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魔物が苦手な飼育員


「ブモオオオオッ!」


 厩舎の扉を開けると、ブルホーンが「遅いぞ」とでもいうように声を上げた。


 毎度お馴染みの鳴き声に苦笑しながら、俺は檻を開けてブルホーンを厩舎の外に連れ出す。


「あのじゃじゃ馬をこうも簡単に連れ出せるようになるとは、アデルも成長したのだな」


 厩舎の外に出ると、待ち構えていたレフィーアが感心した声を上げた。


「研究所では散々タックルされたからな――って、うお!?」


 などと呑気に答えようとしていたら、ブルホーンが突然タックルの素振りを見せてきたので慌てて振り返って角を受け止める。


 ブルホーンは太い脚で地面を抉らんばかりに蹴ってくるが、こちらも魔力を応用した身体強化で抵抗。


 突撃を五秒ほど受け止めると、不意に飽きたとでもいうようにブルホーンは力を抜いたので、俺も恐る恐る力を抜く。


「はぁ……一体、こいつはいつになったら心を開いてくれるんだ」


 朝から心臓に悪すぎる。


 俺以外の飼育員であれば、まともに反応できていなかっただろう。


 毎日世話をしているというのに、一向にこのタックルが収まる気配はない。


「ハハハ、私からすれば信頼されているように見えるがね」

「信頼だって? 毎日世話をする飼い主にタックルしてくるんだぞ?」


 どう考えたらそんな思考にたどり着くのか。


「アデルになら、全力でぶつかっても大丈夫だとブルホーンはわかっているのさ。それもある意味、ブルホーンの信頼だろう?」


 確かにそうかもしれないけど、サンドバッグにされているようにしか思えないんだが……。


 レフィーアの言葉に複雑な思いを抱きながら、ブルホーンのお気に入りである日当たりのいい場所まで移動し、そこにたどり着くとブルホーンは青々とした牧草を食みはじめた。


「食事中は機嫌もいいし、今のうちに診断をお願いできるか?」

「ああ、任せてくれ。貴重なデータを隅々までとってやるさ」


 レフィーアはそう言うと、手に持っていたバックを広げて、そこから注射器やら検温器などと様々な医療道具を取り出した。


 魔物についての知識が深いレフィーアが牧場に滞在しているのだ。せっかくなので、これを機会に他の魔物の健康も調べてもらわないとな。


 一応、俺も魔物達の診断はできるが、レフィーアほど正確なものではない。

 俺が見落としている病気やその兆候があるかもしれないし。


「ひ、ひいいいいいいい!」


 レフィーアがブルホーンの触診を始めると同時に、甲高い少女の声が牧場に響き渡る。


 悲鳴が上がったほうに視線を向けると、そこには長い金髪をカールさせた少女が餌の入ったバケツを抱え、モコモコウサギに迫られていた。


 明らかに怯えの表情を見せる少女に、リスカが優しくフォローする。


「エルミーナ様、別にこの子達は怖くないですよ? 噛みついたりなんてしません」

「そ、それはわかっていますが…………」


 バケツを持ったまま怯える少女の名は、エルミーナ=クロイツ。


 彼女はわけあって、この魔物牧場の臨時飼育員として働いているのだが、どうも動物や魔物が苦手らしく、何をやってもうまくいかない。


「それにほら、この見た目! ウサギみたいでとっても可愛いでしょ?」

「だ、だけど、この子達も魔物なのでしょう? でしたら、わたくしにはとても……」


 そんな彼女を何とかして励まそうとリスカが色々と声をかけるが、エルミーナの恐怖は拭えないようだ。


 しかし、そうやっている間にも、モコモコウサギは朝食にありつくために、怯えるエルミーナに迫っていく。


 魔物が苦手なエルミーナはさらに下がり、モコモコウサギはまた迫るという悪循環。


「ひいいいいい、ジリジリと寄ってこないで――きゃあっ!?」


 そして、後退し続けたエルミーナは足元にいた何かに躓いて、盛大に餌の入ったバケツをまき散らしてしまう。


「ななな、何かむにゅっとしたものが――――ってスライム!?」


 それは牧場で最近飼育し始めたスライムのスラリンだった。


 プルッとした粘体に腕や足を包まれたエルミーナは一瞬にして顔色を青くする。


「「ピキイイイッ!」」


 そこにお預けを食らっていたモコモコウサギ達がばらまかれた餌の中心地、つまりエルミーナの真上に群がってきた。


「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」


 スライムに包まれ、トドメとばかりにモコモコウサギの群れに呑み込まれたエルミーナは、大きな悲鳴を上げて――――――――そのまま失神した。


「あの調子では、彼女がまともに働けるまで時間がかかりそうだな」

「うん、そうみたい」


 エルミーナの目的のためには、この状況はよくないはずなんだけど……大丈夫なのだろうか?


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