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ベルフ その3

「はぁ……はぁ……やっと着いた」


 牧場から全力に近い速度で疾走して二十分くらい。


 俺とベルフは西の森へとたどり着いていた。


 しかし、俺とベルフの体力は雲泥の差。俺は息を切らしているというのに、ベルフはものともせずに軽い足取りだ。


 久しぶりに長距離を走れたことと、自分の縄張りに帰ってこれたことが嬉しいのだろう。


 勝手知ったる様子で道を進んでいくベルフを微笑ましく思いながら、俺は後ろをついていく。


 森の中は木々によって作られた日陰のおかげで少し涼しい。入り込んでくる風は身体から体温を奪っていくようで心地よかった。


「さて、狩りをするか」


 今日の目的は肉の調達。できればイノシシ辺りの獲物を手に入れて、しばらく肉に困らないようにしておきたいところ。


 一人であれば探すのに苦戦するところであるが、今日はベルフがいる。


 俺よりも遥かに嗅覚、聴覚に優れており、動物達の生息地を把握しているベルフなら獲物を楽に見つけることができるだろう。


「ベルフ、獲物を見つけてきてくれ。自分で仕留められるなら仕留めてもいいが、あまり傷をつけないようにな。大事な俺達の食料だから」

「ウォフ!」


 俺がそう言うと、ベルフは「わかった!」といった言わんばかりに良い返事をして走り出した。


 その見事な走りは森にある木々や根などの障害物をものともしない鮮やかなものだ。


 あっという間に視界から消えたベルフを確認し、俺も獲物を見つけるべく歩く。


 ベルフであれば俺の匂いを辿ることも簡単だろうから、合流地点を決める必要もないし別行動ができるので楽だな。


 森の空気を感じながらしばらく歩いていると、木の根元に木の実が群生しているポイントを見つけた。オレンジ色をした楕円形をしたクルの実だ。


 それを一つもぎ取り、服で軽く拭ってから口の中へ。


 張りのある皮がプチリと音を立てて潰れ、中から甘い果汁と柔らかい果肉で出てきた。


 どこかリンゴのような爽やかな甘み。


 懐かしいな。子供の頃はこうやってリシティアと森に入ってクルの実を食べていたものだ。リスカは森を怖がって付いてはこなかったっけ。


 昔は弱気だったリスカを思い出し、九年という年月は人を大きく変えるものだと痛感した。


「これならピッキー達も喜んで食べそうだし、多めに採取しておくか」


 モコモコウサギ達ならこういう木の実も、喜びながら群がって食べるだろうな。


 そんな姿を想像しながら、俺はクルの実をたくさん採って革袋に入れていく。


 そうやってクルの実を採取していると、ベルフらしき足音が近付いてきた。


 立ち上がって足音のほうを見ると、ベルフがウサギを抱えながらこちらにやってくる。どうやら早速獲物を獲ってきたらしい。


「よくやったな」

「ウォフ!」


 ウサギの首元にはしっかりと牙が刺さってはいるが、まだ生きている模様。


 俺はベルフからウサギを受け取ると、手際よくナイフで血抜き処理を施していく。


 後は近くの木々に逆さに釣って、血が抜けるまで待つだけだ。


 ふと視線を変えると、ベルフがクルの実をパクリパクリと食べていた。


「おー、ベルフもクルの実を食べるんだな」


 ベルフのそんな行動を見ながら自分でもクルの実を食べる。


 そんな感じで血抜きが追わるまで休憩し、処理が完了したウサギを専用の大きな革袋に入れて腰からぶら下げる。


 よし、狩りの再開だ。


 今度はベルフと一緒に獲物を探すとしよう。


 しばらく道なりに歩いていると、目の前に大きな茶色いキノコが現れた。


「おお、エルキノコがあるなんて運がいいな」


 大きなカサが特徴的なエルキノコ。


 大きくて歯応えがあり、焼いても美味く出汁に使っても美味しいキノコだ。しかし、数が少なくて見つけることが難しいので、村の中ではちょっとした高級品扱いだ。


 そんなレア食材を見つけた俺は、即座に採取することにする。


「ウォフ?」


 エルキノコを採る俺を見て、ベルフが首を傾げている。


「これはとても美味しいキノコで滅多に見つからないんだ」


 俺がエルキノコを見せながら言うと、ベルフは鼻を近付けて匂いを嗅ぎ出した。


 それから唐突に走り出すと、こちらを振り向いて付いてこいとばかりに吠える。


 もしかして、エルキノコが生えている場所を他にも知っているのか?


 まあ、この森を縄張りにしていたベルフなら把握していてもおかしくはないよな。


 ベルフを信じることにした俺は、黙ってそれに付いていく。


 道から外れ、入り組んだ獣道をドンドンと進む。時には生い茂る草のカーペットをほふく前進でくぐりながら。


 この先に本当にあるのだろうか?


 道の険しさに思わずそんなんてことを思いながら進むと大きな倒木が見えた。


 ぽっかりと空間が空いているが、以前にピッキーが日差しを浴びていたような場所ではなく、薄暗くてじめっとした場所だ。


「ウォフ!」


 こんな場所もあったのかと警戒しながら進んでいると、ベルフが倒木の傍で小さく吠える。


 そこには高級品であるエルキノコが、倒木にびっしりと生えていた。


 その量は、決して一人では採れ切れないほどである。


「おお、凄いな。こんなところにたくさん生えているとは」


 いや、人気のない獣道の先にある暗い場所だからこそ生えているのだろう。本来、キノコというのは暗くてじめっとした場所にあるものだし。


 さすがに地元の狩人でも、これは見つけられないだろうな。


 どう見ても行き止まりだと思っていた場所に、動物だけが入れるような秘密な入り口があった時は驚いたものだ。ベルフの案内無しではたどり着けなかっただろう。


 俺は試しに倒木に生えているキノコを一つ採ってみる。


 うん、見た目や香りも間違いなくエルキノコだ。


「ありがとなベルフ。おかげでたくさん見つけられた」

「ウォフ!」


 俺が撫でながら礼を言うと、ベルフは嬉しそうに尻尾を振って声を上げた。


 ベルフが機嫌良さそうに待機する中、俺は倒木に自生しているエルキノコを片っ端から採っていく。エルキノコの入れ食い状態だ。まさかクルの実感覚でエルキノコが採れるとは思ってもいなかったな。


 たくさんあるのでポーチが膨らむまで入れてやる。余っても乾燥させておけば保存食として使えるし、実家にも分けられる。それに村での物々交換でも役に立つだろうしな。


 ポーチも膨らみ、採りきれなくなったところで採取をやめる。


 倒木にはまだびっしりと生えていたが、また必要な時に来ればいい。こんな場所は俺やベルフしか来れないだろうしな。


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