トレントの森をお世話 その5
「お、トレントの木の実ではないか」
風魔法で浮かせて一ヶ所に集めようとしていると、フォレストドラゴンがそんなことを言った。
そういえば、トレントは甘い果実をつけることがある。
騎士団に所属していた頃は、すべて売りに出されるか偉い人が食べてしまい、俺に回ってきたことがなかった。
噂によるとかなりの美味しさだというが、どれほどの味なのか。
「こっちも探せばあるのかもしれないね」
「よし、探してみるか」
リスカと俺は切り倒したトレントの枝葉を漁って、果実を探す。
お偉いさんが躍起になって回収を命じていたのだ。きっと美味しいに違いない。
「アデル兄ちゃん、オレンジ色の丸っこい果実が見えたけどこれ?」
枝葉を掻き分けていると、リスカが二つの果実を掲げながら尋ねてきた。
「おお、それだ!」
「本当!?」
俺がそう言うと、リスカは笑顔を浮かべながらやってきて一つを渡してくれる。
おお、これは以前にも見たものだ。これがきっとトレントの果実に違いない。
「これどうやって食べるの?」
「そのままで食べられるよ」
俺がそう教えると、リスカは自分の服で軽く拭ってから口をつける。
シャリッとした小気味の良い音がなると、同時にリスカの目が大きく見開かれる。
「なにこれ、甘っ!」
リスカはそう叫ぶなり、夢中になってシャリシャリと食べだした。
美味しそうに食べるリスカをしり目に、俺も同じように口をつける。
シャリッとした食感と共に、柔らかい果肉が出てきた。そこから溢れ出る果汁はとても濃厚で、桃のような甘さとみかんのような酸味を兼ね備えているような味。
「甘っ!」
「でしょ! でも、全然しつこくないよね」
「ははは、まだトレントキングが生まれて間もないせいで量も甘みも少ないが、時間が経てばもっと美味しくなるぞ」
「ええ!? ってことは、これはまだ収穫前の味ってこと?」
フォレストドラゴンの台詞を聞いて、リスカと俺は愕然とする。
今の状態でも、これほど美味しいというのにまだ美味しくなるとは。
どうりで高級品として扱われ、お偉い人がこぞって食べてしまうわけだ。
収穫前でこの美味しさなら、完熟するとどれほどのものなのか。
「すごい! これ育てたい!」
「ははは、いずれはトレントの果樹園なんて開くのもいいかもしれないな」
「うむ、トレントキングも世話してくれるなら別にいいと言っておる」
「本当!? というか、結構距離が離れていても意思の疎通ができるんだな」
「ここはトレントキングの支配する、トレントの森だからな。そこらのトレントを介して、奴は森全体を把握している」
なるほど、まさしくトレントキングが森を支配しているというわけか。
またトレントキングについての知識が増えた。
というか、冗談半分で口にしたのだが、本当にやることになってしまいそうだ。
「まあ、とはいっても今すぐにできる問題でもないし、まだ先の話だろうけどね」
今は牧場にいる魔物の世話で手いっぱいだ。やるとしても、もう少し落ち着いてからだな。
「そうだね。でも、あたし達が食べる分には問題ないよね」
「ああ」
ニヤリと笑いながらのリスカの言葉に、俺は苦笑いしながら頷いた。
そうやってみんなで会話しながら食べていると、あっという間にトレントの果実はなくなった。
果実を食べ終わると二人で果実を探す。
まだ時期が早いせいか、五つ程しか見つからなかったがこれだけあれば十分だ。
探し終わったら、俺が風魔法でトレントの木をちょうどいい長さに切りそろえてロープで縛る。
後はこれをフォレストドラゴンに持って帰ってもらうだけだ。
「よし、フォレストドラゴン。そろそろ帰るぞー。木材を運んでくれ」
「ふむ、しょうがないな」
そう言うとフォレストドラゴンは嫌そうな声を上げながらも、こちらにやってきて屈んだ。
俺とリスカが背中に乗り込むと、蔓で体を固定。
そして、足元にあるトレントの木材を両足で掴む。
そのまま翼を動かすと、フォレストドラゴンは木材の重さを全く気にすることなく飛び上がった。
「おお、さすがだな」
「力持ち!」
「当たり前だ。我を誰だと思っている」
俺とリスカが感嘆の声を上げると、フォレストドラゴンがまんざらでもなさそうに笑った。




