フォレストドラゴンのいる日常 その2
「モコモコウサギ達に餌をあげてきたよ」
いつの間にかリスカがいなくなったと思っていたが、ちゃんと魔物達に餌をあげてくれたようだ。
「フォレストドラゴンは何を食べるかわからないし、眠っていたから放置しておいたけど……」
「ああ、ひとまずそれでいいだろう。俺はブルホーンを放牧してくるから、料理を見ていてくれ」
「わかった!」
台所をリスカに任せた俺は、靴を履いて外に出る。
そして、駆け足で厩舎に入るとブルホーンがむくりと立ち上がって「遅い」とでも言うように鳴き声を上げた。
「はいはい、悪かったよ。今、ここから出すから」
檻を解除して、どこか不満そうなブルホーンを宥めながら歩き出す。
ブルホーンもお腹が空いていたのか素直に歩き出してくれた。
厩舎を出て、サクサクと草を踏みしめながら進んでいると、ブルホーンがビクリと体を震わせて立ち止まる。
「どうした?」
「ブモオオ!?」
ブルホーンにしては珍しく驚いたような声。
その視線の先を見ると、フォレストドラゴンがだらりとしながら眠っていた。
ああ、うん。ブルホーンはこいつがくるところ目撃していなかったんだな。驚くのも無理はない。
「なんか今日からここに住むらしい。わかってるとは思うが仲良くするんだぞ」
「…………」
俺がそう説明すると、理解したのかわからないがブルホーンはしげしげと眺めてから視線を切った。
見なかったこと、あるいは干渉しないことにしたのだろうか。
さすがに気まぐれなブルホーンといえども力関係に敏い魔物だ。フォレストドラゴンへとタックルをかますことはないだろう。
したところで容易に転がされることは目に見えていることだろうしな。
やがてブルホーンは適当なところまで歩くと、牧草を食べだした。
俺は手で毛並みを整えてやってから家へ。
リビングに戻ると、既に野菜スープの鍋や食器類が並べられているがリスカやベルフの姿がいない。
気になって台所を覗き込むと、リスカとベルフが揃って竈型の魔道具を眺めていた。
リスカとベルフがちょこんと座り込んでいる姿はとても微笑ましい。
そろそろ焼き上がってきたからだろうか。辺りにはバケットの焼ける匂いやトマトの酸味、チーズの香ばしい香りが漂っている。
「そろそろできたんじゃないかな?」
「本当!? もう、さっきからすごくいい匂いがしてたまらないよ!」
興奮気味のリスカを尻目に、俺は魔道具を停止させて蓋を開ける。
すると、竈の中にはこんがりと焼けたピッザトーストができていた。
チーズはどろどろに溶けており、バケットの端にはほんのりと焦げ目がついている。
まさに今が食べごろと言ったところである。
「うわあ! 美味しそう!」
「よし、綺麗に焼き上がってるし、ご飯にするか!」
「うん!」
熱々のピッザトーストを皿に盛りつけて、リビングにあるテーブルへと持っていく。
それをベルフが切なさそうに見ていたので、俺はベルフの分としてベーコンを盛りつけた皿に二つ乗せてやった。
嬉しそうにするベルフを軽く撫でてから、俺は自分の席につく。
対面には既にリスカが座って、待ちきれないのかソワソワしていた。
「それじゃあ、食べるか」
俺がそう言った瞬間、リスカが真っ先にピッザトーストを手に取った。
焼き上がったばかりで熱いとわかってはいるが、手を出さずにはいられないのだろう。
リスカは「あちち」と言いながら、息を吹きかける。
それからゆっくりとピッザトーストを一口。
バケットの食感を表すようなサクッとした気持ちのいい音が鳴り、トーストからチーズが伸びる。
「んんんー!」
リスカはそのチーズの長さに驚くような声を上げ、器用に口を動かしてチーズを食べた。
それからゆっくりと咀嚼し、リスカが飲み込む。
「どうだ? 美味しいか?」
「すごく! 美味しい!」
俺が尋ねると、リスカは即答した。
リスカの明るい声と幸せそうな表情が、全力で美味しさを伝えてくるようだった。
「それはよかった。じゃあ、俺も……」
リスカが大変美味しそうに食べるので俺も食べたくなって一口。
焼き上がったバケットのサクッとした食感。それと共に塗られたトマトソース、どろどろに溶けた濃厚なチーズといった味が一体となって押し寄せてくる。
「うん、美味い!」
ああ、やはりリスカの言う通り、トマトソースとチーズの相性は抜群だ。
王都で何回も食べたことのある味だが、久し振りに食べるとすごく美味しく感じられる。
具材として乗せたソーセージの肉汁がまた合い、ピーマンの苦みがアクセントとして出ている。
ベルフなんかさっきから大好物のベーコンをそっちのけで、ピッザトーストを食べているくらいだ。余程気に入ったのだろう。




