広がる謎の森 その3
フォレストドラゴンがトレントキングと意思の疎通を図れるようだが、絶対に身の安全が保障されるわけではない。
俺は作業着ではなく、狩りの時と同じ装備を身に纏うことにした。
「準備ができたか。では、我の背中に乗せてやろう。さっさと乗れ」
準備を終えて外に出ると、フォレストドラゴンがそんなことを言って屈む。
「背中に乗れって、飛ぶ気か!?」
「それが一番早いだろう。ぼさっとしていると森が広がるぞ?」
確かに時間が惜しい今は、フォレストドラゴンの言うことは最もだった。
「今は村人に南の森に近付かないように言ってあるが、飛ぶ場所に十分気をつけてくれよ!」
「ということだから、人目に付きにくいところを飛ぶ感じで頼む」
「仕方ないな」
俺はフォレストドラゴンの脚を伝って、背中へと上る。
すると、リスカがどこか羨ましそうにこちらを見上げていた。
「あーあ、アデル兄ちゃんだけいいなー」
「リスカも今度乗せてやろう」
「え、本当!? やった! 絶対だよ!」
フォレストドラゴンにそう言われてリスカが喜ぶ。
ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶなんて経験は滅多にできるものではないしな。
俺も言葉にこそ出していないが、これからの出来事にワクワクしている。
「ちゃんと座ったか?」
「ああ、だけど空を飛んだ時に振り落とされそうで怖いな」
背中に枝葉も生えており、手で掴まることができるのだが、空を飛ぶことを考えるとさすがに心許ない。
「仕方のない奴だな」
フォレストドラゴンはため息を漏らすと、体から蔓を伸ばして俺の身体に巻き付けた。
「これでいいだろう」
「ああ、ありがとう」
「では、行くぞ?」
「ああ」
俺が短く頷くと、辺りに暴風と轟音が巻き起こった。
それはフォレストドラゴンが大きな翼を広げて大きく動かした故に起こったもの。
風が吹き荒れ、風音が鼓膜を震わせる。すると浮遊感に見舞われ、フォレストドラゴンの脚が地上から離れていく。
「き、気を付けてね!」
「ああ、行ってくる!」
風圧で髪をなびかせながらも見送ってくれているリスカとグリンドさんに声をかける。
そして、あっという間にリスカやグリンドさんが小さくなっていった。
翼をはためかせたフォレストドラゴンは上昇してドンドン上へ。
すると、いつもは見上げる木々が見下ろせるようになり、リフレット村の全域が見渡せるようになる。
「……すげえ」
いつもとは違う空からの景色に、俺は思わず息を呑んだ。
「空から見る景色は初めてか?」
「ああ」
空から見る景色は、俺の想像以上にインパクトがあった。
もはやここが地上からどれくらい離れているのかもわからない。
遠くでは森や山々が見えて、空がどこまでも青く見える。
わかってはいたが世界は広いな。
こうして上空から景色を見ていると、この世界で自分だけのものだとか、自分一人だけしかいないのではないだろうかという錯覚を覚えそうになる。
なんとなくそれが爽快なような、寂しいような。
不安になった俺は思わず魔物牧場のある方向へと視線をやる。
そこには呆然と見上げているリスカとリグルドさんや、ピンク色のモコモコウサギらしきものがかろうじて点のように見えた。
そのことに少し安心する。
「心も体も問題はないな? そろそろ南の森に向かうぞ?」
どうやらフォレストドラゴンなりに、俺に気を使ってくれていたらしい。
「ああ、問題ない。頼む」
本当はもう少し上空からの景色を楽しみたかったのだが、今は時間が惜しいからな。
俺がそう答えると、フォレストドラゴンは南の森へと進んでいった。




