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リフレット村 その2

 俺が名前を呼ぶと、リスカが花開くような笑みを浮かべて喜ぶ。


 リスカ――俺の幼馴染であるリシティアの妹で、家も近かったこともあって仲が良かった。いつも俺とリシティアの後ろをついてきて、今のような笑顔を浮かべていた。


 あの頃は全然小さかったのに、これは驚いたもんだ。


 無邪気な笑顔は紛れもなく俺が村を発つ前のリスカの笑顔そのもの。


 成長して大きくなろうと変わらないその笑みに、俺は思わず笑ってしまう。


「ちょっと、どうして笑ってるの?」

「いや、大きくなってもリスカの笑顔は変わらないんだなーって」

「そりゃ、あたしはあたしだもん。変わるはずないよ」


 俺がクスクスと笑いながら言うと、リスカは不満そうに頬を膨らませる。


「でも、九年前よりは大人っぽくなったでしょう?」

「バーカ。まだまだ子供だよ」


 正直に言うと、昔のリスカとはすぐに結びつかないくらいに可愛らしい少女になっていた。


 しかし、年上たる俺が素直にそれを認めるのも少し悔しいのでからかうことにする。


「うっそだー! あたしが声かけた時、わかってなかったでしょ?」

「それはお前こそ同じだ。俺のことを疑問形で二回も呼んで」


 村を発つ前のリスカは髪も短かったし歳も六歳くらいだったので、その成長には凄まじいものを感じる。


 一方、俺は当時十五歳。黒髪に黒目でしまりのない顔と言われていた。


 今でもそこまで変わっているイメージはないので、きっとわかりやすいことだろう。


「だって、アデル兄ちゃん立派っていうか、凄く大人っぽくなってるんだもん」

「そりゃ、もう二十五歳で大人だからな」


 成人年齢である十八歳を七つも超えているのだ。もう大人の域を越えておっさんに近付きつつある。


 いや、この話は虚しくなるのでやめておこう。


 まだまだ俺はお兄さんだ。


「そういやリシティアは何してるんだ? あいつは元気か?」


 帰ってきたことだし顔くらい出しておきたい。


 俺がそう尋ねると、リスカは恐る恐るといった風に、


「あー、お姉ちゃんなら結婚して隣の村に行っちゃった」

「………………え? あいつが結婚!?」


 幼い頃から勝気な性格で普通の女の子とは違って男勝り。髪も俺とそう変わらないくらいの短さで、男っぽいラフな格好をしていたせいかよく男女だとからかわれていた。


「……まさか…………男女のあいつがお嫁にいけるとは」

「アデル兄ちゃんがいなくなって髪を伸ばして、凄く女の子らしくなったんだよ? 今まで男女ってバカにしていた男の子もメロメロだったよ」


 あいつが髪を伸ばして女の子らしくなっただって!?


 ちょっとイメージできないな。


 俺の中でのリシティアは、やっぱり男みたいだったから。


 でも、俺と同じ二十五歳ということを考えれば結婚も当然だよな。


「アデル兄ちゃんが帰ってくることは伝えたけど、お姉ちゃん妊娠中だから戻ってこれなかったんだ。だから、今度一緒に会いに行こう?」

「ああ、そうだな」


 すっかり変わったあいつの姿を見て、からかってやるのも悪くない。


「で、どうして村に向かわないの? アルベルトおじさんやスリヤおばさんも待ってるよ?」

「いや、先にこいつの世話をしないとダメだったから」


 そう言って手綱を引き寄せると、牧草の間からひょっこりとブルホーンが顔を覗かせる。


 それを見たリスカは目を輝かせた。


「わあっ! ブルホーンだ!」

「ブフォオオッ!」


 そう言ってリスカが近付こうとすると、ブルホーンが警告するように鳴き声を上げる。


 大人しくなったと思ったが、まだ怒りが落ち着いていなかったのかもしれない。


「うわっ!? なに!?」

「すまん、ちょっと旅のストレスと見知らぬ場所に来て気が立っているんだ。一応、人間に慣れているとはいえ魔物だから安易に近付かないでくれ」

「う、うん、そうだよね。ごめん。つい、うちの牛達と似てたから、つい」

「その口ぶりだと、家の仕事を手伝ったりしてるのか?」

「うん、もう一通りの仕事はできるよ」

「へえー、偉いじゃないか。でもブルホーンは牛とは違うから気を付けてくれよ?」

「わ、わかった」


 リスカの家は酪農家で牛を育てているので、同じウシ型の魔物を見て親近感のようなものを抱いたのだろう。


 とはいえ、今のブルホーンに見知らぬ人間を近付けるのは危険だ。


 リスカには少し離れてもらい、ブルホーンに問題ないと語りかけるように優しく撫でてやる。


 しばらくはリスカを睨んでいたブルホーンだが、特に脅威に値する存在ではないと理解したのかプイッと顔を逸らした。


「アデル兄ちゃんには懐いてるんだね」

「懐いてるというか慣れているような? まあ、最初は唸られて突進ばかりされていたけどな」


 レフィーアから最初に紹介されたのが、このブルホーンだ。


 会うなりいきなり突進してきて、今日と同じように受け止めてやった。


 牧場ができるまでの二ヶ月くらいは、そんな日々を過ごしていた。


 こいつからすれば、俺はいいストレスの発散相手であって、懐いているとは言えないような気もするが。


「村でも噂になってるよ。本当に魔物牧場をやるんだね」

「ああ、そうだよ。だから、これからはここにいるさ」

「そっか。それなら九年間、ロクに手紙を出さなかったこと許してあげる」

「やっぱり根に持ってたのか」

「当たり前じゃん。みんな心配していたんだから」


 頬を膨らませながらツンとした表情をするリスカ。


 そうだな。それに関しては全面的に俺が悪い。


 バツが悪そうにしていると、リスカはふっと表情を緩めて、


「でも、帰ってきたならいいや。お帰りアデル兄ちゃん」


 と言ってきた。


 その言葉に、やや照れくさそうに俺はこう答えた。


「ああ、ただいま」


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