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第9話 勇者誕生の地「アクレイア」。

読んで頂いて、ありがとうございます。


一応ギャグ回になるのかな?

 

「ユリアが居なければ何回ヘルザに戻ったことか……」


 アクレイアに着くまでに幾度と無く危険が襲って来た。


 アレクが見栄を張って歩くなんて言った為に、何回も何回も躓いてコケそうになったのだ。

 その都度、ユリアが糸を使って助けてくれた。

 最終的にはやっぱり勇者の背中におんぶしていた。


「もう既に、欠かせない一員になってるな。……主にアレクの」

「坊やの言ってた力になるって、こうゆう事だったのね」

「違います!」


 反論するアレクの言葉は二人の笑いによって掻き消された。


「それにしても……」


 勇者は気づいて居た、能力を使った後ユリアのある所がこう、減っていた、何がとは言わない。


 勇者は大人だった。


「ユリ姉って能力使うと胸が小さくなるね」


 ここにいた、恐れを知らない勇者が。


「……坊や? どうやら死にたいらしいな」

「ヒッ!」


 この時勇者は思った、ユリアに対して胸の話は厳禁だと。


「私も気を付けよう」

「何が?」


 背後から殺気を感じた。

 最高のスタンディングスタートだった、きっと世界を狙える。

 そう勇者は全力で逃げた。 すまんアレク、君のことは忘れない。





 そんなこんなで勇者誕生の地「アクレイア」に辿り着いた。


「死ぬかと思った」

「人聞きが悪いわね、ちゃんと手加減したわよ」

「HP1の少年に死ぬ思いをさせるって、どうやったんだ」

「あら? 体験してみる?」

「……結構です」


 三人に潮風の匂いが届いた、太陽の光に照らされて海がキラキラと反射していた。


「わぁ……綺麗」

「これが海、本物は凄い!」

「久しぶりに帰ると感慨深いな」


 海を初めて見たユリアとアレクはその風景に目を奪われた。

 山伝いに町が建ち並び、向かい合う様に漁港と広大な海が一面見渡せた。

 山の山頂部には風車が等間隔で存在して、家と家の間を流れ出す水流を利用して水車が元気良く回っていた。


「さぁ、早速私の家に向かおうか」


 美しい風景に目を奪われている二人を無視していそいそと急ぐ勇者を見て違和感を覚えた。


「何あれ?」

「さぁ? どうしたんでしょう?」


 早足で何か出会いたく無いものでもあるかの様に歩き出す、自然と速度が上がる勇者について行くのが精一杯だった。

 疑問は町に入った瞬間に分かった。


「おぉ、ハルトが来たぞ!」

「よっ! 勇者様!」

「一回負けたくらいで凹むな! 男は根性だ!」

「ハルトだー! 遊んでー!」


 町に近づくにつれて、人々が至る所から出て来て勇者に声をかけて来た。


「なにこれ?」

「凄い歓声ですね……」

「これが嫌だったんだ……」


 勇者は恥ずかしそうに種明かしをしてくれた。


「この町の人々は私が子供の頃から知っているからな、みんな家族みたいなもんだ」


 みんな勇者に対して過剰に優しかった。

 勇者は単に気恥ずかしかったのだ、授業参観に来る保護者がたくさんいる様なものだった。

 優しさで溢れているこの町に戻るのは、魔王の部下に負けた自分が帰る事が許せなかった。

 そんなちっぽけな勇者の自尊心が歩くスピードを速めていた。


「いい人達わね」

「勇者様の人柄を知っていれば当然です!」


 暖かいお迎えに勇者は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


「聖剣を探すんだろう? 早く行こう」

 照れを隠す様に勇者は催促する。


「いいんじゃな〜い? 1日くらい」

「僕も疲れました」

「おい! アレクは一歩もあるいてないだろ!」


 勇者を気遣ってか、またはからかってかアレクとユリアは二人してこの町にとどまる事を提案する。

 ニヤニヤと見つめられて気恥ずかしそうにするラインハルトは、どうせ反論しても駄々をこねる二人に根負けするしか選択肢がない。

 結局二人の発言に負けてその日は勇者帰還の大宴会になった。



 翌日。


「うーん楽しかった!」

「僕……三回死にました」

「あぁ、アレクはおっさんに絡まれてたな」

 ユリア以外がやつれた顔をしていた。


「早く聖剣探しに行きましょう!」

「うん、そうだね……」

「あぁ、そうだね……」

「覇気がないわね、シャキッとしなさい!」


 二日酔いでひどい頭痛に悩まされる勇者と、蘇生酔いによって頭がボンヤリする大賢者。

 意外にも酒に強かったユリア以外はだらけた様に反応の薄い返事をする。

 先行きの不安な聖剣探索が始まった。


「そもそも聖剣ってどこにあるのよ?」

「海です」

「海?」

「はい、海の中にあります」

「「嘘だろ?!」」


 聖剣の在り処を知っていたのはアレクだけだった、それも古い記述にひっそりと示された物。

 気付かなくても良い様に記述された場所は思いもよらぬ海の中だった。 


「どうやって行くのよ」

「バリアを使います」

「え? バリア?」

「えぇ、バリアを使えば海の中でも呼吸が可能です」

「なんてこった……」


 衝撃の事実である。

 大賢者が次の町にここを提案した訳はバリアの能力を勇者が会得した為だった。

 これでアレクがこの地を次に望んだ理由がはっきりとした。


「じゃあバリア持ってなかったら」

「無理ですね」

「歴代の勇者どうしてたんだよ」

「聖剣は伝説の大勇者以外持ってないです」

「は?」

「そもそも、大勇者がここに聖剣を捨てたのが原因です」

「なにしてんの大勇者?!」


 日本の神器にも似た様な話があった様に、どの世界でもこの手の話は有った。


「なんで捨てたの?」

「聖剣がうるさかったらしいです」

「どゆこと?」

「伝承だと、聖剣喋るらしいです」

「喋るの?!」


 次々に出てくる新事実、喋る剣など想像ができない。


「取り敢えず海に潜って声のする方に行きましょう」

「なにそのアバウトな作戦」


 文句垂れながらも、三人はバリアを展開して中に入っていく。

 ゴポゴポという音を立てながら展開したバリアは割れる事なくゆっくりと沈んで行く。

 アクアブルーの綺麗な水中は光がカーテンの様に突き刺し、幻想的な情景を体現していた。


「ちょっと、今私のお尻触ったでしょ!」

「無実だ! やめてくれ!」

「勇者様……」

「狭いんだから仕方ないだろ!」


 幻想的な中で話す会話は実に俗っぽい話、勇者の展開するバリアは一人用だった、バリアはその身から半径1Mが限界領域、そこに三人入っているとしたら狭くて当然である。


 不安ばかりの中で探索が始まったが、普通に何処からか声が聞こえて来た。

 深い底から聞こえて来る亡霊の様な声に、三人はある意味背が凍った。






 ——毎日毎日オイラは海の中〜——





「あれ?なんか声が聞こえますね」

「本当だ……なんだろう行きたくない」

「歌?」





 ——勇者に捨てられ、嫌になっちゃうよ!——





「ノリノリですね」

「なぁ、聖剣諦めないか?」

「凄い音痴」


 海に入って数十M、朧げながら見えてきた光景は、海の底にそのまま打ち捨てられて横たわっている剣があった。

 寒気のする様な歌を披露している剣に近づいて海底まで到達した時、その剣が微弱ながらも光を発光していた。


「見るからに聖剣ですね」

「声がおっさんだがな……」

「苔生えてるわね」


 海の底に足をつける三人、そうすると近付く気配に気づいたのだろう、声が変わった。


 ——ん? 何者だ貴様ら、私が何か知って来たのか?——


 やけに声のトーンを低くして話す聖剣、その前の呪いの歌で威厳も体裁も台無しである。


 ——我を抜けるのは選ばれし勇者のみだ——


「……刺さってないですよね?」


 ——……選ばれし勇者のみだ——



「端折ったな」

「端折りましたね」

「哀れだわ……」


 ——うっほん! 良いか、我が名は「イフタフ」伝説の聖剣だ——


「うーん、アレクあの聖剣、使いたくないんだけど」

「ダメですよ勇者様! 性能は凄いんですよ」

「あんっ……エロ勇者! また尻触ったわね!」

「グハァ!」


 勇者は聖剣に興味が無くなっていた、思っていたのと違う。

 淡い期待をしていた勇者は、聖剣に向ける眼差しがどんよりと暗く濁っていた。

 勇者は心の中で伝説の大勇者に同情した。そりゃ捨てるわ。


「ごめんアレク、やっぱり無理だ」

「えー」


 ——……お願いぃ! 海はもうこりごりなの! せめて地上に! お願いします!——


 いきなり低姿勢になる聖剣、なんだろう。見ちゃいけない気がしてきた。 


「あんな事言ってますよ、勇者様! 見捨てるんですか?!」

「見捨てるってその言い方は卑怯だろ……はぁ、仕方ない持ち帰るか」

「もう何でもいいから早くして!」


 見捨てるという言葉に過剰に反応する勇者、真面目だというのは足枷になる事もある。

 バリアの中の酸素も残り少なく息苦しくなってきた、半ばヤケクソに聖剣を掴んだ。


 「聖剣ってもっとこう、神聖なものをイメージしてた……」


 女々しい事を吐きながら、勇者を含め三人は地上に戻ることになったのだ。

 争い事も試練もなく、無事に勇者は聖剣を手にする事が出来た。

 聖剣は帰る途中も煩かったが地上に出ても煩かった。


「いやーあんがっとさん! んで君が勇者さん? ヨロピク〜」


 陸に上がって上機嫌になった聖剣は、楽しそうに剣をピカピカ光らせていた。


「……やっぱり取らなきゃよかった」


 勇者はやりきれない気持ちを抱いたまま聖剣の所持者になった。


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