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飼育員のいる牧場 その2

「まずは厩舎の掃除と餌やりも兼ねてブルホーンを放牧する。ブルホーンの世話は今後も俺がやるけど、一応流れだけは見ておいてくれ」

「わかった。掃除くらいは手伝えるし離れて見とくね」


 リスカを違う檻に避難させたところで、ブルホーンの檻を解く。


 この時間に檻を解くことにどんな意味があるのか理解しているようで、ブルホーンは立ち上がると勝手に檻を出ていく。


 念のために俺は首輪についた縄を持って、ブルホーンを誘導するように歩く。


 ブルホーンは一瞬リスカに視線を向けるが、特に気にした様子も見せずに移動する。


 ここで機嫌が悪かったり、気に入らなかったりすれば即座にタックルするので少し安心した。少なくてもブルホーンにとって、リスカはストレスに思うような対象にはならなかったようだ。


 とはいえ、こいつは気分屋なので注意は必要だろう。


 厩舎から離れたところでブルホーンを放牧してから、俺は指笛を吹く。


「ウォフ!」


 すると、音を聞きつけたベオウルフがこちらへと駆け寄ってくる。


「ブルホーンがリスカに突撃しないように気を配ってやってくれ」

「ウォッフ!」


 ベオウルフが頷いてくれたところで少し安心だ。


 俺も意識を配っておくが、ブルホーンがいつ気まぐれに突撃するかわからないからな。


 念を入れたところで俺は厩舎へと戻る。


「後はブルホーンの藁の取り換えと糞の掃除だな。まあ、この辺りはリスカの牧場と同じところだな」

「うん、任せて!」


 俺が中の藁を回収して、リスカがスコップでブルホーンの糞を集めていく。


 ブルホーンは体が大きいので排泄される糞もかなりの重さなのだが、リスカは手馴れた様子でそれをすくって、排出用の手押し車へと乗せていく。


「糞は乾燥させるよね?」

「ああ、裏にある倉庫に入れておいてくれ」


 これらの糞は乾燥させて暖炉の燃料にしたり、肥料にもしたりできるので、別倉庫へと収容することになる。


 リスカが糞を集めて運んでいるうちに、俺は檻の中を手早く掃除して新しい藁を敷きなおす。


「入れてきたよー。次はどうする?」

「厩舎の掃除は終わりだな」


 これまでは一人だったので時間がかかっていたが、今日はリスカが手伝ってくれたのであっという間だった。


「もう終わり?」

「まだブルホーン一頭しかいないからな。他の檻も特に汚れていないし」

「あはは、こんなに早く掃除が終わるって変な気分」


 リスカの家の牧場なら、この作業が最低でも四十頭分あるからな。そう思えるのも無理もない。


 この牧場もいつかはそう思えるくらいになるといいな。


「じゃあ、次はモコモコウサギの様子を見に行くか」

「モコモコウサギだ!」


 俺がそう言うとリスカが嬉しそうな声を上げる。


 可愛い魔物に目がないようだ。


 そんなリスカを微笑ましく思いながら、俺達は牧場の中心へ歩く。


 すると、牧草の上で転がっている球体を見つけた。


「あ、いた。寝てるのかな?」

「そうみたいだな。ちょっと観察してみよう」


 身動きのまったくしないモコモコウサギを見て、俺とリスカは静かに近付く。


「スピー……スピー……」


 微かな寝息を漏らしながら眠っているモコモコウサギ。息を吸う度に、その丸い体が微かに膨らんでいる。


 仰向けで見える小さな顔は、実に柔らかいもので幸せそうだ。


 本来ならば、モコモコウサギは外敵から身を守るために穴を掘って入ったり、狭い場所に身を隠すようにして眠るのだが、うちのモコモコウサギは牧場を満喫するかのように牧草の真ん中で寝ている。


 外敵がいないからか、このモコモコウサギが特別なのか、今一つ判別できないが興味深いな。


「本当に毛玉みたい」


 確かに、遠目でみたらだだの毛玉にしか見えないな。


 俺とリスカはモコモコウサギを指で突いて、毛皮の感触を楽しむ。


「フカフカだね」

「触っているだけで気持ちがいいな」

「ねえ、モコモコウサギだと毛をとったりするの?」

「ああ、モコモコウサギは冬に備える時に毛が生え変わるんだ。その時に頂こうと思う。その頃には毛が伸びて大分大きくなっているぞ」


 手で大きな円を描きながら毛が伸びたときの大きさを表す俺。今は両手で収まるサイズだが、これから時間が経過するにつれてドンドンと毛が伸びていく。


 最終的には、大人が何とか抱えられるくらいの大きさだろうか。とにかく、それくらい長い毛を纏うのだ。


「大きくなったモコモコウサギも楽しみ。森で何度か見かけたことがあるけど、すぐに逃げられるから触ったことがなかったんだよね」

「本来は臆病な魔物で、人に懐くことは少ないからな」


 見かける機会の多い魔物ではあるが、その球体な体を生かしてすぐに逃げてしまうので捕まえるのは結構難しい。


 こんな近くで観察できるのも、この個体が特別人懐っこいからだろう。


 いや、単に警戒心が薄いだけなのかもしれない。


「ピキ?」


 どうやら目を覚ましたのか、モコモコウサギは声を上げてモゾモゾと動き出した。


 短い手足を出して、へにゃりとしていた耳を伸ばす。


 それから球体の体を生かすように転がって立ち上がり、口を開けて欠伸をした。


 ふむ、モコモコウサギでも欠伸をするようだ。


 ポケットに入れておいた観察メモにそれとなく記す俺。


「観察記録?」

「というよりメモかな? リスカも気になったことや面白い行動を見つけたら書いてくれ。些細なことでもいいから」


 こちらを覗き込むリスカに、俺はポケットから予備のメモ帳とペンを渡してそう頼む。


「わかった! 私も書くね!」


 すると、リスカは早速ペンを動かし始めた。


 既に何かしら気になっていたことがあったようだ。俺だけでは見逃していたり気付けない視点があるので、リスカの観察メモを見るのが楽しみだ。


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