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薬師のリーア その2

「そういや、アデル兄ちゃん。リュック背負ってどうしたの?」


 リスカにそう問われて、俺はやろうとしていたことをふと思い出した。


 思いもよらない嬉しい出来事があったので頭から抜けていた。


「これからリーアのところにフォレストドラゴンの枝葉を持っていくんだが、リスカも来てくれないか? 俺が行っても忘れられてそうで」

「あはは、リーアも覚えてくれていると思うけど、あたしもリーアに会いたかったし行くよ!」

「よし、それじゃあ馬に乗って行くか」

「ちょっと待って。どうせ行くなら少しブルホーンのミルクを持っていこうよ。デルクさんみたいに買ってくれる人がいるかもしれないし!」

「なるほど、それは一理あるな」


 そんなわけで俺とリスカは一度家に戻って、ブルホーンのミルクを箱に入れていく。


 普通に持っていけば結構な重さになるだろうが、俺達には馬があるからな。


 二つの箱に瓶を五本ずつ入れ、俺の馬に計十本。リスカのポニーには五本入りの箱を一つ載せる。


 箱に詰める前に氷魔法で冷やしておき、氷も詰めているので長時間でも腐る心配はないだろう。


 中には勿論緩衝材として藁をたくさん入れているので、揺れで割れることはない……と信じたい。


 ちょっとそんなことに怯えつつ、俺とリスカは馬に乗って村の中心地へ向かう。


 リスカのポニーに合わせて馬を走らせること、しばらく。


 思うところがあり馬を止めたた俺は、早速とばかりに箱を開ける。


「ミルク瓶は大丈夫かな?」

「アデル兄ちゃん、気にしすぎだよ。これくらいじゃ瓶は割れないよ?」


 リスカがどこか苦笑いしながら言ってくるが、こちらは気になって仕方がないのだ。


 大事なうちの商品の運搬なのだし。


 今回はミルク瓶があるのであまり速度を出さずに慎重に走らせたつもりだが、もしもの可能性だってある。


 恐る恐る箱の蓋を開けると、ひんやりとした空気が流れ出て、入れた時と変わらない姿の瓶があった。


 試しにチェックしてみるも、どこも割れたり漏れ出している様子はない。


 全部の確認が終わって、俺は安心する。


「よし、これで誰かに売ったとしても大丈夫だな」

「そうだね」


 ブルホーンのミルクという珍しいものを売っているのだ。ミルクが漏れていたなどで印象を悪くされてもらっては困るからな。


 どうせ買ってもらうなら気に入ってもらいたいし。


「あら、アデル。ちょうどいいところにいたわ!」


 再び馬を走らせ薬屋に向かっていると、母さんがやってきた。


「どうしたの、母さん?」

「この間くれたブルホーンのミルクが美味しくて無くなっちゃったのよ。また追加でもらえないかしら?」


 おお、これは嬉しい。たとえそれが身内でもだ。


「それならちょうどここにあるよ、スリヤおばさん!」


 ポニーに乗っていたリスカが箱を開けて、ブルホーンのミルクを取り出した。


「あら、これは驚いたわね」

「えへへ、ちょうど村のみんなに広めようと思って持ってきたの!」

「それならどんどん広めちゃいましょうか」


 母さんはそう言うと、道端で雑談をしている女性達を捕まえて引っ張ってくる。


 村の女性は厳しいから敬遠されないか心配だな。


「これがうちの子が育てているブルホーンのミルクなの。美味しいから是非買ってちょうだい」

「ブルホーンのミルク? 魔物のミルクって美味しいのかしら?」

「私、ミルクはどうも臭さが苦手で……」

「ブルホーンのミルクは臭みがまったくないから、苦手な人でも飲めるわよ。デルクさんの子供も好きになったくらいよ?」

「あはは、あのデルクさんの子供が?」

「子供がミルクを飲んでくれないって愚痴っていたのにね」

「それはちょっと味が気になるわね。一本貰おうかしら?」


 驚いたことに最初は反応が鈍かった女性達だが、母さんの巧みな会話術のお陰で全員が買ってくれることになった。


 さすがは母さん。俺やリスカではこんな風に上手く例えを出しながら、自然に勧めることなどできなかっただろう。


 母さんのコミュニケーション能力は高いな。


「おお、なんだ? アデルの牧場で作ってるっていうミルクか?」

「ああ、アルベルトから聞いたぞ。飲みやすくて美味いって。まあ親バカな部分が入ってるかもだが、魔物のミルクっていうのは気になるな」


 俺がそんな風に感心していると、近くにいた男性達も寄ってきて気前よく買ってくれる。


 一人か二人に買ってもらえれば満足だったが、母さんのお陰で早々と九本が売れてしまった。


 ああ、俺はまだまだ母さんや父さんの世話になりっぱなしだよ。


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