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トレントの森をお世話 その4

「さて、そろそろトレントの森の上空だぞ」


 リスカに気遣ってゆっくり飛んでくれていたのだろう。それでもあっという間にトレントの森の上空だ。


 それを聞いて、リスカが少し残念そうにする。


「もう着いたんだ」

「まだ帰り道もあるし、今度乗せてもらえばいいさ。トレントの森には何度も行くことになるだろうし」

「うん、そうだね!」


 トレントの森を定期的にお世話する約束だし、フォレストドラゴンもまた乗せてくれるだろう。


「フォレストドラゴン。とりあえず、トレントキングに木を伐採してもいいか聞いてくれ」

「わかった」


 俺がそう頼むと、フォレストドラゴンはしばらく黙り込む。


「外側にあるやつならどれでも好きに切っていってもいいそうだ。百でも二百でもいいと」

「さすがにそんなに切らないよ、小さめのやつを数本で十分だ」


 あくまで俺達は魔物牧場の飼育員であって、木材屋ではないからな。というかそんなに持って帰っても使い道がないし。


「それでは近くにある外側の奴を貰うか」


 そう言って、フォレストドラゴンは東側に向かってゆっくりと降り立つ。


 そして、地上に着地すると、俺とリスカはフォレストドラゴンの背中から降りた。


 先程までずっ上空にいたからか、ちょっとだけ地面の感覚が懐かしく思えた。


 フォレストドラゴンの背中に乗るのも素晴らしいが、やはり落ち着くべき場所は地上なんだろう。


「ここら辺にある奴なら、ちょうどよさそうだな」

「少し小さくはないか? 我はもう少し食べ応えのある大きいものがいい」


 フォレストドラゴンがそう言いながら脚を上げて、トレントの木に蹴りつけた。


 バギャッっという破砕する音が響き渡り、トレントの木は破片をまき散らしながら倒れた。


「うわっ! びっくりしたー」

「おいおい、もう少し周りに気を使ってくれよ。破片とか飛んできたら危ないだろう」

「んん? そうか? それは悪かった」


 今の地響きは絶対に村の中心まで聞こえたな。


 フォレストドラゴンのことが周知されているとはいえ、村に迷惑ををかけるわけには行かないからな。くれぐれも行動には注意しなければ。


 砂煙と風圧が舞い上がる中、フォレストドラゴンは肉にでも齧り付くかのようにトレントの木をを豪快に食べた。木をへし折るような音とすり潰すような乾いた音が響き渡る。


 おお、こいつ本当に木を食ってやがる。


「ねえ、トレントって生きているんじゃないの?」

「んー、元は植物だしな。トレントキングならともかく、トレントは知性のない草と同じ感じだと思うぞ? 折られたらただの魔力を宿した木だし」

「アデルの言う通りだな。付け加えるならトレントキングからすれば、いくらでも増やすことのできる存在だから気にしなくてもいいのだ。人間でたとえると勝手に生える爪や髪みたいなものか」


 フォレストドラゴンのたとえがちょっと微妙だが、そんな感じだ。


「やはりこれくらいの大きさがないとな!」


 バリバリと音を立てながら咀嚼しているフォレストドラゴンを見ると、少しだけ美味しそうに見えるから不思議だ。トレントにも食感の良し悪しとかあるのだろうか。


 そんなことを思いながら、自分の作業にとりかかることにする。


「リスカ、魔法を使うからちょっと下がっていてくれ」

「うん」


 トレントの木を伐採するには、フォレストドラゴンの力を借りたほうが楽だろうが、今は食事中だしな。


 今回は俺だけで伐採をすることにする。とはいっても、今回は斧や鋸なんてものではない。


 いくらリスカと二人でも、そんなものを使っていては日が暮れてしまうからな。


 だから、今回は魔法を使うことにする。


 俺は体内にある魔力を練り上げると、右腕を突き出して術式を解放する。


「【スラッシュ・ウインド】」


 展開された術式から風の刃が射出され、トレントの根元をあっさりと切断。


 そのまま風の刃は霧散することなく、後ろにある木々まで同じように切り裂いた。


 切断されたトレントが遅れて地面へと倒れていくので、俺は風の刃を拡散させることで風圧によるクッションを作ってやる。


 そうすることでトレントは、地響きや砂煙を上げることなくスマートに伐採することができた。


「おお、すごい! なんか魔法って感じ!」

「ちょっと待ってくれ。俺は家でもちょいちょい魔法を使っているよな?」

「使ってるけど、ミルクを冷やすための氷を出したり、換気のために風を吹かしたり、地味なんだもん」


 魔法に対しての知識が少ない故の残酷な言葉に、俺の心は少し傷付いた。


「いや、確かにそうかもしれないけど、ああいう細かいコントロールが必要な魔法のほうが難しいものなんだぞ?」

「ふーん、そうなんだ」


 普通の魔法使いだったら氷を出すことや、繊細に気流を操ることすら困難だというのに。


 まあ、いいや。それをリスカに語ったとしても理解されないだろうし。


「せっかくだ。小さい奴も味見しておこう」

「あ! こら!」


 止める間もなく、フォレストドラゴンは俺が切り倒したトレントをつまみ食いした。


「うーむ、こちらも美味いが、やはり食べ応えが足りないな」


 咀嚼しながら首をひねって感想を漏らすフォレストドラゴン。


「じゃあ、わざわざ俺が倒したものを食うなよ」

「いや、でもこれはこれでいいものだ」


 俺が文句を言うも、フォレストドラゴンは涼しい顔をして流した。


 まあ、別に大して苦労するわけでもないし、持って帰ってくれるのはフォレストドラゴンだしな。今は好きにさせてやるか。


 その間に、俺は同じように風魔法でトレントを切り倒す。


次回は5/14予定です。

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