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お世話されたいフォレストドラゴン その4

「ど、どうするのアデル兄ちゃん?」

「いや、どうするって言われてもなぁ」


 動揺しながらも朝の作業を一通り終わらせたリスカと俺は、牧草の上に座り込んで視線を一角に向ける。


 そこでは周囲の木々に同化するかのように、巨大なフォレストドラゴンが眠りこけていた。


 俺とリスカの気持ちも知らずに、本人はとても気楽そうだ。


 こちとら急にフォレストドラゴンがやってきて困っているというのに。


「出て行けって言っても聞かないだろうし、とにかく様子を見るしかないだろ。フォレストドラゴンなんかを相手にして勝てるわけないからなぁ」

「アデル兄ちゃんでも、なんとかできないの?」

「……無理だ。よくて少し身体に傷をつけられるかどうか。王国の騎士団を総動員してやっと勝てるくらいだよ」


 そうでなければ、竜種が最強などとはいえない。このレベルの魔物を相手にするということは災害に立ち向かうようなものなのだから。


「仮に俺が一人で倒せるような猛者だったとしても、フォレストドラゴンが暴れて、ここら一帯更地になっては意味がない」

「そ、そうだよね」


 ここには大切な人がたくさんいる。そのような無謀なことをして、フォレストドラゴンを怒らせるような真似なんてできるはずもない。


「今できることは、フォレストドラゴンに気を配りながらいつも通りに働くだけだな」


 後はレフィーアに手紙で報告をして、アドバイスをもらうくらいしかやれることはない。


 村長にも報告しておいたほうがいいな。


「う、うん、わかった。あと、あたしもお話ししてみたい!」

「そうだな。後で話しかけてみるか」


 さすがに俺も竜種には出会ったことがないし、言葉で意思疎通ができる魔物は初めてだ。ぜひ色々聞いてみたい。


 こんな時でも魔物への好奇心のほうが勝っているだなんて、俺はレフィーアの言う通り魔物バカなのかもしれない。


 とはいえ、今の状態が良いとは言えないな。


 ベルフは警戒するような眼差しを眠っているフォレストドラゴンに向けているし、いつもはのんびりと追いかけっこや昼寝をしているモコモコウサギ達も、一塊になってどこか委縮している。


 長閑な牧場だったのに、たった一頭(と言うには大きすぎるが)の魔物が来ただけで不穏な雰囲気が漂っている。


 あれでは魔物達に変なストレスがかかってしまうな。


 なんとか安心させてあげないとベルフはともかく、モコモコウサギ達は山に帰ってしまうかもしれない。


 どうしたものかと考え込んでいると、モコモコウサギの一匹――ピッキーが転がりながら、フォレストドラゴンへと近付いていった。


「ああ、ピッキーが!」


 リスカが驚きの声を上げている間に、ピッキーは眠っているフォレストドラゴンへとよじ登り始めた。


 しかし、ピッキーの短い手足では思うようにフォレストドラゴンの身体を登ることができず、何度も登っては転がってを繰り返す。


 一方、眠りこけていたフォレストドラゴンは大きな目を開けてピッキーを捉える。


 だがピッキーは、それを気にする様子もなく、フォレストドラゴンへと語りかけた。


「ピキ! ピキピキ!」

「ふっ、よかろう。我の背中に乗せてやろうではないか」


 どうやらピッキーは背中に乗せろとでも言ったのだろうか? フォレストドラゴンはどこか優しい声音で言うと、身体から蔓を伸ばしてピッキーを持ち上げて背中へと乗せた。


「ピキピキ!」

「そうか。我の背中は居心地がいいか」


 ピッキーの言葉がわかるのか、フォレストドラゴンは楽しそうに笑う。


 そんなピッキー達を見て、どこか警戒心が解けたのだろうか。モコモコウサギの群れがおずおずとフォレストドラゴンへと近付いていく。


「しょうがない。好きに乗るといい」


 モコモコウサギの好奇心を察して、フォレストドラゴンは蔓を伸ばして登り台を作ってやる。


 すると、モコモコウサギ達はこぞってフォレストドラゴンに登り始めた。


 モコモコウサギは転がることに特化しているので、勾配を登ることは不慣れだ。


 ほとんどの個体が背中から落ちているが、それでもモコモコウサギは楽しそうだ。


 そんな光景を見て、警戒していたベルフも気が抜けたようだ。


 危険はないと判断したらしく、今ではのんびりと歩き回っている。


「……なんだかあっという間に仲良くなっちゃったね」

「ああ、俺達が気を回す必要もなかったな」


 今の様子からしてフォレストドラゴンは魔物とも会話ができるのだろう。これなら俺達が必要以上に気を使わなくても大丈夫なのかもしれない。


 にしても、相変わらずピッキーは怖い者知らずだな。


 森で俺と出会った時も、まったく警戒することもなくあんな感じに近付いてきて仲良くなれた。


 牧場にベルフがやってきた時も、モコモコウサギの群れがやってきた時もそう。ピッキーが前に出て、その陽気さでみんなの輪を繋いでくれた。


 今やピッキーは魔物牧場にいてくれなくてはならない、大切な仲間だな。


 ピッキーには改めて礼を言っておかないと。


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