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お世話されたいフォレストドラゴン その1

 我がそれに気付いたのはたまたまであった。


 我を狙ってくる人間達を返り討ちにし、騒がしくなってきたので新しい住処を探そうと空を飛んでいた時だ。


「はぁ、また新しい住処を探さねばならんのか」


 人目に触れないように空の高いところを飛びながら、我はため息を吐く。


 我はフォレストドラゴン。自然と共に生きるのが好きで、日光を浴び水と少しの植物を得て、自分で言うのも何であるが、慎ましやかな生活を送っている。


 けして人や動物、魔物などは食べたりはしない。


 人間を襲ったりも、街を襲撃したりもしていない。


 ただ普通に森で暮らしていただけだ。


 それなのに人間は竜殺しの名誉、我の鱗や血、爪といった素材を目当てにして襲ってくる。


 いったい我が何をしたというのか。


 降りかかる火の粉を振り払い、住処を移動する生活。


 そんなものはもう飽き飽きだ。


 我はのんびりと暮らしていきたいだけだというのに、周りがそれを許してくれない。


 うんざりだ。


 また次の住処を見つけても、いずれは人間に見つかり襲われることになるのだろうな。


 そんな諦めの境地の中、空を飛んでいると、遠くで牛や馬などの家畜がのんびりと寝転んでいるのが見えた。


 いいな。我もあのように飼ってもらえれば、危険に怯えることも住処を移す必要もなくのんびりと暮らしていけるのに。


「我も鱗や爪を提供する代わりに、あのような生活が送れないだろうか?」


 とはいっても牛や馬などを育てる牧場はあっても、魔物を育成するような牧場など存在しない。


 そのことをよく知っている我は冗談交じりにそう呟いた。


 さて、現実逃避は程々にして、新しい住処を見つけなければな。


 できれば広くて静かで自然が豊かな森がいいな、などと思いながら地上を見ていると、人里近くの牧場らしき場所に魔物がうろついているのが目に入った。


 それもブラックウルフの進化種であるベオウルフだ。


 無害な魔物ならともかく、あのような凶暴な魔物がいては、あの牧場も終わりだろう。そこにいる家畜はすべて食い尽くされ、牧場主も襲われるだろうな。


 ベオウルフが討伐されるまで、この一帯は騒がしくなるはず。


 ここはやめておこう。


 そう判断をして旋回しようとしたところで、奇妙な光景が目に入る。


「なんだ、これは!?」


 緑の牧草の上にたくさんのモコモコウサギがいるではないか。


 あいつらはとても警戒心が強く臆病で、人里に近寄ることなど滅多にないというのに、大量のモコモコウサギが気持ちよさそうに牧場で眠りこけていた。


 まるでそこが一番安全な場所だと言わんばかりに。


 牧場の端を見れば、気性の荒いブルホーンが優雅に草を食んでいる。


 互いに争う素振りは一切ない。


「どういうことだ? ここは人里だ。とても魔物が住める場所ではない。だというのに、彼らがのんびりと暮らしているこの光景は何だというのだ?」


 我が愕然としていると、近くの家から人間の男が出てきて、ベオウルフの前に姿を現した。


 あの人間は食われて死ぬだろうな。などと思っていたが、驚いたことに人間の男はあのベオウルフを無遠慮に撫でた。


「あの獰猛な魔物であるベオウルフを撫でるなど正気か!? 次の瞬間には喉に噛みつかれるぞ」


 などと想像したが、そんなことは現実に起きることなく、ベオウルフはそれを当然のように受け入れて喜んでいた。


 嬉しそうに尻尾を振る様子は、まるで犬のよう。数多のブラックウルフを従えし獣の王とはとても思えぬものである。


「バカな? 一体どうして?」


 ベオウルフは稀にであるが強き者に従順することがある。きっと、あの人間はベオウルフを完膚なきまで叩きのめして従属させたのであろう。


 パッとしない顔をしている癖に中々に豪胆な男だ。


 我が感心している間に、同じように人間の女が家から出てくる。


 モコモコウサギ達はそれに怯えることも警戒することもなく、女が持ってきた木の実や果物を喜んで食べていた。


「……まさか、あそこは人間が魔物の世話をしてくれる牧場なのか? そうだとしたら……我も是非ともお世話してもらいたい! とりあえず……あそこに向かってみるか?」


 人間と魔物が共存しているならば、フォレストドラゴンでも無理はないはず。

 我は人間に世話をしてもらい、のんびりと暮らす光景を想像しながら、魔物牧場らしき場所へと急降下した。


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