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第39話 弟を守るのは兄の仕事。

深夜投稿、深夜中に終わらせます。

 「おい! しっかりしろ! アレク前を向け!」


 ラインハルトがアレクを叱咤激励をする、泣き続けるなんて戦闘中にあってはいけないことだった。

 相手のアルベルトはその隙を見逃さない。

 地獄のクレーターから高速で這い出し、アレクの元へと急接近した。


 クレアボヤンスのティアラが消えてしまった現在、アルベルトの攻撃を躱すことのでいる者はいない。

 勇者が今度はアレクを守る様に立ちふさがる。

 そんなことも御構い無しに強欲はその黒い右手を同じ様に突き出す。


 「死ネェ!!」


 ラインハルトは覚悟を決めた、俺はここでアレクを救って死ぬのだろうと。

 他の二人もただ見ていた訳じゃない。

 サラもユリアもアレクを救う為に動いていた。


 「なんで、糸がちぎれるのよぉ!!」


 ずっと糸をアルベルトに投げかけていたユリアだが一向に捕まらない。

 アルベルトは消滅のドームが掻き消えてはいたが薄く自身の周りにオーラの様に展開していたのだ。


 「消え去れアルベルト!」


 サラはアルベルトに自身のオールクリアの力をありったけ込めて使用する。

 マーメイドの涙は白く透明になっていた。

 消滅とオールクリア共に消すという同質の力を扱う能力。


 短絡的な行動がアルベルトの消滅の力を混ざり合い、より強力な力へと変換してしまった。


 「俺ニ消滅ハ効カン、アリガトヨオ嬢チャン」


 ニヤッとまた笑う、サラの行動はここぞのところで失敗をしてしまったのだ。

 サラは最後の力を使うことにした、自分の残っている魔力の全てを。

 そんなことをすれば魔力暴走してしまう。

 

 それでもよかった、最後には大盗賊の末裔として胸を張って人の為に力になりたかった。


 「オールクリアぁあああああ!!!」


 勇者とアルベルトの間にもぐりこむ様に飛び込む。

 サラが使用したのは距離を消す力。


 瞬間移動の要領で移動したサラの横腹にアルベルトの腕が貫通した。


 「ぐふっ」


 血を吐き出すサラ、カーミラの時と同じ様に。


 「お前……俺の盾に……」 

 

 ラインハルトはサラの身勝手な行動を見ているしか出来なかった。

 笑いながらサラは勇者に話す。


 「私は……役に立ったのかな……」


 ずっと感じていた、自分だけが役に立っていなかった事への罪悪感を。

 最後の最後まで相手を強くしてしまう愚かな自分を。

 消滅の力がサラの体を襲う。

 貫かれた腹部から消失が始まる。

 そんな感情をラインハルトは受け取ったのだろう、優しく声をかける。


 「大丈夫だ、いつも俺を救ってくれた。だから……大丈夫だ」


 ラインハルトは真剣な表情で消えゆくサラを見届けた。


 「そうか……ユリアごめんね……」


 勇者の盾になった大盗賊の末裔サラもまた、ティアラ同様この世から消え去って行った。



 「あぁああああああ!!!」


 狂った様に叫びをあげる。

 後ろに居たのはユリアだった。


 「何してんだぁ!! あんのバカぁああ!!」


 涙を滂沱の限りに流しながら。

 消した本人アルベルトへと突撃していく。


 「許さない! サラを返して!」


 なりふり構わず糸の力を全開放しいく、一糸纏わぬ姿になっているがお構いなしに。


 「全てを操りなさい! 消滅するなら他を!」


 アルベルトの足元にあった地面が隆起する、ユリアは地面を操ったのだ。

 そうして二つの壁が出来る、アルベルトを挟む様にして壁が押し寄せた。

 二つの壁が両端からアルベルトをサンドする。


 ユリアが考えた最良の攻撃、それでも、強欲の強さには届かない。

 壁をぶち破って全くの無傷の状態で壁の中からアルベルトが出てくる。


 「悔しい、悔しい悔しい! なんで届かない!」


 地団駄を踏むユリア、目は充血し焦りの表情を浮かべている。


 「児戯ダナ……下ラン」


 ユリアの攻撃を見て苦し紛れの攻撃と分かって居たアルベルトはそう切って捨てた。

 その一言がユリアの逆鱗に触れたる。

 

 「貴様ぁあ! あぁああああ”あ”!!」


 全方向から糸が襲いかかる、がむしゃらにサラの様に。

 無数の糸の舞をアルベルトは落ち着いて一本一本を消し去っていく。

 その中から一つだけがアルベルトの頬に切り傷を作った、ほんの小さな傷。

 数ある無数の攻撃を行ってさえ、ユリアの全力でその程度の傷。


 「ルイン」


 いい加減飽きたと、つまらなそうにアルベルトは呟く。

 絶対の消滅の力、ユリアを大きく包み涙に濡れたユリアの身体がフッと消えて行った。

 ユリアもまた、アルベルトの前で消え去ってしまった。


 「みんな……」


 アレクは自分の行動、これまでの冒険を悔やんでいた。

 僕がもっとみんなの力になっていれば、こんなに貧弱じゃなければ。

 後悔の念が津波の様に押し寄せてくる。


 アルベルトはただ虫を潰す様に事務的な作業かの様に振る舞う。

 あまりに呆気ない圧倒的な力。

 

 ほんの数分の出来事でティアラ、サラ、ユリアが消えてしまった。


 「これが最後の使徒……歴代の勇者を消してきた張本人」


 勇者ラインハルトはずっと共にしてきた仲間たちが消え去って頭の中が混乱して居た。

 何を間違えた? どうすれば良かったんだと。

 グルグルと止めどない後悔や自分への罵声が出てくる。

 後ろで目を際限まで見開いてこの世の物とは思えない感情を表しているアレクが居る。



 ——分かりました、この勇者ラインハルトが守ってあげましょう!——



 シビージャとの約束が脳内にフラッシュバックする。

 ラインハルトはフッと息を吐く様に笑う。


 「私は、あの時なんて大言壮語を放ったんだろうな……」

 

 絶望的な状況で、思うのはアレクとの出会いの日々、HP1なんて大賢者。

 この冒険はどこかでつまづくと思って居た。


 「ここまで来たんだもんな、君の力で」


 数々の使徒を倒し、その力を勇者は宿して来た。

 アレクは俺に約束を守ってくれたのだ。

 勇者を導くという果てしない約束を。


 じゃあ、俺も約束しよう改めて。


 「アレク、君との冒険は楽しかったよ」


 後ろを振り向いて話すラインハルトの顔が儚くて、その後が分かってしまって。

 アレクは必死に止めようと声をかける。

 ずっと言えなかった、言ったら怖がるかもしれないと。


 アレクは原初の間で勇者が来ることを予見して居た。

 シビージャ・サレスの告白によって自分の記憶は間違い無いのだと感じた。

 大勇者と賢者の子孫だという自分、アレクは他にも記憶を持って居た。

 暴食のカーミラに負けるラインハルトの記憶を。

 だからへルザでの告白もとぼけた様な表情をして話題をそらした。

 

 ラインハルトは大勇者の末裔だと言う、そして彼は暴食に一度負けて居る。

 彼の誕生の地「アクレイア」のみんなは歓迎してくれたけど、そこにはラインハルトの両親は居なかった。

 だから気が付いてしまった、僕には居たんだと。

 

 居たんだよ。

 


 「行かないで! お願い! 行かないで! ()()()()()!!」


 アレクの声を聞いて、一瞬後ろを向く。

 分かっていたよと、その顔は頷いた様に見えた。

 それでもアレクが必死に叫んだ制止の声を聞いてもラインハルトは止まらない。

 6つの能力と4つの光魔法を展開する。


 「アルベルトぉおおお!!」


 勇者もまた全力でアルベルトに襲いかかる、ラインハルトはユリアの攻撃によって頬に傷が付いたことを見落とさなかった。

 届くのだ、俺たちの力は強欲に届く。

 あれは認識外からの攻撃だった、色欲の話を聞いて居た。


 あの時の情けない自分ではない、色欲の時認識外から攻撃を繰り出して勝利を収めたという。

 今回もそうだ、これは俺が超えるべき壁だ。


 だから、アレク。


 泣くな、俺は勇者。


 そして……


 お前の兄だ!




 「おおおおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 

 ありったけの力はアルベルトの消滅の力とぶつかり合って綺麗な虹色の光が包む。


 幻想的な風景で強欲と勇者は共に衝突する。

 勇者の分身が全方向から襲いかかる、アルベルトは苦い顔をしながらも消滅の力を解放した。

 どれだけ長い間衝突していたのだろうか。

 このままずっとせめぎ合っているんじゃないんだろうか。

 だが、終わりはやってくる。


 永遠に続くかに見えた力の均衡が崩れる。


 崩れた原因はアルベルトが消してはいけないと敢えて残していたケシのバッグ。

 そこにアルベルトは足を引っ掛けてしまう。


 万全の状況だったらそもそも勇者はアルベルトに一方的に消されていた。

 全てが幸運が重なったのだ。


 ティアラが先を読み、サラが全てを消して道を作り、ユリアが糸で目印を付けた。

 みんなの力がアルベルトの限界を超えた力に底を突かせるだけの魔力を消費させていた。


 だからこれは、みんなの勝利だ。

 

 アレク、お前の魔法だってそうだ。

 お前が一番アルベルトを窮地に追い込んだのかもな。

 だから胸を張ってくれ、お前は英雄だ。


 「後は任せたぞ! アレク!」



 光り輝く中で、ラインハルトとアルベルトが共に飲み込まれる様に消えて行った。

 残ったのは勇者の右腕と聖剣、サラが持っていたマーメイドの涙とケシのバッグ。


 そしてアレクだけ。

 

 七つの光が空に舞う。

 七つの能力、封印に必要な力。


 それとは別に勇者の居た場所に七色に光る原石。

 ラインハルトが持って居た選ばれし者の能力。


 「……プリズム」


 プリズムの力にアレクは引き込まれる。

 いや、プリズムの方からアレクに近づく。

 アレクの胸にプリズムが溶けて消えていく。


 それと共に空にあった七つの光もアレクの元に溶け込む様に飛び込んで来た。



 「分かったよ、僕がこの最後を見届けよう」


 アレクの瞳が七色に光る。


 全ての能力が揃う。


 Recovery(回復)

 Explosion(爆発)

 Barrier(障壁)

 Impact(衝撃)

 Ruin(破滅)

 Transform(変身)

 Harvest (収穫)


 ここに七つの能力が揃いました。

 蘇生魔法が完成します。


 【Rebirth(復活)】


 リバース。蘇生の魔法、賢者の証。


 アレクは全てを背負って魔王の祠へ足を進めるのだった。

 

 

 

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