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お世話されたいフォレストドラゴン その2

 起床した俺は、作業着に着替えて一階の台所へと向かう。


 そして冷蔵室の中に入っているミルク瓶を取り出し、ブルホーンから絞ったミルクをコップに注いで飲んだ。


 濃厚ながらもすっきりとしたミルクが喉を通り過ぎて身体に染み渡る。


「朝の一杯は格別に美味いな」


 寝ている間に渇いていた喉を、このミルクで潤してやるのが堪らない。


 ブルホーンからミルクがとれるようになってから毎朝飲むのが日課になっているな。


 もう一杯とばかりにミルクをコップに注いでいると、階段のほうから足音が聞こえてくる。


 程なく、台所にリスカが入ってきた。


「アデル兄ちゃん、おはよう!」

「おはよう、リスカ。ブルホーンのミルク飲むか?」

「飲む!」


 朝から元気いっぱいのリスカを微笑ましく思いながら、俺は食器棚からリスカ専用のコップを出してミルクを入れてやる。


「ありがとう」


 リスカは礼を言って受け取ると、コップを傾けてこくこくと飲んだ。


「ふう……やっぱり、朝一番のミルクは美味しいね」


 さっきの俺と同じようなことを言いながらお代わりを催促してくるリスカに、俺はもう一度注いでやる。


 一杯目は喉を潤すように一気に。二杯目はその濃厚さを味わうようにゆっくりと飲むのが俺達のスタイルだ。


「ピイピイ!」


 ブルホーンのミルクを味わって飲んでいると、リスカの胸ポケットからピイちゃんが顔を出して声を上げた。


「どうしたの? ピイちゃんも飲みたいの?」

「ピイ!」


 ピイちゃんもミルクを飲みたいらしいことを察した俺は、食器棚から浅い皿を取り出してテーブルに置く。


 そこにミルクを注ぐと、リスカがピイちゃんをポケットから皿の近くへと置いた。


 ピイちゃんはミルク皿を見るなり、その小さな二本脚でトテトテと歩いていく。


「随分としっかり歩けるようになったな」

「うん、まだ二週間しか経ってないけど、もう十分歩けるみたい」


 ピイちゃんは小さな嘴を突っ込んで、すくうようにしながらミルクを飲んでいる。


 生まれたばかりの頃は上手に脚を使えず這うように移動していたが、今ではしっかりと自分の脚で歩けるようだ。


 些細な変化かもしれないけど、間近でそんな成長を目にすることができて、すごく嬉しい。


 リスカも同じ気持ちなのか、嬉しそうにしながらピイちゃんを見守っていた。


 一から育てるというのはいいな。俺も何かを育ててみようか。


 森にいる魔物の卵を頂くか、レフィーアに魔物の卵を送ってもらうのもいいかもしれない。


 いや、でもあいつに頼むと扱いの難しそうな魔物の卵がきそうで怖いな。


 それに今はモコモコウサギが大量に増えたし、まずは生態の観察に徹するべきだろう。


 借金については、ブルホーンのミルクを少しずつ村に流通していくことで返済していこう。バターやホエーチーズもできるのだが、売れる程たくさん作れるわけではないからな。


 モコモコウサギの毛が刈れるのはまだ先だし、今の金策としてできるのはブルホーンのミルクから作った乳製品を村で広めるくらいだ。


 後は、レフィーアが何かしらの動きをして援助してくれることくらいだが……そちらはあまりあてにならなそうだしなぁ。


 俺は不安を押し流すようにミルクを飲むと立ち上がる。


「それじゃあ、俺はベルフとブルホーンの世話をしてくるよ。リスカはピイちゃんの面倒を見たらピッキー達をお願い」

「わかった!」


 リスカにそう伝えて玄関に向かい、家を出る。


「ウォッフ!」


 玄関口のすぐ傍には、俺を待っていたかのようにベルフが元気よく声を上げる。


「おはよう、ベルフ」


 俺はそれに答えてから、しゃがみ込んでベルフの頭や首元を撫でてやる。


 ベルフの頭は毛が短いからかすべすべで、首元は少し長めのフワフワだ。体の毛は長くて硬く、お腹のほうは柔らかい。部位によって様々な毛質があるのだ。


 そのすべてを堪能するように撫でてやるとベルフが気持ちよさそうに目を細める。


 俺もリスカのようにベルフを腰砕けにするようなテクニックがあればいいのだが、まだまだ実力が足りないようだな。


「モコモコウサギ達ー! 今日はクルの実があるよー!」


 俺がそんなことを思っていると、籠を持ったリスカが玄関から出てきて声を上げる。


 この間、森でクルの実をたくさん採ったので、今日はモコモコウサギの好物がたくさんだな。


 リスカが声を上げると、何かもらえるらしいことを察したのかモコモコウサギが集まってくる。


 あっという間にピンク色の毛玉に囲まれるリスカは、楽しそうに笑いながらクルの実を撒いていた。


 やっぱりリスカがいてくれて助かるな。あれを俺一人で面倒見ていたらかなり大変だっただろうし。


「ウォフ?」


 そんな事を思いながらベルフを撫でていると、ベルフが空を見上げだした。


 空に気になる鳥でもいるのだろうな。


「ウォッフ! ウォッフ!」


 気にせず撫でていると、突然ベルフが激しい唸り声を上げて吠え出す。


 いつもとは違う、どこか緊迫感の籠った声に驚き、クルの実を食べていたモコモコウサギやリスカまでもが驚いてこちらを見る。


 何か危険を察知したのか?


 ベルフが睨みつけるようにして見上げている空へ視線を向けると、大きな影が落ちた。


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