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第4話 紡績の町ヘルザ。

読んでいただいて誠にありがとうございます。

 

「やっと着いた」

「これが……紡績の町ヘルザ」

 結局おんぶしながらの旅は最初の町に辿り着くまでに6日という日を費やしてしまった。


「すごい……凄いよ勇者様! これが紡績の町!」


 はしゃぎ回るアレクをラインハルトは落ち着かせる。


「待て待て待て! アレクはHP1なんだぞ! 教会に着くまで落ち着きなさい!」


「う〜……分かった」

 不貞腐れていじけているアレクを見てラインハルトは溜息をこぼす。


「……これが大賢者か」

 ラインハルトは先行きの不安に頭を抱えるしかない。


 やがて目の前に聖堂が見える、アレクにとって欠かせない場所「教会」だ。


「さぁここでこの町の登録を行うぞ」


 HP1のアレクをどうやって連れ出そうかという問題。

 その解決策として取られた手段は教会の再登録だった。


 教会にはそれぞれ古代の賢者が編み出した蘇生魔法がある。

 だがいくら蘇生出来ると言ってもその範囲は限定的なものだった、そのため幾つもその魔法陣を設置していかなければ本当に死んでしまう。


 魔法陣は間隔を開けながらも国中に設置される事になる

 、それだけ偉大な魔法だった。

 蘇生魔法は人々の安全に大いに貢献した、当然蘇生魔法の存在する場所には自然と町ができてゆく、この紡績の町「ヘルザ」もその影響から出来た町だった。

 しかし、蘇生魔法は使用者の登録が必須条件。


 使用者のマナを感知して魂と肉体を強制的に留まらせ転移させる。

 その際にレベル消失のペナルティが掛かり、その消失したレベル分のマナを使用して魔法が発動していた。

 古代魔法最大の謎としてある蘇生魔法だが、今の人間たちは当たり前のように使用していた。


「……よし、これで何かあっても次復活するのはこのヘルザだ!」


 アレクとラインハルトはヘルザの教会に再登録したのだ。


「アレク、どこか行きたい場所はあるか?」

「うん! 糸を作ってるとこ見に行きたい!」

「そうか、じゃあ行ってみるか!」


 まるで親子のようにはしゃいでおんぶされている二人は、紡績の町「ヘルザ」を散策するのだった。





「……勇者さん、そんなに近づいて見られるとやりづらいんだが」


 糸を紡いでいるおじさんを二人はじっと見つめていた。


「いや、気にしないで下さい」

「……気にするなって」


 ガン見である、やり辛くて仕方なかった。


「どうだアレク? 面白いか?」

「うん! やっぱり本の知識と本物は違うね!」


 アレクはピョンピョン跳ねてその様子を楽しんで見ている。

 糸車を使って小気味良く回転して行く姿を見てふと疑問に思った。


「ねぇおじさん? これって服を作る量になるにはどれくらいの綿花が必要なの?」

「え? どうなんだろ、そんな事考えた事もなかった……」


「勇者様は知ってる?」

「……私も分からないな」

「知りたいなぁ」


 アレクは知らない事に対して貪欲だった、これが少年の気質なのだろう。

 彼は知りたいことをとことん追求する求道者だった。


「じゃあ……服屋さんにでも聞いてみるか?」

「そうする!」


 二人は足早といろいろな所を回った、町を見渡して行くうちにある服屋でその答えを知る。


「服に必要な綿花ぁ? 大体上着なら100個〜150個くらいよ」


 そう答えてくれたのは真っ赤な髪に、人を射さす様なワインレッドの瞳をした服屋の少女だった。


「……君はよく知っているんだな、他の店はみんな知らなかった」

「そりゃそうでしょ、そんなの誰も聞かないわよ」


 ぶっきらぼうに言い放つ少女にラインハルトは興味を持つ。


「君、私が誰だか分かるかい?」

「何言ってんの? 勇者ラインハルトでしょ」


 勇者を勇者と思っていないその返答に逆に面を喰らってしまう。


「それが何? 魔王の部下に負けた『腰抜けのハルト』」

「グハァ!」


 飾り気の無い言葉は勇者の心に抉り込むようにクリーンヒットした。


「みんな知ってるわ、魔王どころかその部下にさえ敗れる勇者様、笑えるわね」

「そうか……ここまでその二つ名が響いているとは……」


「なんですかそれ?」


 アレクは知らなかった、今代の勇者が腰抜けと言われていることを。


「いや、アレクには関係ない話だ」


「あら坊や、知らなかったの? この勇者様は一人で勝手に出て行ってボロボロになって負けて来た歴代勇者様の恥よ」


 耳の痛い話である、彼は歴代の勇者たちから見ても優秀だった。

 優秀だった事が彼を助長させる一端となる、一人で全部できるとタカを括っていたのだ。


「ふーん、でも勇者は一人じゃ弱いよね?」


「「は?」」


 嫌われると思っていたのにアレクは予想外の返答をしてきた。


「だって、物語の勇者はみんないろんな仲間に助けられて魔王を封印してきたでしょ?」


「……そうなのか?」

「そうだよ? 勇者の役目はその封印術にあるもん、勇者は勇気ある者。その身で魔王に立ち向かうことが出来る者を指すんだよ」

「それはどこから知ったんだ?」

「本だけど?」


 ラインハルトは驚愕する、それは一部の人間しか知り得ない知識だった。

 物語の中で勇者は華々しく活躍し魔王を倒すと、どの話でも決まっている。


「封印術は限られた人間しか知り得ない極秘の技だ、本には載っていない……どこで知ったんだ」

「いろんな本を読んで行くうちに自分で知ったんだよ、じゃないと話の折り合いがつかないからね」


 今度こそ勇者は唖然とした、この少年は本から……僅かな知識を頼りにそこに行き着いたのか。

 その理論的思考と膨大な知識量に戦慄した、これが大賢者……


「今の話は秘密だ、いいなアレク」

「う、うん良いけど……」


 封印術はラインハルトの右腕の肘に刻まれていた、代々勇者は右腕を犠牲にして魔王を封じ込めてきたのだ。

 その封印術も王城の地下で極秘裏に施された秘術、バレたら魔族に右腕を奪われてしまう為に露見してはいけなかった。


「……悪いんだけど、私その話聞いてよかったの?」


 そう服屋の少女は言った、一般人に露見してしまった。


「…………………黙っててくれないか?」


 勇者は懇願した。

 すると少女はニヤリと口角を上げて嬉しそうに言い放った。


「(ニヤッ)…………嫌だ」


 最悪だ。よりによって一般人に知られてしまうとは。


「どうしよっかなぁ〜」


 少女は楽しそうに糸を弄んでいた。


「お姉さん随分と糸の扱いに慣れてるんだね」

「え? そりゃ服屋だしねこれくらい余裕よ」

「ふーん」

「な、何よ?」

「別に〜」


 アレクは少女の糸に興味を持ったらしい。


「まぁ、どうしてもって言うなら。言わないであげてもいいけどね」

「本当か? どうすればいい?」

「それはねぇ〜」


 嗜虐的な目を勇者に向ける、この状況を少女は楽しんでいた、少女は数々の命令を考え出す。

 この時に直ぐ命令を言っていれば聞き届けられただろう、しかし時間が彼ら3人を許しはしなかった。

 少女が勇者に難題を押し付けようとした時、町にけたたましい鐘の音が鳴り響く。


「え、何!? 鐘の音?」


「……これは、まさか!!」


「……本に載ってた、これ僕知ってるよ、町の鐘の音は二種類ある、それは火事か……」




 ——魔族の襲撃だ——





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