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アデル仕事辞めるってよ その3

「アデルは仕事を辞めて田舎に帰ると言ったな?」

「ああ」

「しかし、その後の具体的な人生設計ややりたいことは決まっていないと?」


 興奮していた割には一応人の話を聞いていたんだな。


「そうだな。貯金はあるが家で畑仕事をやるだけってのもな」


 俺が悩まし気に言って腕を組むと、レフィーアの瞳が怪しく輝いてニヤリと笑った。


 ……何だ、その笑みは。


「だったらちょうどいい。私の研究に手を貸してくれないか? 実はお前のような腕が立つ人材を探していたんだ」

「内容によるね。言っとくけど、魔物討伐だとか魔物の捕獲とかは嫌だよ?」


 レフィーアは魔物の生態を調べるための探索員が足りないとよく嘆いていた。魔法騎士団を辞めても魔物のいる森に籠もりっぱなし、なんてのは正直勘弁してほしい。


「そんなことなら騎士団の知り合いとか冒険者に頼めば何とかなる。お前に頼みたいのはそんなつまらんことではない」

「……だったら何?」


 俺が怪しそうに問いかけると、レフィーアは悪戯っ子のような笑みを浮かべて、


「魔物牧場をやってみないか?」 


 と思いがけないことを言ってきた。


「は? 魔物牧場? それって牛や馬のように魔物を飼って育てるってことか?」

「ああ、そうだ。馬や牛のように魔物を育てるのだ。それによって魔物の生態を詳しく研究し、社会に生かすのだよ。ゆくゆくは今の家畜産業のように魔物と人間の共存関係が図れたらいいと思っている」


 確かに魔物を動物のように育てて共存できれば、今よりも社会は発展するだろう。生態が解明されることで魔物からの被害は確実に減るだろうし、討伐も容易くなる。


 さらには魔物の素材も安定して手に入るようになって市場も豊かになるだろう。


 しかし、それはすべてが上手くいけばの話だ。


「凶暴な魔物相手にそんなことができるのか?」

「だからこそのアデルなんだよ。並の魔物に襲われても容易に捕縛することができるではないか」

「まあ、どんな魔物かによるけど、大抵の魔物ならば捕縛することはできるな」


 団長に地獄のようなしごきを受けたせいか、そこら辺の騎士や冒険者よりも腕が経つ自信はある。


 ドラゴンなんていう超ド級な魔物を除けば、大抵は何とかできるはずだ。


「ああ、お前のような強さを持った人材は極めて貴重であるが、決め手になっているのはそれではない」

「強さじゃなかったら何なんだ?」

「それは魔物への愛だ! お前は魔物のことが好きだろ?」


 ニヤリと笑いながら指をさしてくるレフィーア。


「好きかと言われてもよくわからないが、あんな不思議生物が存在していれば興味も湧くさ」


 人間や動物とはかけ離れた特性や見た目をしているのだ。気にならないほうがおかしいだろう。


 俺は害を振りまく魔物を討伐するのが仕事だったが、それでも常に魔物に対する疑問や興味を持っていた。


 どういう理由でこのような進化を遂げたのか?


 なぜ雷を纏ったり炎を纏ったりするのか?


 どうして毛深いのか?


 ――などなど、興味は尽きない。


「くくく、残念ながら魔物に対してそのようなプラスな思考を持てる者は少ない。何せ人間は皆、小さな頃から魔物を絶対的な悪として教えられているからな。姿形こそ可愛くて無害であろうとも、嫌悪感を抱きがちになるものだ。特に魔物の恐ろしさを知っている者からすれば、その気持ちはより大きくなるであろう」


 レフィーアの言っていることもわからなくもない。任務とはいえ、これまで魔物に酷い目に遭わされてきたのに、未だに嫌悪感なく興味を抱けることは実は凄いことなのだろう。


「なるほど……俺ってば結構魔物が好きだったんだな」

「ああ、私と魔物談義ができていた時点でアデルはこちら側の変態だよ」

「言っている意味はわかるけど、その言い方はちょっとやめてくれ」


 俺は変態ではないと思う。


 憮然としながら言うと、レフィーアは「ククク」と面白そうに笑う。


「で、どうだ? お前の故郷、リフレット村で魔物牧場をやってみないか?」

「ああ、興味が出てきた。というか、やってみたい。詳しい話を聞かせてくれ」

「ククク、これで私の野望が……」


 俺が頷くと、レフィーアが急に不気味な笑い声を上げてブツブツと呟き出す。


「ん? どうしたんだ?」

「い、いや、何でもない! さあ、私の私室で細かい話をしようじゃないか!」



      ◆


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