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広がる謎の森 その2

「南の森が増えている?」

「少し言い方が悪かったか。南にあった森が以前よりも広くなっているんだ。見間違いでもなく、実際に畑があった場所が木々に侵食されている」


 改めて説明してくれた内容を聞いて、ようやく俺は事態を呑み込んだ。


 そして、この現象に思い当たるのは一つ。


「なるほど……トレントキングが出たのか」

「トレントキングってどんな魔物なの?」


 推測の言葉を口にすると、リスカが問いかけてくる。


「木に擬態して近寄ってきた生き物に蔓を伸ばしたり、枝を振り回して攻撃してくる樹木型の魔物だよ。ただ、それは普通のトレントであって、上位種のキングになると自らの撒いた種でトレントを生み出して森を作ってしまうんだ」

「ええ!? じゃあ、そのトレントキングがいると、ずっとトレントっていう魔物を増やし続けてくるの?」

「ああ、それがどこまで増えるかはトレントキング次第だけど、場合によっては村や街を呑み込んで木々を増やすこともある」

「そ、そんな!」

「まさかそこまでとは……」


 トレントキングの恐ろしさを聞いて愕然とするリスカとグリンドさん。


 脅威的な増殖能力と擬態を持つトレントキングは厄介な魔物だ。


 なにせ一見して普通の木々にしか見えない上に、本体であるキングを倒さなければほぼ無限に配下であるトレントが増えるときた。


 キングを見つけられないままに戦っていると、途切れることなく擬態をしたトレントに襲われて消耗することとなるからな。


「街に行って騎士団に動いてもらうべきか……」


 予想だにしない魔物の出現にグリンドさんもどう対応するか迷っているようだ。


「一つ聞きたいんですけど、森の広がりはどのくらいでしたか?」

「さっき聞いたところでは畑が二つほど呑み込まれたと聞いた」

「なるほど、その程度でしたら俺が今から突入して、キングを討伐してきます。そのほうが早いですし」

「アデル兄ちゃん、そんなの危険だよ!」


 俺がそう述べると、リスカが否定の声を上げた。


「騎士団を呼ぶにもかなり時間がかかる。その間にトレントキングが活動を活発にすると村が呑み込まれる。だったら、森の範囲が狭い今のうちに戦える俺が討伐したほうがいい」


 ここから馬で二日かけて街に行って、騎士団に取り合ってもらい派兵してもらうと、最速でも五日はかかる。


 今はトレントの侵食が緩やかだが、もしかしたらスピードが上がるかもしれない。


 そうなると村が呑み込まれる可能性もあるし、その頃には森が拡大して街の騎士団程度では対処ができなくなる可能性もある。


「そ、そうかもしれないけど……」

「大丈夫だって。俺はトレントキングを討伐したこともあるから」


 実際に討伐したのは騎士団総動員での行動であったが、それを今言ってリスカに不安にさせる必要もない。


「ということで、俺が討伐に向かいます」

「……すまない、魔法騎士を辞めたのに、こんな風に頼ってしまって」


 改めて俺がそう告げると、グリンドさんはどこか悔しそうに呟く。


 俺に話が来た時点でこのような展開は読めていた。


 というか、俺が村長の立場ならばきっと同じことをしているだろう。


「別に嫌だとか迷惑だとか思っていませんよ。大事な人達を守るためですから」


 九年も前に出て行って、それから音沙汰もなかった俺をみんなは暖かく迎え入れてくれた。そんな人達のためなら苦ではない。


 騎士団に所属して名前も知らない人を救うのは素晴らしいことだと思うが、俺としては大事な故郷のために戦うほうがやり甲斐も大きいし性に合っている。


「……ありがとう、アデル」

「グリンドさんは念のために街の騎士団に連絡をお願いできますか?」

「わかった」

「――感動的に言ってもらっているところ悪いが、別に討伐する必要はないと思うぞ?」


 俺は戦いの準備をするために、グリンドさんは街に報告へ行くために動き出そうとしたが、フォレストドラゴンの言葉によって止めることになる。


「え? それってどういうことだ?」

「トレントキングというのは、あれでも道理のわかる魔物だ。村の方角には広めるなといえば、大人しく違う方角に広げるなり、そのままの状態を維持してくれるはずだぞ」


 何それ? そんな情報は初耳なのだが。魔物同士だからこそわかる情報ということか?


「トレントキングは人間と喋れるのか?」

「いや、人間とは無理だが、我のような自然と調和する魔物同士であれば、意思の疎通を交わすことができる」

「つまり、お前が話をつけてくれれば討伐する必要はないと?」

「うむ、場合によってはお互いに利のある関係を築けるな。トレントは木材としても上質であるし、木の実も美味いぞ」


 モコモコウサギと会話できるのは知っていたが、他の魔物とも話せるとはな。


 確かにフォレストドラゴンの言う通りだが、そこまで上手くいくものなのだろうか。


 とはいえ、今はそんなことを考えるよりもトレントを増殖させるのを止めるのが先だ。


「じゃあフォレストドラゴン、トレントキングの説得のために付いてきてくれるか?」

「……条件がある」


 この面倒臭がりなフォレストドラゴンが、妙に優しく説明してくれたんだ。何か裏があると思った。


「一体何をしてほしいんだ?」

「我にピッザトーストを腹いっぱい食わせろ」


 フォレストドラゴンの言葉を聞いて、俺は思わず笑ってしまった。


 何かもっとすごい我儘を言われるかと思ったが、まさかピッザトーストを腹いっぱい食わせろとは。


 この巨体のお腹が膨れるまでというのはかなり大変かもしれないが、対価としてはあまりに小さい。だけど、フォレストドラゴンのそんな優しさが嬉しかった。


「わかったよ。ちなみに腹いっぱい食べたいなら、もっと大きくて食べ応えのあるピッザがある」

「おお、そんなものがあるなら早く出さんか! よし、決まりだな。それで手を打ってやる」


 そんなやり取りを交わす俺達を見て、グリンドさんは呆気にとられたような顔をしていた。


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