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リフレット村 その3

      ◆


 建物の裏に積み上げられていた藁を飼育場に敷き、そこにブルホーンを入れる。


 新しい環境に慣れていないのでまた暴れると思ったが、研究所よりも広い場所であることがわかると機嫌良さげに入っていった。


 繊細な奴だと思っていたが、案外と図太いのかもしれないな。


 ブルホーンが落ち着いたところで、俺はリスカと共に馬で村に向かう。


 牧場と村の中心地までは馬でニ十分くらいかかる。


 魔物を育てる牧場である以上、魔物や村の住人に配慮してそのくらいの距離は必要だ。


 そのせいか俺の牧場の周りには見事なまでに民家がない。


 とはいえ、俺には馬があるのでそのくらいの時間で買い物に行けるなら大丈夫だろう。


 騎士団の遠征で出かける時は何時間も馬に乗りっぱなしだったので、それに比べると苦でもない。


 リスカの乗ってきた小さめの馬、ポニーに合わせて並走すること二十分弱。俺は故郷であるリフレット村の中心地へと戻ってきた。


 木造式の小さな民家がまばらに並び、辺りには村人が洗濯をしていたり、談笑をしていたり、子供達が走り回ったりしている。


 王都に比べると建物も人も喧噪も少なく、ゆったりとした時間が流れていた。


「どう? 懐かしい?」

「ああ、そうだな」


 何てことのない民家や道、人であっても懐かしく感じられる。


 王都に発つまでの間は、ずっとここで暮らしていたんだなぁ。


 俺は穏やかな気持ちになりながら馬をゆっくりと進める。


「おお、アデルじゃねえか! お前、本当に帰ってきたんだな!」

「おっ、もしかしてデルクのおっさんか? 老けたなぁ」


 声をかけてきたのは、近所に住んでいたブドウ農家のデルクさんだ。


「おーい、そんなこと言っていいのか? お前が生まれた時に作った二十五年物のワインが残っているんだけどなぁ」

「デルク兄さん、相変わらず若々しいですね。これから父上と母上と会いに行くので、是非とも頂きたいです」

「けっ、相変わらず調子のいい奴だ。ワインならアルベルトに渡してあるから、さっさと会いに行ってやれ」

「んだよ、へりくだって損した」


 ワインがないなら無理してお世辞を言う意味もなかったな。騎士時代に学んだ技術を生かして丁寧な所作までしたのに。


 適当にデルクのおっさんに返事をして俺が馬を進めると、隣りにいるリスカが凝視してくる。


「ん? どうしたリスカ?」

「なんだかさっきのアデル兄ちゃんが騎士みたいだった」

「いや、そりゃ元騎士ですから」


 お前は俺が王都で何をしていたと思っているんだ?


 魔法騎士は貴族や王族の護衛を任されることも多いから、ある程度の礼儀作法を習得しておかないと不敬とか言われて怒られるんだぞ。


「あはは、そうだったね。なんかアデル兄ちゃんって騎士みたいな感じじゃないから」

「何だよそれ」


 じゃあ、父さんや母さんに会う時は、騎士らしくしようか。などと思ったが、俺は別に騎士だと言われてもてはやされたいわけでもないし、面倒なのでこのままでいいか。


「しかし、ここはあの頃と変わらないな」

「うん。でも、人は変わったよ。あそこにあった薬屋のマルタお婆ちゃん、覚えてる?」

「ああ、小さい頃はしょっちゅう怪我してたからな。マルタ婆さんに傷薬を塗ってもらったよ」


 魔力があることがわかった俺は、将来は騎士になってお金を稼ぐと小さな頃から決めていた。


 そのため、流れの冒険者や自警団の人に教わって剣の稽古をしたり、一人で練習したりしていて色々なところを怪我したものだ。


「マルタ婆ちゃんは元気か?」

「ううん、三年前に亡くなっちゃった」

「……そっか」


 しょんぼりとしながら言うリスカの言葉に、時間の経過を思い知らされた気がした。


「でも、今はマーサさんと孫のリーアちゃんが跡を継いでやってるよ」

「リーアって、よくお前の後ろにいた鼻水垂らしてた子供か?」

「気持ちはわからないでもないけど、その言い方はちょっと酷いよ。女の子なんだから」

「すまん、ちょっと驚いて」


 そうだな。デルクのおっさん、マルタ婆さん、リーアだけでなく、皆が変わっているのだ。


 俺がいた時に赤ん坊や小さな子供であっても、もう立派に大きくなっているのだろう。


 嬉しいような悲しいような。どこか複雑な気持ちになった。


 どこか不思議な気持ちを抱えながら、かつての知り合いに声をかけては返事を繰り返し、俺は懐かしき我が家へと帰ってきた。


 家の前には既に情報を聞いていたのか、父さんと母さんが立っていた。


 短い黒髪に両腕を組んでいるのが父であるアルベルトだ。


 記憶よりもシワが多くなっており、少しおじさんっぽくなっている。


 隣にいるツヤのある長い黒髪の女性が母親であるスリヤだ。


 こちらも記憶にあったものよりもシワが――あれ? ちょっと母さん、おかしくない? 昔と全然変わってないんだけどどうなってるんだ?


 九年前とまったく変わらぬ母に動揺しながらも、俺は馬からゆっくりと降りる。


「父さん、母さん。ただ――いっでえ!」


 感動の再会かと思いきや、愛しき父がくれたものは涙や歓迎の言葉でも抱擁でもなく、力強い拳骨だった。


「いきなりなんだよ!」

「まったくバカ息子が。帰ってくるのが遅いんだ。騎士団に入団したと送ってきたきり、まったく手紙も出さずに」

「いや、それについてはごめんって。というか帰る前に出しておいた手紙でも謝ったじゃん」


 ここに魔物牧場ができるまでの間、一度レフィーアが直接赴いて、下見などをやってくれている。


 俺は一刻も早く魔物の知識を詰め込む作業があったので下見には来ていないが、その時にちゃんと彼女に手紙を託したのだ。


「あんな文字での謝罪だけで許すか」

「まあまあ、お父さん。せっかく帰ってきてくれたのだから、怒らなくてもいいじゃない。ね?」


 さすがは母さん。わかってる。


 相変わらず優しい心を持っている母に涙が出そうだ。


「フン、まあ、これからはこっちにいるんだろう?」

「あ、うん」

「ならいい」


 父さんはそう短く返事をすると、家の中へと入っていった。


 それだったら別に俺の頭に拳骨を落とさなくてもよかったのでは?


「ふふふ、あんなこと言いながらアデルが帰ってくるって知って一番喜んでいたのよ? 今日だって一緒にお酒を呑みたいからデルクさんから――」

「いつまでそこにいるんだ。早く入ってこい」


 母さんが悪戯っ子のような笑顔で暴露していると、家の中から父さんの声が響いてきた。


「あらあら、怒られちゃった。さあ、中に入りましょうか。よかったらリスカも入って」

「ううん、あたしはそろそろ戻らないといけないから家族の時間を楽しんでね!」


 こちらに気を使ったということもあるが、リスカも立派な働き手なようだし、家の手伝いをしないといけないのだろう。


「それじゃあ、アデル兄ちゃん、今度また様子を見に行くね!」

「おお、わかった」


 ポニーで去っていくリスカを見送って、俺は九年ぶりに我が家へと帰還した。


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