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魔物牧場 その1

「……うちは支出ばっかりだな」


 家のリビングで牧場の帳簿を見ながら、俺は思わず呟いた。


「えっ、今まで意識していなかったけど、もしかしてこの牧場って赤字なの?」


 すると、対面に座っているリスカが、ブルホーンのミルクを飲もうとするのを止めて、心配そうな表情をする。


「いや、そこまでヤバくないよ。魔法騎士の時に稼いだ貯金がたくさんあるから。慎ましく生きていけば働かなくてもいいくらい」

「な、なんだぁ、よかったー」


 俺がそう言うとリスカはホッとしながらミルクを飲む。


 これが子供であれば、このまま安心させて放置するのだがリスカは重要な従業員だ。きちんと現状を話してもらったほうがいいだろう。


「でも、豪華な牧場を作っちゃったから、貯金と同じくらいの借金があるんだよね」

「んぐっ!?」


 俺がサラッと真実を告げると、ミルクを飲んでいたリスカがむせた。


 しかし、下品という思いが勝ったのか、リスカは気合で綺麗に飲み込んだ。


 咳き込んだリスカが落ち着くまでの間に、俺は借用書を持ってくる。


 落ち着いたリスカは、それを手にすると困惑、驚愕、呆れといった風に表情を変えた。


「えっと、どうしてそうなっちゃったの?」


 それはもっともな言葉だ。


 通常、何かの立ち上げには多大なお金がかかる。一から何かを始めるのであればなおさらだ。最初の一年はほとんど赤字といってもいいだろう。


 それが予想できるので、最初から無理はしないはず。


 しかし、レフィーアの魔物の研究に対する熱い想い、仕事を辞めてしまった妙な俺のテンションのせいで、普通では考えられないくらいにここの設備がいい。


 何せ台所は魔道具完備。食材などを保管できるように巨大冷蔵庫まで設置されているのだ。


 俺もさすがにこれには難色を示したが、レフィーアが伝手でスポンサーを見つけて金を出させるというから許可したのだ。


 まあ、結果としてスポンサーは全体の二割しか出してくれず、残った八割が借金となっているのだが。


 そのことをリスカに丁寧に説明してやると呆れられた。


「そのレフィーアって人、大丈夫なの?」

「……多分、大丈夫なはず」


 少なくても彼女は人を騙すような悪人ではない……はずだ。


 きっと後から金銭を工面できる方法を考えている……はずだ。


 フォレストドラゴンとトレントキングの件を手紙で伝えて結構な日が立つのだが、未だ返信はない。


 だが、決して見捨てられたとかではない……と信じたい。


 レフィーアは魔物研究が大好きだ。魔物牧場という楽園をそんなに簡単に手放すはずがない。


「でも、こうして結構な額の借金が回ってきてるんでしょ」


 俺は思わず閉口してしまう。


 そう言われると何とも言えなくなるのが困ったところだ。


「まあ、それでも支払う相手はグリンドさんだしね。利息が膨大なわけでもないというか、むしろ良心的だから、少しずつ返していくしかないよね」

「ああ、そうだな」


 リスカの堅実な言葉に、俺はしみじみと頷いた。


「でも、これってフォレストドラゴンの素材を売ったら解決なんじゃ?」

「そうしようとレフィーアに連絡してるんだが、全然返事がこなくてね」


 フォレストドラゴンの素材がポンポンと市場に流れでもしたら大騒ぎになる。


 こういうのは然るべき相手に任せて買い取ってもらうのが一番だ。


「じゃあ、トレントの木材は?」

「今すぐ売ったらそれなりの額になるけど、丁寧に管理して乾燥させたほうが値段が上がる」


 トレントの木材は、上質なので非常に高価なものだ。


 しかし、それはちゃんと下処理をし、天日干しにしてしっかり乾燥させた場合のこと。


 その前段階で渡してしまっては、ガクッと値段が落ちてしまうのだ。


 どうせ売るのであれば、価値の高い時に売ってしまいたい。


「そ、そう。じゃあ、今の儲けはブルホーンのミルクだけってことなのね」

「……そういうことになる」


 最初に言った通り、まさに収入がなくて支出ばかりなのである。


 なんだかんだと高価なものを手にしてはいるけど、一向にまとまったお金に換金できていない状況。


 別に金銭的に危機を迎えているわけでもなく、むしろ将来を考えると安泰なのだが、毎日支出ばかりの帳簿をつけていると少しだけ心配になるものだ。


 ミルクだけしか収入がない、魔物牧場とは如何なものか。


「ウォッフ! ウォッフ!」

「ふおおおおおおおおおおおお!? ベオウルフではないかぁ!」


 ちょっとアンニュイな気持ちに陥っていると、窓の外からベルフの鳴き声だげでなく、女性の奇声らしきものも聞こえてきた。


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