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ベルフ その1

 モコモコウサギの観察を続けていると、自分のお腹が「ぐううう」と音を立てた。


「おっ、もうお昼か」


 朝からずっとモコモコウサギの観察をしていたせいか、俺の胃袋はすっかり空になっていたらしい。


「あたし、お腹空いちゃった」

「じゃあ、一旦切り上げて昼食にするか」


 昼食にすることにした俺とリスカは、メモとペンをポケットにしまって観察を切り上げる。


「おーい、ベオウルフ。昼食だぞー」


 家に戻りながら遠くで寝転んでいたベオウルフに声をかける。


「…………」


 いつもなら俺の声に喜ぶように返事するのだが、今日は何も言わずに無言でこちらやってきた。


 その違和感にはリスカも気付いたようで首を傾げる。


「あれ? なんかべオウルフが元気ないね?」

「そうだな。もしかして、体調が良くないのかな?」


 気になってベオウルフの全身を調べてみたが、特に異常は見られない。


「どうかしたのか? ベオウルフ?」

「……ウォフ」


 俺が尋ねてみるもベオウルフは素っ気なく返事をする。


 なんだかいつもよりも雰囲気が冷たい気がする。


 普段ならこちらが何か問いかけると、犬のように尻尾を振って元気に答えてくれるというのに。


「とりあえず、昼食を食べて様子を見てみるか」

「そうだね」


 もしかすると、何か病気にかかっていたり体調が悪いのかもしれない。


 俺とリスカはベオウルフの様子を気にしながら家へと向かう。


 すると、ベオウルフもついてきた。


 いつもよりも上機嫌ではないが、昼食自体は楽しみなのか尻尾は少し揺れている。


 食欲がありそうなことにホッとしながら、玄関でしっかりと土を落としてからスリッパに履き替える。


 ベオウルフはカーペットで足の裏を拭いてからちゃんと上がった。


「昼食は何にするの?」

「そうだな。朝のミルクポタージュは無くなったしなぁ」


 本当は朝の残りを昼食に回そうと思っていたのだが、誰かさん達のせいで無くなってしまったのだ。


「あ、あれはアデル兄ちゃんの料理が美味しいから悪いんだよ!」


 リスカの言葉は、俺を褒めていい気にさせるという打算が入ったものだとわかっているが、作った身としては嬉しい。


「アデル兄ちゃんって料理が上手いよね」

「騎士団では遠征だってあったしな。出先で料理ができないと困ることも多かった」


 保存食だけではストレスも増えるし、ある程度は手作り料理がないと騎士団の士気も下がる。


 入団した当時、若かった俺は真っ先に調理当番をやらされた。


 特にカタリナ団長は味にうるさかった。


 やれ味が濃いだと薄いだのと文句をつけられたし。


 そんな理由から、必然的に料理の腕が上がっていったのだ。


「へー、でもいいじゃん。料理のできる男の人は人気あるよ」

「おかげで飼育員と魔物から好かれているようだしな」


 なんて肩をすくめてから、隣の冷蔵室に向かう。


 ベオウルフの体調が不明だが、ひとまずはステーキを用意してみるか。


 大好物のこれが食べられないようであれば、レフィーアに急いで連絡をとって指示を仰ぐしかないな。彼女なら何かわかるかもしれないし。


 そう思案しながら冷蔵室から肉を取り出そうとするも――何故か肉が見当たらない。


「あれ? ここに豚肉があったはずなんだが」


 おかしい。今朝までは大きな豚肉がここにあったはずなのだが、綺麗さっぱりなくなっている。

試しに他の箇所も探してみるが、あるのは野菜やミルク瓶だけだった。


「おい、リスカ。冷蔵室にある豚肉全部食べたのか!」

「あんな大きな豚肉を一人で食べきれるわけないでしょ!」


 リスカに尋ねてみるも、速攻で否定の言葉が返ってきた。


 リスカじゃないとすると、他に考え付くのは……!?


「お前か。ベオウルフ」

「…………」


 俺が近付いて尋ねると、ベオウルフが無言で顔を逸らした。


 今のところうちの牧場で肉を食べる魔物は、ベオウルフしかいない。


 俺とリスカに覚えがない以上、犯人は肉食のベオウルフしか考えられないな。


 俺が怪しみの表情を浮かべながらベオウルフの顔を逸らした方向に回り込むと、またプイッと顔を逸らされる。


 ふと、ベオウルフの尻尾を観察してみると、心の動揺を表すようにふにゃりふにゃりと動いていた。


 これは黒だな。


「まあ、これだけ体も大きいし、たくさん食べたくなるわよね」

「それはわかってる」

「じゃあ、何が気になってるの?」


 リスカの言うことはもっともだ。


 事実、ベオウルフはその体の大きさ故に、たくさん肉を食べる。


 しかし、今までは足りなければ必ず俺に催促していたのだ。


 こいつは従順で賢いから、理由もなく冷蔵室から食料を盗むようなことはしないと思う……多分。


 となると、さっきからの違和感のある態度が気になるな。


 リスカにそのことを説明すると、彼女は少し考え込んだ後に言った。


「……もしかして、ベオウルフは名前を貰ってないからじゃない?」


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