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ベルフ その4

 倒木の場所から離れると、ベルフが先ほどと同じように走り出して吠える。


「まだ自生してる場所があるのか!?」


 同じようにベルフについていくと、これまた獣道の奥へと連れて行かれ、同じようにエルキノコが生えている場所を三ヶ所も見つけた。


 ベルフはまだ他にも知っているようだったが、さすがにこれ以上エルキノコを見つけても持って帰ることができない。


「今日の目的は肉だぞ? このままだとウサギ一匹で、一食分しか持たないぞ?」


 俺がそう告げてやると、ベルフははっと思い出したかのような顔をした。


 どうやら俺を案内するのですっかりと忘れていたようだ。


 どこか間抜けな顔をしているベルフをくすり笑っていると、


「ウォオオオオオオオン!」


 唐突にベルフが遠吠えを上げ出した。


 その行動に驚いていると、しばらくして周囲から大量の足音が聞こえてくる。


 慌てて辺りを見渡すと、ブラックウルフが一頭現れ、その奥から二頭現れ――と、ドンドンと合流していき、それは一つの群れとなる。


 ブラックウルフ達は俺とベルフの傍によると、大人しく座り込んだ。


「こいつら、あの時のベルフの部下達か?」

「「「ウォン!」」」


 俺の言葉に返事するように声を上げるブラックウルフ達。


 リーダーであるベルフがいなくなって、どうしているのかと思っていたが、いなくなってからも忠誠は変わらないようだ。


 まあ、ベルフに立ち向かえるような強者がいれば別なのかもしれないが。


 ベルフは集まってきたブラックウルフ達を睥睨すると、顔を怖くして睨みつける。それはまるで自分の強さや恐ろしさを忘れていないかどうか、試しているような顔つきだ。さっきまでだらしなく表情を弛緩させていただけにギャップが凄い。


 俺がそんなことを思っていると、ベルフが歩み出て声を上げる。


「ウォッフウォフ!」

「「「「「ウォン!」」」」」

「ウォフ!」


 ベルフが最後にそう吠えると、ブラックウルフが一斉に駆け出していった。


「もしかして、ブラックウルフに獲物を探させたのか?」

「ウォフ!」


 そうだとばかりに胸を張って答えるベルフ。


 どうやらさっきの一食分しか肉がないという言葉が、ベルフを本気にさせてしまったようだ。


 ブラックウルフの群れを呼び寄せ、文字通りの狩りを行わせているということだろう。


 こうなってしまっては、俺なんかが動いても意味ないな。


 しばらくベルフと待機していると、遠くでブラックウルフのものらしき遠吠えが上がる。


 呑気に座っていたベルフが立ち上がったので、俺も一応警戒だけはしておく。


 すると、森の奥からブラックウルフに追い立てられたイノシシがこちらに向かって走ってきた。それも一匹ではなく、二匹、三匹と、結構な数である。


 綺麗に仕留めるには待ち受ける俺が仕留めるのが一番だろう。


 俺は弓を構えて矢を番える。


 そして、こちらに真っ直ぐに直進してくるイノシシに矢を放った。


 ブラックウルフに追い立てられたイノシシ達はこちらに気付くことなく、脳天に矢を生やす。


 一つ矢を放つと、すかさず次の矢を番えて同じように発射。二匹目、三匹目と同じように脳天を打ち抜かれたイノシシは倒れた。


 よかった。弓の腕はそこまで落ちていなかったようだ。


 俺は主に剣と魔法を得意とする魔法騎士だったが、弓に魔法の力を付与して遠距離で戦うこともできる。今回は食べることを目的とした狩りなので使うことはなかったが、基礎的な動きはしっかりと体が覚えていたようである。


「にしても大量だな。まったく動くことなくイノシシを三匹も狩ることができたぞ」


 ブラックウルフを使った人海戦術による狩りか。凄まじいな。一匹丸々分けてもらうと考えても良い成果といえる。


 これならしばらくは肉のことを心配せずに済むな。


「ウオオオオオン!」


 しかし、ホッとするのも束の間。また遠くで遠吠えが上がってくる。


 しばらくすると、また森の奥からイノシシ三匹、シカが二匹、その後ろからもウサギや子鹿などといった草食動物が追い立てられてやってくる。


「ちょ、ちょっと待て。まだやる気か? さすがにそんなに連れてこられても持って帰ることができないぞ!? ベルフ、そろそろやめさせてくれ!」


 俺がそう指示するとベルフが遠吠えを上げ、それに反応するように遠くでいくつかの遠吠えが上がった。撤退の合図を聞き入れてくれたのか?


 とりあえず安心しつつ、走ってきたシカとイノシシを一匹ずつ矢で打ち抜いて、残りは逃がす。


 ブラックウルフの群れの規模を考えても、これくらいが妥当だろう。あまり一気に狩りすぎると動物がいなくなってしまう。


 ブラックウルフ達の狩りはそれを感じさせてしまうほどの勢いだ。


 なんてことを思いながら仕留めた獲物の血抜き処理などを施す。


 山での血抜き処理は。血に飢えた肉食獣に気を付けなければいけないのだが、これほどブラックウルフがいれば、クマだろうが大型の魔物だろうが逃げ出すことは当然だろうな。


 おかげであまり周囲を警戒することもなく処理をすることができた。


「ありがとな、ブラックウルフ達。これでしばらく肉には困らないよ」

「「「「ウォン!」」」」


 俺が集まってくれたブラックウルフ達に礼を言うと、ベルフが「集めたのは俺なんだけどなー?」というような不機嫌そうな表情を見せる。


「ベルフもありがとうな。おかげで肉がたくさん食べられる」

「ウォフ!」


 ベルフの頭や首を撫でながらちゃんと褒めてやると、機嫌を直したのかベルフは嬉しそうに声を上げた。


 そんな光景をブラックウルフ達が羨ましそうに見ていたので、手近にいた奴の何匹かの頭を軽く撫でてやる。


「悪いな。さすがにお前達全員を養うほどの余裕はないけど、森で俺達を見かけた時は遠慮なく甘えてくれ」

「「「ウォン!」」」


 そう言い聞かせて、俺はイノシシ三匹分の肉とシカほぼ一匹分の肉を渡しブラックウルフ達と別れる。


 俺とベルフの収穫はウサギ一匹、大量のエルキノコ、イノシシ一匹とシカのお腹の部分の肉、そしてブラックウルフ達が使わないイノシシ三匹とシカ一匹の毛皮だ。


 半日の狩りで十分過ぎるほどの成果だな。


 これでしばらくは肉とキノコに困ることはなさそうだ。


「さて、帰って夕食とするか」

「ウォッフ!」


 俺とベルフは狩りの成功を喜びながら、並んで帰路についた。


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