リフレット村 その5
紅茶を飲みながら雑談をしているとグリンドさんが改めて尋ねてくる。
「ところで、今日の本題は魔物牧場についての話かな?」
「はい、そうです。それと周辺の魔物状況なども聞けたらと思いまして」
「なるほど、じゃあまずは牧場の話しからしようか」
とはいっても、事前にレフィーアと直接やり取りをして交渉は済んでいる。
安全対策の確認もしているので、念のために確認をするだけだ。
飼育している魔物も現在ブルホーン一頭だけなので、魔物牧場とも言えない規模だしな。
「ふむ。まだブルホーン一頭だけだし、これからだね。他にはどんな魔物を育てようか考えているのかい?」
「はい。できればライラックやモコモコウサギ、ブラックウルフ辺りを捕まえて育てようと」
ライラックは地上を走る鳥型の魔物で、モコモコウサギはふわふわとした毛玉のような魔物。ブラックウルフは獰猛なオオカミ型の魔物だ。
「ライラックは上質な卵を産み、モコモコウサギは毛を素材にするってわかるけど、ブラックウルフは一体どうして?」
「ブラックウルフは凶暴ですけど賢く、極まれに倒した相手に懐くことがあるらしいので番犬のようになってもらおうかと」
万が一、牧場に村人が入ってきてしまったら、モコモコウサギなどはともかく、ライラックやブルホーンと遭遇すると目も当てられない。
俺の代わりに周囲を監視してくれる賢い番犬のような存在が必要なのだ。それにレフィーアの研究してほしいリストにも入っていたしな。
「なるほど、他の動物や魔物、誤って村人が入ってしまった場合への備えだね。ブラックウルフは村から離れた森に生息しているよ。目撃情報もあるから」
「ありがとうございます。じゃあ、早速捕獲してこようと思います」
紅茶を飲み終わった俺は、ソファーから立ち上がって出口へと向かう。
「ああ、ちょっと待ってくれ。渡すものがあるのを忘れていたよ」
「何ですか?」
渡すものとは何だろう。首を傾げながら待っていると、グリンドさんが部屋の引き出しから一枚の書類を持ってくる。
「これ、借用書ね」
「はい?」
グリンドさんが笑顔で言った言葉と、目の前の書類の意味がわからずに間抜けな声を出してしまう。
って……ちょっ、何だこの数字は!?
「廃牧場の改修、修繕、土地費用諸々だよ。レフィーアさんから話は聞いてなかったかな?」
「……全然、聞いてません」
「ああ、だから借用書を渡す時に手紙もと言っていたのか……」
納得するように呟くグリンドさん。
一体どういうことなんだ?
手紙の傍には小さな手紙が置いてある。
そこには愛しの飼育員へ、などとふざけた文字が書かれていた。
「……開けてみても?」
「いいよ」
早速中の手紙を開けて、俺は文字を読んでみる。
アデルへ
すまん。本当は貴族からもっと出資してもらって借金などない状態にするつもりだったのだが、交渉に失敗してしまった。
なに、焦ることはない。これから多くの魔物を育てて毛や爪といった素材をドンドン売っていけば、この程度の額を払うなどわけはないさ。
勿論、素材の売却に関しては私が少しでも高く売り払えるルートを用意するし、並行して研究用として国にも買い取ってもらうさ。
だからアデルは安心して魔物を育ててくれ。
偉大なる研究者兼社長 レフィーアより
「……あの女は」
どうりで出発する際に気まずそうな顔をしていたわけだ。最初から借金があるとわかっていたのなら言っていてくれよ。
俺が肩を震わせながら呟くと、グリンドさんはにっこりと笑って肩に手を置いた。
「まあ、すぐに返せとは言わないけど、ちゃんと払ってね」
「……は、はい」




