フォレストドラゴンのいる日常 その1
話を終えると、グリンドさん達はそそくさと牧場から帰ってしまった。
本当はもっとゆっくり喋ったり牧場の中を案内してあげたかったのだが、暫定的ながらフォレストドラゴンを牧場に迎えると決めた以上、生活が落ち着くまではこっちに集中するべきだろう。
「しかし、『リスカを家に帰せ』なんてことくらいは言われると思ったが、セドリックさんは何も言わなかったな」
「アデル兄ちゃんは心配し過ぎだよ。というか、もしもの時はここにいようと村にいようとも変わりないし」
あいつが暴れるとなると、もはや被害は牧場だけに留まらずに村までいくだろうしな。
「そうか、わかった。でも、どうしても戻りたい時は言ってくれよ?」
「大丈夫! そんなこと思ってないし、少なくてもピイちゃんが大きくなるまでは手伝うつもりだから!」
そう言ってリスカは胸ポケットに入っているピイちゃんを優しく撫でる。
その表情はとても優しいもので、ピイちゃんを心から可愛がっていることがわかった。
負い目を果たすという理由もあるだろうが、それ以上に純粋に魔物への愛で手伝ってくれているようだ。
魔物が好きな俺からすれば、それはとても嬉しい。
「さて、もうお昼だし、昼食の準備をするか」
「うん! あたしも手伝う!」
今日は朝からフォレストドラゴンがやってきたり、グリンドさん達がやってきたりと慌ただしかったからな。
いつの間にか太陽の位置が中天へと迫っていた。
俺とリスカは食料庫へと向かい、料理に必要な食材を持って台所に戻る。
「今日は何作るの?」
「今日はピッザトーストを作ろうと思う」
「ピッザトースト?」
俺がそう言うと、リスカが小首を傾げる。
ピッザトーストとは、王都で流行っているパン料理なのだが、田舎であるリフレット村までは伝わっていないようだ。
「王都で流行っているパン料理だよ。簡単だし説明するよりも作ってみたほうが早いから」
そう言って、俺はソーセージを取り出し、リスカにピーマンを薄く切ってもらうように頼む。
それぞれ身を薄く切り終わると、次は冷蔵庫からトマトソースの入った瓶を取り出す。
「それはトマトソース?」
「ああ、事前に作っておいて保存しておいたんだ」
「へー、結構マメなんだね」
トマト、ニンニクやタマネギ、オリーブオイル、塩コショウなどがあれば簡単に作れる。
こうやって作っておいて保存しておけば、使いたい時にすぐに使えるので非常に便利だ。
「じゃあ、これを適当に切ったバケットに塗るよ」
スプーンでトマトソースをすくって、バケットに塗りつけていくと、リスカも真似をするようにスプーンで塗っていく。
バケットが瞬く間に、酸味のあるトマトソースで彩られる。
「ああ、なんかこれだけで美味しそう」
「気持ちはわかるけど、もうちょっと我慢だな。もっと美味しくなるから」
美味しそうなトマトソースの香りに惑わされながらも、俺とリスカはバケットにトマトソースを塗る。
それが終わると、先程薄く切ったソーセージ、ピーマンをバケットに乗せていって、最後にスライスしたチーズを載せてやる。
そして、竈型の魔道具に入れてスイッチを押してやれば、後は待つだけ。
「これで火が通れば完成だ」
「ふわぁ! これ絶対美味しいよ! トマトとチーズは絶対に合うもん!」
竈の外から覗き込みながら叫ぶリスカ。当然ながら中は密閉されているのでピッザトーストが見えることはない。
それでも張り付いてしまうほどにリスカの期待値が高いのだろう。
「ほらほら、焼き上がるまでに他の料理も作っちゃうぞ。ベルフ達の餌やりもあるんだし」
「あ、うん!」
料理というキーワードを出すと、リスカが我に返る。
リビングにある窓を見れば、俺達が料理していると察知したのかベルフがこちらを覗き込んでいた。
あちらもお腹がペコペコなんだろう。
「余ったソーセージ、ベルフにあげてもいい?」
「いいよ」
「わかった! あげてくる!」
俺がそう言うと、リスカはソーセージを持って窓際へと移動した。
窓を開けると、ベルフが器用に顔だけをこちらに入れて、リスカの差し出すソーセージをパクパクと食べている。
余ったソーセージとピーマンは、朝に作った野菜スープに混ぜてしまおうと思っていたのだが、別に他の食材を使えばいいか。
この間、ベルフとブラックウルフ達が山で肉をたくさんとってきたので余っているくらいだし。
俺は食料庫から新たにベーコンを持ってくる。
薄く切ったほうは温めている野菜スープに投入し、大きな塊はベルフ用にフライパンで炒めてやる。
油のひいたフライパンの上でジューと焼き上がる音がする。
それを聞いた瞬間、ソーセージを食べ終わったベルフは窓から姿を消す。
すると、すぐに玄関が開く音がし、ベルフが台所まで入ってきた。
うむ、窓からそのまま入ってこないとは偉いな。
「ちゃんと足は拭ってきたか?」
「ウォフ!」
俺がそう言うと、ベルフは勿論と言うように鳴いた。
試しに前足を上げさせると、足の裏は綺麗なものであった。
前は大好物のベーコンに夢中になるあまり、汚れたまま入ってきたからな。
その時の罰としてベーコンを減らしたのが相当効いたのだろう。今となっては大好物が前でもちゃんと冷静だ。
焼けるベーコンを見上げながら、尻尾を左右に振るベルフが可愛らしい。




