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成長した顔見知り 1


 レフィーアとフォレストドラゴンのことをリスカに任せた俺は、冷蔵庫に入っているブルホーンのミルクを取り出して箱に詰めていく。


 ミルク瓶が割れないようにしっかりと藁を敷いて、蓋を閉めると、それを馬に括り付けて出発だ。


 リスカとベルフに見送られて牧場を出発し、道を走らせること十五分。


 俺は村の中心部へとやってきた。


 馬から下りて歩いていると、デルクさんが声をかけてきた。


「おう、アデル。今日もミルクを売りにきてくれたのか?」

「ああ、そうだよ。今日も買っていくかい?」

「買うけどちょっと待ってくれ。家に空き瓶が二本あったから、そこに詰め替えてくれると助かる。このままじゃ、家の中が空き瓶だらけになっちまうからな」

「わかった。ここで待っているから取ってきてくれ」


 俺がそう言うと、デルクさんは走って家に戻る。


 瓶で買うよりも詰め替えたほうが安くなるしな。


 こちらも瓶を大量に発注せずに済むので、容器を持ってきてくれると助かる。


「ブルホーンのミルクいかがですかー」

「詰め替えだと安くなるって聞いていたんだけど本当かしら?」


 デルクさんを見送った後、そんな声を上げてみると何人かの村人が瓶を持ってやってきてくれた。


 正直、ここまで瓶を持ってきてくれる人がいるとは予想外だ。


 これならいちいちミルクを移すよりも、空き瓶と交換するシステムにしたほうがいいかもしれない。


「はい。詰め替え、もしくは空き瓶と交換なら銅貨一枚と青銅貨五枚ですよ」

「それじゃあ、交換でお願いするわ」

「ありがとうございます!」

「俺も頼むわ」

「私も家に空き瓶があるの!」


 空き瓶と交換することで安くなる旨を伝えると、それを持ってきていた村人は即座にミルク瓶との交換を申し出て、家にある者は急いで取り替える。


 そうやってテキパキと客をさばいていくと、最初に声をかけてきたデルクさんが瓶を抱えて戻ってきた。


「アデル、持ってきたぜ!」


 息を切らせながら瓶を渡してくるデルクさん。


 デルクさんの家はここからちょっと離れているので大変だっただろう。


「ギリギリだったな。残っているのはちょうど二本だよ」

「おい、そこはちゃんと俺のために押さておけよ」

「早い者勝ちだからなー」

「こいつめ。だったら、今度は空き瓶を先に渡しておいてやる。俺専用の瓶に詰めて持ってくるようにしろ!」


 なるほど、それは考えていなかった。


 そうすれば、確実にミルクを手に入れることができるし、わざわざ家まで瓶を取りに帰る必要もない。


「なるほど、便利そうだからちょっと試してみるよ。今度来たら、空き瓶を渡してくれ」

「へへっ、買い物に来たときに押し付けてやる」

「馬に乗ってきてるから無理ではないけど、タイミングによっては無理だからな?」


 デルクさんが大人げないことを考えているので、一応釘を刺しておかないと。


 いつでも手ぶらというわけでもないからな。


 ロクでもない笑みを浮かべながら去っていくデルクさんを見送ってミルクの箱を片付ける。


 その中にあったミルク瓶はほとんどが村人から回収したもの。


 やってきた村人は十人以上いたのだが、そのほとんどが瓶を持ってきてくれた。


 ということはリピーターが多い証だろう。


 皆、ブルホーンのミルクを気に入ってくれた証拠なので、それをとても嬉しく思う。


 このまま多くの客がミルクを求めてくれるようであれば、樽いっぱいにミルクを入れて持ってきて、村人が持ってきた瓶に入れていくようにするのもアリかもな。


 ブルホーンのミルクを売り捌いた俺は、取り置きしていたものを両親のところに持っていくことにした。


 せっかく故郷に戻ってきたのだ。


 会える時には少しでも顔を出しておかないとな。


 父さんが喜ぶかは知らないが、少なくとも母さんは喜んでくれるはずだから。


 馬を連れて歩きながら村の中心部に向かうと、ほどなく我が家にたどり着いた。


 両親はちょうど畑作業をしており、仲良く並んで雑草を抜いている様子だった。


 二人の間に会話らしいものはないが、こうして眺めていると並んでいるのが当然というような佇まい。


 互いに無言だろうと気にならない空気感が漂っていた。


 二人は馬を連れてやってきた俺に気付くと、作業を中止して立ち上がる。


「アデルどうしたんだ?」

「ブルホーンのミルクを渡しにね」

「あら、助かるわ。ちょうどなくなっちゃったから頼もうと思っていたのよ」

「空き瓶があるなら交換するから持ってきて」

「ええ、持ってくるから待ってて」


 母さんは手袋を外すと、家の中に入っていく。


 残されたのは仏頂面をする父さんと息子の俺。


 元気な母さんがいなくなって気まずい空気が流れる。


 よくよく考えると帰ってきてから二人だけの時間っていうのは初めてで何を喋ったらいいかわからない。


 何か言うべきかと迷っていると、父さんが先に口を開いた。


「……最近、どうだ?」


 どうだ? というのは俺自身のことだろうか、魔物牧場のことなのだろうか? 


 とはいえ、どちらも俺に直結することなので、牧場のことを答えておけば問題ないだろう。


「フォレストドラゴンの素材が売れるようになったから、当面は牧場も安定かな。トレントの素材も売れるだろうし、新しい魔物を増やすこともできそうだよ」

「その、フォレストドラゴンというのは本当に大丈夫なのだろうな?」

「今のところ大丈夫だよ。他の魔物と違って意思の疎通もできるし冷静だよ。ちょっと捻くれてはいるけど基本的に昼寝ばかりしてる食いしん坊だから」


 フォレストドラゴンについては、父さんも母さんも観察したことがあるので、大体の様子は知っている。


 だけど、強大なドラゴンがいるとなると気にもなるだろう。


「ならいいのだが、フォレストドラゴン頼りの収入というのはよくないな。もっと他の魔物もしっかりと育てて収入を安定させろ。そうでないとリスカを預けたセドリックとベルタも安心できないだろうからな」

「うん、わかってる」


 フォレストドラゴンの素材を抜きにすれば、現在の主な収入はブルホーンのミルクだけだ。


 トレントの木材はまだ買い手がついていないので、収入源にはできていない。


 これでは、しっかり魔物牧場を運営できているとは言えないな。


 父さんの言葉ももっともだ。


 しかし、リスカを嫁に取るような口ぶりに聞こえるのは気のせいだろうか?


 あくまで、雇い主としてしっかりするように言われてるんだよな?


 そう心の中で言い聞かせていると、母さんが空き瓶を持って戻ってきた。


「あらあら、二人で何のお話?」

「最近の魔物牧場の話だよ」

「それは私も気になるわね。最近はどうなの?」


 やはり、母さんも気になっていたみたいだ。


 父さんに話したことをもう一度母さんに言うのは少し面倒だったけど、心配する母さんを安心させるためならばと話をする。ついでに近況のことも含めて。


「へー、アデルの上司のレフィーアさんがやってきたの。今はその人も同じ家で暮らしているのね?」


 すると、母さんは最近やってきたレフィーアに興味を示した。


「そうだけど、ただの上司だから母さんが想像するような面白い関係にはならないよ」

「そう、それはそれで残念だけどお母さん的には少し安心したわ」


 うん? てっきり年齢がアレなので、そろそろ彼女でも見つけろとか言われるんじゃないかと思ったが、そうでもない様子。


「うん? 独り身なのに何で安心なのさ?」

「さあね」


 気になったので尋ねるが、母さんは曖昧な返事だけをしてはぐらかされてしまった。


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