「素材はこれでいい……」

 リーフの魔力をそのまま受け取ったからか、サヤは明らかに調子が悪い。

 それを見て、コレクターデビルは笑った。

「決めた!てめぇが先にーー」

 そしてそこでやっと!

 コレクターデビルが二人の前に着いた!

「ーー逝け!」

 コレクターデビルがハンマーを振り落とすと同時に、サヤはリーフを突き飛ばした。

「サヤちゃん!」

 それから、ハンマーがサヤを……

 押しつぶすように見えた。


 サヤが押しつぶされた!

 終わり!絶望!死!

 そんなエンディングが訪れた!

 ……ように見えた。

「クククッ……ウクククク……ザマァミロー!」

 ハンマーを降したまま、コレクターデビルは気色悪く笑い出した。

「わが顔に糞を塗った報い……だ!」

(そんな……サヤちゃんが……)

 悲しく思うはずのリーフだけど、なぜか悲しみではなく……

 違和感だった。

 得体の知れない違和感……

 何かがおかしいという直感。

 まだ終わってないと、感がリーフに教えている!

「さーて!どんなコインになったのかね〜〜?」

 コレクターデビルはハンマーを上げた。

「た〜の〜し〜み〜だ〜ね〜!」

 そこには、サヤもコインも……

 いなかった!


 サヤがコインにされてない!

 しかしサヤの姿も見当たらない!

 っていうか、あそこにあるのは……

 地にピッタリハマってる一本の鞘入りの刀だ!

 穴でも掘ったかのように、その刀はちょうどハンマーに触れなかった位置にある。

「は?」

 コレクターデビルは戸惑っているけど、リーフ違った。

 リーフには見たことがある!似たような状況を!

 そして、刀の正体も……

 彼女は知っている!

(カネシゲとの戦いで使った、サヤちゃんのオリジナルの魔法だ!)

 あらゆる物を素材にして、刀を作り出し、そして本体が鞘になる……

 それがサヤのオリジナル……

 刀作りの魔法だ!

(しかし……おかしい……あの時と何かが違う)

 違和感の正体は、リーフはすぐにわかった。

(使い手がいない!)

 そう、カネシゲとの戦いの時に、サヤは自分と融合した魔王の遺体に生み出された分身を操って戦った。

 傷を負ってもすぐに直せる上に、人間を超えた身体能力を持つ、まさに最強の剣士だったが……

 遺体が消え去った今、分身を生み出せない!

 剣士がないと……

 武士がないと……

 刀に意味もない!


 サヤのオリジナルの魔法の発動だ!

 しかし!サヤの刀を扱う剣士がない!

「もうだめ……それじゃ意味が……」

 その時、サヤの声がした。

「リーフ」

「サヤちゃん!どっどうしよう!このままじゃ……」

「あなたがわたしを使うのよ」

 そして、リーフがやっと思い出した。

 サヤの魔法がまだ終わっていないことだ!

(たしかに……サヤちゃんが分身を操るために使ったのは……)

 刀から謎の黒い液体が湧き出して、まわりを散らした!

 コレクターデビルがさらに混乱したその時に、黒い液体がリーフをーー

 包み込んだ!


 リーフが黒い液体に包まれた!

 その中で、リーフは感じた。

 自分が溶けて、黒い液体と一体化していることに!

 それから、黒い液体とともに姿を変え……

 黒いサヤになったのだ!

(奇妙な気分……まるで、サヤちゃんと一人になったみたい……)

 みたいではない。

 リーフとサヤは一人になった!

 精神も体も!

 そして、黒い液体で再構築したその体も、人間以上のパワーを出すことができる!

 気がつけば、刀もいつの間にか黒い液体に連れてこられて、腰に刺さっていた。

 これがサヤのオリジナルの完全体!

 最強の剣士を作り上げる魔法!

 ミラクルソードだ!


 最強の剣士が誕生した!

 魔力のコインで作られた刀を持つ、無敵の戦士!

 実際その実力は、魔王級の実力を持つスライムの王・カネシゲに匹敵するものである!

 ……今融合しているのはただの少女だからそれほどでもないが……

「なんだ?てめぇ?」

 黒いサヤを見て、コレクターデビルはわけわからなくなっている。

「急に刀が出たり汁を出されたり合体もしたり……わけわからん!わからんが……」

「死ね!」

 コレクターデビルが襲いかかる!

「どんな姿になっても、このハンマーの前では無意味!」

 黒いサヤを叩き潰すと!

 戦闘開始!


 再び戦闘開始だ!

 黒いサヤVSコレクターデビル!

 最強の剣士と上位の悪魔!

 どっちが先を取る!?

 それは……

「ゴールド・ハント!」

 金色に輝くハンマーを振り回し、コレクターデビルは大笑っている。

「死ね!死死死死死死死死死ね!」

 ハンマーが黒いサヤに触れようとした時、それが起こった。

 何が起こったって?

 ん〜〜〜音?

 音がした。

 どこまでも響きそうな、音響が……

 音の発信元はもちろん、黒いサヤだった。

 どうしてこんなにでかい音が鳴るのだろう?

 それは、多分……

 速いからだ。

 ハンマーは黒いサヤに触れず、あらぬ方向へ飛んでいった。

 そしてコレクターデビルの腕が、黒いサヤに斬られて、地に落ちていた。

「斬った」

「は?」


 コレクターデビルの腕が斬られた!

 ハンマーが触れる前のその一瞬で、斬られてしまった!

 それから、黒いサヤは音にも劣らず速度で、ハンマーを避けて……

 コレクターデビルの後ろに立った。

「は?」

 自分の落ちた腕を見て、コレクターデビルが絶句した。

「……」

 黒いサヤが身を構えて、次の攻撃に備えている。

 コレクターデビルが黒いサヤに視線も投げずに、自分の腕を眺めた。

 そして、涙が落ちた。

「われの……腕が……こうも……容易く……」

 それから……

「役立たずめ!」

 自分の腕を踏み潰した。

「どうしてもっと丈夫に生えてこないんだ!くそが!てめぇのせいでよー!」

 黒いサヤが急に感じたのは、殺気だった。

「コレクションのコインを使わざるを得ないのではないか!」

(まずい!)

 黒いサヤがヤバイと感じた時……

 コレクターデビルがすでにコインを取り出し……

 噛み潰した。


 コレクターデビルがコインを食べた……

 食べたと!そしてそれはなんのためかというと……

 自分を強化するために違いない!

 コレクターデビルがコインを食べた途端、斬られた傷から手首が再生し、さらに全体の魔力が増幅した。

 コイン一枚で全回復な上に強くなった!

「ゴールド・ハント!」

 コレクターデビルが再び魔法を使うと、その手に新しいハンマーが生み出された。

 そう、仮にもコレクターデビルは上位の悪魔……

 そうそう簡単には倒せない!

 完全復活!コレクターデビル!

 コインの数だけ命がある!


 コレクターデビルが復活した!

 さらなる成長を持って!

 もっと強く!速く!凄まじく!

 なってしまっているのだ!

「死ねーーーーー!」

 先よりも一倍速くなったスピードで、コレクターデビルは黒いサヤに襲いかかる!

 無敵のハンマーとともに!

「うっ……!」

 しかし、その能力はまだ黒いサヤに追いついていない!

 一瞬の後、コレクターデビルの両腕ともが斬られて落ちた。

「クククッ……思ったのか〜〜?」

(やつが臆してない!)

「腕がないと、コインが食えないと〜〜」

 コレクターデビルの体に急にコインのような突起部分が湧いて、そしてその部分がやつの口元に高速で移動したら……

 コインを噛み砕く音がした!

「思ったのかよ〜〜〜〜!」

 コインが体中に仕込まれてあった!

 その数はなんと、百枚以上!

 絶体絶命の大ピンチ!

 コレクターデビルが倒せない!


 コレクターデビルの体内にもコインが仕込まれてあった!

 復活できるチャンスはなんと、百回以上!

 一回につき、一倍強くなれるというのなら……

 百の命と百の強さ!

 まさに無敵!

 しかし、一見最強の黒いサヤは魔力元のリーフの魔力がなくなった時点で解除され、元に戻る!

 つまり戦えば戦うほど不利になる!

 ってどころか、実際今、サヤたちは……

 詰みかけている!

 しかし、それでも……

 戦うしかない……

 悪魔と!


 全力で、コレクターデビルを半分に斬った。

 復活された。

 今度は頭に直線攻撃で、穴を開いた。

 復活された。

 狂ったように斬りまくれば……

 復活しまくった!

 そして、倒せば倒すほど……

 倒しにくくなっている!

 いつの間にか……コレクターデビルはもう……

 黒いサヤの動きに対応できるようになっている!

 確実に!

 戦いの結末が近づく!

 誰かの死を持って!


 終わりが近づく!

 戦いが終盤になっている!

 しかし!なんという不幸!それとも運命か?

 黒いサヤがミスってしまった。

 原因は不明だが、コレクターデビルの前で……

 足を滑って転んだ。

 コレクターデビルにとって、絶好のチャンス!

「てめぇの負けだーー!この愚図剣士!」

 凄まじい速度で、コレクターデビルがハンマーを振り落とす。

 黒いサヤは……刀でガードしたように見えた。

「バカメ!わがゴールド・ハントの前では、そんな刀など無意味!」

 まさにその通り!

 刀ではハンマーを防げない!

 それはサヤたちが百も承知!

 その結果、刀が押しつぶされた!

 ハンマーが地面につく!

「ん〜〜〜〜!」

 決着……

「勝った!やった!われの勝利だ!」

 ……

「てめぇらのコインは後でゆっくりゆっくりとよ〜〜」

 ……

「舐めながら食うぞ〜〜!」

 ……?


 コレクターデビルが勝ち誇っている!

 自分の勝利に酔っている!

 無理もない、実際、やつにとって、これは生まれて初めて出会った強敵、死と直面する戦い。

 喜ばずにはいられないのだ。

「どんなコインになったのかね〜〜」

 ハンマーを上げると、そこには一枚のコインがあった。

「合体したから一人分か、損したなーー」

 コレクターデビルが冷静であれば、気づくのであろう。

 しかし、勝ちに酔っているコレクターデビルは、そんな余裕もない。

「どんな顔で死んだのか見せてもらうぞ!」

 コインを拾って逆さまにしたら、そこにはスライムの顔をが彫られてあった。

「あ?」

 そして、コインが落ちた地面の下には……

 穴が掘られてあった。

「……クッキー・サクリファイス!」


 スライムのコイン!地面の穴!そして後ろから聞こえるクッキー・サクリファイスの声!

 説明していることは一つだ!

 黒いサヤは液体なので、細い穴でも通過できる。

 そして、穴を掘ることも。

「われの……後ろに……」

 振り返ると……

「穴掘って逃げたのか!」

 黒いサヤがコレクターデビルの体に手を突っ込んで、クッキー・サクリファイスを発動したのがわかる。

「違う、逃げたのじゃなくて……」

 クッキー・サクリファイスは魔力を送り込んで、暴走とコントロールをする魔法。

「勝負に出ただけ」

 黒いサヤの魔力がコレクターデビルの体内をめぐり、コインたちにたどり着く!

 それから、コインの魔力構造を干渉して、狂わせて……

 元の構造に戻す!

 コレクターデビルのコインたちが姿を変え……元の人間に戻ろうとしている!

 百以上のコインが一気に元に戻ったらどうなるか……言うまでもない。

 コレクターデビルが爆裂四散!

 死に決まっている!

「う、嘘だ〜〜!」

 体が崩壊していく中、コレクターデビルは絶望の顔つきになっている。

「勝ったのに〜〜!殺したのは、われなのによ〜〜!」

 そして!

「逆に殺」

 死に至った!


 コレクターデビルの死体の隣に、魔力と体力が尽きた二人が横になっている。

「よかった、村人たちが元に戻って、意識がまだ戻ってないみたいけど」

「うん」

「これであいつの死体でコインを作って、サヤちゃんの魔力を戻せるかもしれない」

「……そうね」

「でも、仮にサヤちゃんの魔力が戻ってなかったら……」

「そうなったら、リーフはもう私から……」

「そうなったら、わたしがサヤちゃんの魔力になるの!」

「え」

「わたしが一生懸命頑張って、二人分の魔力を持つ大魔導師になって……」

「……」

「一緒に世界中を旅立とう!」

「……リーフ」

「……」

「ありがとう」


 ……

「皆殺しにしてやる!」

 街の真ん中に、一人の魔物が暴れまくった。

 逃げていく人たちを見て、魔物はゲスな笑顔を浮かべている。

「はっはっはっー!」

「やめて」

 魔物の後ろに、声がした。

「あ?」

 振り返ると、二人の少女がいた。

「何だお前ら、死にてぇのかよ」

「迷惑なのよ!こんなところで暴れて!」

「うるせぇ!死ね!」

 魔物が攻撃したら……

 いつの間にか体がバラバラになった。

「あれ……お前ら……何……もの……」

 二人の少女はすでにいなく、ただ一人の黒い少女が白い鞘の刀を持つ後ろ姿だけ見えた。

 世界中を旅する謎の黒い少女……

 鞘の魔法使いと自ら名乗っていた。



実は鞘の魔法使いという作品の続編ですけど、なるべく前作読まなくても読めるように仕上がってみました

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