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薬師のリーア その3

 道中でブルホーンのミルクを売り終わると、俺とリスカはマルタ婆ちゃんがやっていた薬屋に向かった。


 店の前に到着すると、馬を降りて適当な裏庭に止めさせてもらう。


 そして、俺はリュックだけを持って店の中へと入った。木製の扉がキイと軋むような音を立てる。


 薬屋の中には、たくさんの薬瓶が置いてあり、乾燥させた薬草やトカゲ、虫といった様々なものがある。


 俺が子供の時と同じような、よくわからない緑臭い匂いで溢れていた。


 一般的な感覚からすれば、それは決していい匂いではないだろう。


 だけど、不思議と心が落ち着くような、どこか懐かしい匂いだった。


「いらっしゃいませ」


 感慨深く思っていると、奥にあるテーブルからピンク色の髪をツインテールにした童顔の少女が出てきた。


 少し長めのローブは薬師の証である衣服。

この少女がマルタ婆ちゃんの孫であるリーアなのであろう。


「やっほー、リーア!」

「あー! リスカ! 遊びにきてくれたんですか?」

「うん、それもあるけど今日は渡したいものがあって」

「渡したいもの?」


 リーアが小首を傾げたところで、俺は前に出る。


「えーと、アデルだけど覚えているかな?」

「あ、はい! リスカと一緒に入ってきた時から、そうじゃないかと思っていました! やっぱりアデルさんなんですね」

「おお、覚えてくれていたんだ」


 リーアとは一緒に遊んだことも、喋ったことも少なかったから少し心配だったのだが、どうやら杞憂だったようだ。


 俺がホッとするように言うと、リーアはくすくすと笑う。


「アデルさんは他の人と少し違っていたので、みんなよく覚えていると思いますよ」

「まあ、昔から魔法や剣の練習ばかりしていたからな」


 生まれながらに結構な魔力があると知って、子供の頃から魔法騎士を目指していたからな。少し付き合いの悪いところもあって、悪目立ちしていたのかもしれない。


「それに今は、アデルさんが帰ってきて魔物牧場を始めたって話題になっていますから」


 おお、そうなのか。田舎だけあってか情報が回るのが早いな。


「にしても、九年ぶりだからかリーアも変わったな。大きくなったことは勿論だけど、昔はリスカの後ろを付いてくる気弱な子ってイメージだったんだが」

「あはは、そこは変わっていないと思います。今でもあんまり喋ったことのない人と喋ると緊張してしまいますし」

「ん? でも、俺とは普通に喋っているように思えるけど?」


 リーアの言うことが本当だとすると、俺と気兼ねなく話せているこの状況はどういうことだろうか。


「ああ、それはリスカが昔からアデルさんのことを――」

「ア、アデル兄ちゃん! それよりも枝葉のこと!」


 リーアが何かを語ろうとしたが、リスカが口を防いだことで止められてしまった。


 非常に気になる内容なのだが、女性同士がこのようなやり取りをしている場合、男は変に口を挟まないほうがいいことを俺は嫌と言うほど知っている。


 城勤めのメイドや、女騎士の会話に混ざろうとして痛い目にあった同僚を痛いほど知っているからな。


 こういうところは流すに限る。


 まあ、俺のことは覚えていてくれたし問題なく話せる。それがわかっただけで十分じゃないか。


「そうだな。リーアに渡したいものがあるんだった」


 俺は平静を装いながら、肩からリュックを下ろしてテーブルの上に乗せる。


 そして、中にある枝葉を出した。


「……こ、これは!」


 その瞬間、リーアの表情が真剣なものへと変わる。


 もしや、リーア。一目見ただけでこれが何かわかったというのか。


「…………なんですか?」


 しかし、きょとんとしながら言い放ったリーアの言葉を聞いて、俺とリスカはガクッとなった。


「わからないなら大袈裟な反応しないでよ!」

「ご、ごめんなさい。でも、私でも感じ取れる濃厚な魔力から、価値のあるものというのはわかるんですよ?」


 リスカが突っ込み、リーアがどこか焦りながら言う。


 この子に任せて大丈夫なのだろうか? 少し心配になってきた。


「リーア。今から言うことは秘密にできる?」

「できれば、秘密にしないといけないようなことは聞きたくないです! 私嘘つくの苦手なんで!」


 リスカの言葉を聞いた瞬間、リーアが耳をふさいだ。


 普通に話している今の状態を見れば、そうは思わないのだが。


「いいの? これ、機会を逃がしたら二度と手に入らないかもしれないものだよ? 場合によってはすごい薬になるかもしれないし」


 リスカがそう言った瞬間、リーアの肩がびくりと震えた。


「ほ、本当ですか? 村のみんなを守ってあげられるような薬になりますか?」

「確証はできないけど、そうなるとあたしは思う」

「だったら、教えて!」


 リーアの表情は、先ほどの頼りないものとは打って変わって真面目なものだった。


 瞳も力強く、薬師としての生半可ではない意思を感じさせられる。


 俺がいなかった間に、リスカだけでなくリーアも成長しているんだな。


「これはフォレストドラゴンの枝葉だよ」

「えええええええええ! ふぉ、フォレスト――むぐうっ!?」


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