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リフレット村 その8

 警戒しながらその場でジッとしていると、あちこちから足音がして唸り声が聞こえてきた。


 そして気配がすぐ傍までやってくると、俺の周囲を囲むように黒い狼が出てきた。


 獰猛な顔つきをしており、目つきが鋭く瞳は血のように赤い。黒い毛並みを生やした体はしなやかではあるが、よく見ると無駄のない筋肉がついている。全長は130センチくらい。


 間違いない。俺が牧場の番犬にしようとしていたブラックウルフだ。


 あわよくば捕獲しようとしていたので、出会えたことは嬉しいが、このような群れで歓迎されるとは予想外だ。


 ざっと見ただけで十五頭はいるな。


「うちの魔物牧場では番犬になってくれるブラックウルフを募集していたけど、ここまで応募者が多いとは思わなかったな」


 魔物牧場では魔物不足ではあるが、さすがに同じ魔物を十五頭も育てられない。番犬として雇うとしても多過ぎだ。


 にしても、ブラックウルフが獲物を見つけながらも無暗に襲いかかってこないという点が厄介だな。獰猛な性格をしているというのに即座に襲ってこないのは、それを力で自制させて統率のできる個体がいる証。


 嫌な予感を感じていると、奥から一際大きな魔物が現れた。


 黒い毛並みはブラックウルフと同じであるが、顔や腹部には銀色の毛が混じっている。他よりも一回りほど大きく、身に纏うオーラが違う。


 ブラックウルフの変異個体、または進化個体と呼ばれるベオウルフだ。


 ベオウルフは悠然とした足取りでこちらに近付き、金色の瞳で静かにこちらを睥睨してくる。


 その様子は自分こそが王者であり、絶対的な力の自信が感じられた。


「ピ、ピキ……」


 頭の上にいるモコモコウサギはブラックウルフとベオウルフが余程怖いのか、すっかり縮こまっている。


 無理もないだろう。周りは天敵だらけだしな。


 俺が自分の懐を指さしてやると、モコモコウサギは自分からそこに入ってシャツに掴まっていた。うん、いい子だ。


「グオオンッ!」


 そして俺が油断なく剣を構え直してベオウルフを睨みつけると、獲物を前にして待ちきれなかったのだろうか、一頭のブラックウルフが右から飛びかかってきた。


「【アイシクル・バースト】」


 それに対して俺は、既に展開済みだった魔法を解放してやる。


 すると、即座に術式が広がり、そこから氷の息吹が吐き出された。


 右から飛びかかっていたブラックウルフは即座に呑み込まれて彫像と化す。


 その光景に、魔物としての野性的勘が働いたのか、俺を囲んでいたブラックウルフ達が一歩、二歩と後退していく。


 しかし、リーダー的存在であるベオウルフだけは退くことなく、むしろ前へと出てきた。


 群れの長としての矜持というわけでもなさそうだ。


 強敵を前にして喜んでいるようにも見える。


 牽制の意味も込めて派手に見える魔法を放ってみたけど、全然ビビッてないな。


 これは厄介そうな相手だ。こちらは片手にライラックの卵も持っているし、思うように身動きが取れない。


 しかし、ベオウルフ程の強さの個体を倒せば、こいつか他の一頭くらいはこちらに服従してくれそうだな。


 ブラックウルフは自分より強い相手に服従する傾向がある。それなら今は絶好のデモンストレーションの機会だと言えるだろう。


 ピンチでありながらこれはチャンスだ。


 そう自分に言い聞かせながら、俺は密かにいくつもの魔法術式を展開――しようとして止めた。


 実力でベオウルフを屈服させようというのだ。魔法なんかよりも純粋な剣技のほうがわかりやすいだろう。


「グオオオオオオッ!」


 俺が挑発的な視線と笑みを向けると。ベオウルフは叫び声を上げながら走り出してくる。


 さすがにブラックウルフとは違って速度が桁違いだ。


 だが、速いだけの魔物であればいくらでもいる。それに残念ながら、この速度ならば人外ともいえるカタリナ団長の方が速い。


 首筋を切り裂こうとする爪に対して剣を合わせる。


 ただし、相手は魔物。まともに力でぶつかり合うことをすれば、たちまち剣もろとも腕が持っていかれてしまう。


 だから相手の力を利用して、そっと添えるようにして剣を置く。


 ギャリギャリという硬質なもの同士が擦れ合う音が耳元から響き、勢いに乗っていたベオウルフは通り過ぎた。


「グ、グルルッ?」


 「何だ今のは?」とでも言いたげな困惑した表情。魔物として生きてきたベオウルフは、人間の技を受けるのは初めてなのだろう。


 こちとら騎士団としての仕事や団長に付き合わされて様々な魔物と斬り結んできたのだ。ベオウルフの一頭を相手するくらい余裕だ。


「来いよ」


 俺が挑発するように言うと、ベオウルフは考えることを止めたのか愚直に突進をしてきた。


 繰り出されるツメによる強襲。時には片手で抱えているライラックの卵を狙った攻撃もくるが、それも含めて俺は涼しげな表情で受け流し、弾き、噛みつこうとする攻撃はステップで華麗に避けた。


 本当は久しぶりの戦闘でちょっと身体が鈍っていて焦っているが、そんな表情はおくびにも出さない。


 俺は余裕でお前なんかの攻撃を捌ける。お前など俺の敵だと認識するに足り得ない。というように努めて冷静に対処していく。


「グオオオオオオオオッ!」


 攻撃をいなしてちょこまかと移動する俺が腹立たしくなったのか、ベオウルフが身体全体を使ってのしかかってくる。


 隙だらけのその瞬間を俺は見逃さずに、すれ違いざまに鋭く尖った牙、脚についている爪をすべて切断。


「ギャンッ!?」


 そして仰け反った胴体目がけて、剣の柄をねじ込むように振り払った。


 さすがに生身ではキツイので、ここだけ身体強化の魔法を使う。


 すると、ベオウルフは大きく吹き飛んで、樹木に叩きつけられた。


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