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第40話 賢者と大賢者。

はぁ、辛い。


みなさん読んでいただき有難うございます。

 魔王の祠を進むとそこには鎖で縛られた女性がいた。

 その存在をアレクは知っている賢者ソフィアだ。


 「貴方を救いに来ました」


 暗い祠の中でソフィアの頭が上がる。

 両眼のくり抜かれたその瞳無き瞳にはアレクは如何様な感情も読み取れなかった。


 「……」


 ただ黙り込む賢者、最後を前にして何も話すことがないのだろうか。

 もしくはこの長い年月の中で声を出すことすらも忘れてしまったのだろうか。

 

 「蘇生の魔法を唱えます良いですね?」


 そう質問しても帰ってくるのは沈黙。

 小さく蘇生の言葉を唱えようと思った時どこからか声が聞こえた。


 「よぉ、久しぶりだなソフィア」

 

 アレクと賢者ソフィアしか居ないこの空間で声がする。

 不思議に思った、アレクが今持っているのは勇者ラインハルトの右腕とケシのバッグ、マーメイドの瞳と聖剣。


 ん? 聖剣?


 アレクは自分が担いで居た聖剣を振り返る、喋っていたのは聖剣イフタフだった。


 「そうか……声も出せなくなっていたか。ソフィア、ブラストは死んだぞ」


 聖剣の話に賢者は悲しそうな雰囲気を漂わせる。

 御構い無しに話を続ける聖剣。


 「この小僧はお前を送ってくれるってよ、ブラストのいる天国へ」


 そう言うと賢者は安心したように首を縦にふった。


 「小僧、悪かったな最後の別れを済ませたかった」


 どこか達観したような口ぶりにアレクは野暮だと思いながらも口を挟んでしまう。


 「聖剣さん……いや……大盗賊ステラ・グラムさん」

 「……気付いていたか」


 バレバレなのだ、その口ぶりも勇者の能力をよく知っている事も。

 何より真実の大勇者の物語には聖剣が居なかった事も。


 「頼む、ソフィアを救ってくれ」


 大盗賊の言葉に頷く、アレクは最後の魔法を唱える。


 「リバース」


 その魔法は優しく七色の光を輝きながら祠全体を包み込んだ。

 雲を突き抜けて天へと伸びていく七色の光。

 天へと一直線に伸びていく虹が架かった。


 消えていくソフィアに寄り添うように勇者とケシのバッグから彼女の両眼が一緒についていく。

 強い閃光が走った後には賢者の痕跡は無くなっていた。

 天国へと旅立ったのだ。


 「うぅううううううう………う”う”ぅ」


 神話でしか見れないような奇跡を目の当たりにしてアレクはその場に蹲った。

 あまりにも救われない結末、魔王を倒す勇者の物語。

 小さな小さな英雄は魔王の祠で泣き崩れる。

 まだ10歳と言う幼き子供の慟哭。

 

 英雄の嘆き。


 「みんなぁ……みんなぁあ!」


 自分だけが生き残ってしまった。

 蘇生の魔法を使うのは魔法陣が必要、ここにはない。

 ましてや消滅の能力によって消えた仲間。

 救いの手はこぼれ落ちた。


 「アレク、ありがとう……そしてすまん」


 その様子を見て聖剣が優しく話す。


 「俺がなんで剣なんかになったか分かるか?」

 「…………剣」

 「そうよ、今から話してやる」


 きっと聖剣は僕のことを励ましてくれてるのだろう、そう思った。


 「ブラストの野郎が死ぬちょっと前に俺の場所に来たんだ決闘をしようってな」


 昔を思い出すように語り出す聖剣。

 

 「俺は受けた、共に男の約束をしようって誓ったんだ。俺は当然ソフィアを殺すことに文句いうなって言おうとした」


 当時を振り返って笑ったように上擦った口調で話す。


 「結果はまぁなんだ、ギリギリ、そうギリギリ負けた。あの日のあいつは運が良かった」


 すると急に真剣な声色になって話し始める。


 「勝った大勇者は俺に言ったんだ、ソフィアを殺してくれって。あいつも分かってたんだもうソフィアは死んでるって」


 どこか悲しそうに大盗賊の伝説を話す。


 「俺の一族がその後躍起になって俺を探すようになった。けど無理な話だ、俺はいつか来るソフィアを殺せる者が来るまでブラストから変身の能力によって剣に変身したんだ、死なないように」


 次に話す言葉はアレクに希望の光を与えることになる。


 「きっと大方死ぬ前にあいつがポロッと俺が剣になった事でも話したんだろうな、うっかりしてて、その上責任感が強いやつだった。なぁアレク、この剣は鍵だと話したな? あれは嘘じゃねぇぜ?」


 その話を聞いてアレクは後ろに刺さっていた剣を鞘から引き抜いた。


 「おっとっと、まぁ焦るなって。お前が思っていることは恐らくあってる。でもその為には膨大な魔力が必要だ」


 思わずその手に力が入ってしまう。


 「はは、聞いちゃいねぇ。誰に似たんだか、良いぜ最初に言ったよな? ——我を抜けるのは選ばれし勇者のみだ——ってなあれは逆だ、突き刺すんだ。この剣には魔法陣が書き込まれている、原典の完全な模写が。わかるだろ?」


 いつの間にかアレクは唱えていた。

 自分の膨大な魔力はこの為に存在していたんだと。


 この時のために。みんなを救うために。


 だから、みんな待ってて。


 「誰も! 死なせない!」


 ——リバース——


 アレクは思いっきり剣を突き刺す、そこから流れ出る遠大にして深淵なる魔法陣が。

 歓喜の声を響かせ魔法陣は周り出す、完璧な完全な蘇生魔法いや。


 復活魔法が。


 「生き返れぇえええええええええええええ!!!!!!」


 叫ぶ、絶望に一度落ちた小さき少年は希望を手に握りしめて。叫ぶ。


 「ユリ姉! サラ姉! ティア姉! そして」


 

 ——お兄ちゃん!——


 

 2回目の光は先ほどの光とは比べられない程の極大の柱が登った。


 神の柱。


 創世にして神話の時代しかお目にかかれない奇跡の恩寵。

 急激に減っていくアレクの魔力、神の御技はそれだけ高貴な技。

 人一人にできうる力では無い。


 それでも、アレクは止めない。


 魔力をありったけ注ぐ、枯渇しても構わない。

 みんながいなけりゃ僕は嬉しく無いんだ。


 あの小さな部屋にいて、ずっとこんな場所で一生を終えると思っていた。

 勇者に出会って、いろんな街を冒険してその美しさに見惚れて。


 海はあんなにも広大で美しかったんだ。


 王都はあんなにも煌びやかで華やかなんだ。


 土と煙に囲まれた街はどこか機能的で新鮮で革新的だった。


 楽しかった、でもそれはみんながいたから。

 みんなが居ない冒険なんて、僕には考えられなかった。


 「神様! お願いです! 僕の大切な人を持っていかないで!」


 膨大な思考を持つアレクは、初めて一つの事に一生懸命に祈った。

 一つの事に、一心に祈りを捧げる。


 やがて、光がアレクも包む。

 小さな子供が起こした神の如き御技は成功したのだ。

 発動させた大賢者アレクはどうなったのか。

 全ての魔力を使い果たしたアレクは、自身の限界によって身体が耐え切れずに。

 最後の時を迎える。

 

 「もう一度、みんなに会いたかったなぁ」


 最後に一言つぶやき、支えにして居た聖剣から崩れ落ちて。


 息を引き取った。

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