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第32話 生まれ故郷の町「アレシア」。

読んでいただいて有難うございます

 傲慢との戦闘を終えて最後の使徒「アルベルト」のみを残す所となった勇者一行。

 最後の異能力【消滅】は魔王への足向きを変更させたくなる程の力を有していた。

 消滅する事、つまり蘇生が効かない事を指す。


 これまでは蘇生出来るという支えによって無茶な戦法が取れた。

 次の戦いには通用しなくなるとなると急にみんなは竦み足になってしまう。

 何よりもティアラと新たに発現したユリアが何処かフラフラと定まらない。


 ティアラは急に父だけでなく母まで亡くなってしまった。

 その上で魔族の子供というおまけ付き。

 自暴自棄になってもおかしくない。


 ユリアはユリアで自分の力に目覚めて、手に余る力にどうすればいいのか分からなる。

 そんな二人には休息が必要だとラインハルトは考えた。

 勇者はいい案が無いか考えていたが不意にアレクが話した事により大賢者アレクの故郷に向かうことが決定した。


 「ねぇ勇者様、一回僕の生まれ故郷に向かってもいいですか?」

 「どうしてだ? 何か用でもあるのか?」

 「うん、最初の間を開くとき言っていた傲慢のマーレが言った祝詞が少しね……」

 「まぁ……少し遠回りもいいか」

 「あれ、そんなに簡単に決めていいの?」

 「後ろを見てみろ」

 

 アレクとラインハルトの後ろを見てみれば心ここに在らずの二人の姿。


 「……寄り道必要そうですね」

 「分かってくれたか」


 動機としては弱いものかも知れないが、二人の傷心旅行も込めてみんなでアレクの生まれ故郷「アレシア」へ行く事になった。


 ただ、「アレシア」までの道のりは長い。

 これまでの王都までに約2ヶ月の歳月を要している。

 寄り道せずに一直線に進んだとしても1ヶ月は掛かってしまうだろう。

 別段急ぐ旅では無いが、馬車に乗っていければ楽なのにと考えてしまう。


 アレクとの二人旅の時、最初馬車に乗って昇天するという苦い経験をする事になったが、今は勇者にも能力が覚醒し、子供一人程度傷一つつける事なく運ぶことなど朝飯前になっていた。

 なのでラインハルトは「アレシア」に向かう馬車に同乗させて貰おうとしたのだ。


 「すいません、アレシアに行きたいのですが、乗せて貰っても良いでしょうか?」


 王都を出て行こうとする馬車に一人一人に声をかけて行く、その内小太りな商人が承諾をしてくれた。


 「アレシアか……良いですよ。金は持ってますか?」


 見た目はどこか優しそうなおっさんで、お腹はだらしなく太っている。

 ハゲ隠しの為かおっさんには似合わない薄い水色のニュースボーイキャップを被っていた。

 ニッコリと笑う姿は、なるほど確かに商人らしい愛嬌のある笑顔を向けてくれた。

 

 「あれ? 何処かでお会いしましたか?」

 

 ラインハルトはナンパの手口で使う常套句の様な話し掛けをする、ラインハルトは確か前に会っているとおぼろげに記憶していた。


 「そうでしたっけ? まぁ私も一つの場所に居ないものですからね、会っているかも知れませんね」


 優しい声で話す小太りの商人を見て、ラインハルトはあっ!と声をあげた。

 そういえば最初の旅立ちで乗せて貰おうとした時に声をかけた商人だった事に気がついたのだ。


 「思い出しました! 2ヶ月前にアレシアで子供と二人で乗せていただこうとした物です、その節は失礼しました」

 「あぁ! あの時の、いやはや出会いとは不思議なものですね。大丈夫なんですか?」


 小太りの商人も今思い出した様に調子を合わせて反応してくれた。

 商人も旅立ちのことを思い出したのだろうか、大丈夫なんですか? とはつまりアレクのことだ。


 「えぇ、あの子供なら心配しないで下さい。今度はしっかりと見張っておくので」

 「ははは、それは結構ですな」


 ラインハルトとアレクは最初に同乗させてもらった時に、真面目に大賢者が死んでしまったので引き返して下さいと言える訳がなく。

 その場の言い訳として、アレクが体調不良を起こしたと言って馬車から降りた経緯があった。

 そんな顛末があった為に商人は聞いたのだ、優しそうな小太りの商人はアレクのことを気づかってくれたのだろう。

 突然の再開となったが、旅立ちの時の商人に会うとった偶然にも恵まれて、勇者一行は「アレシア」への旅が始まった。


 旅の途中で馬の手綱を引きながらラインハルトに質問を投げかけてきた。


 「それにしても皆さんアレシアにはどう言った理由で?」


 商人にしては突っ込んだ質問をしてくるものだと感じたが、乗せて貰っている手前無難に話をする。


 「前回の時に乗せていただいた子供の故郷がアレシアでして。故郷に帰る途中ですね」

 「へぇ、里帰りって事ですか?」

 「えぇ、そんな感じです」

 「良いですね〜、あの町はいつも長閑で良い」

 

 小太りの商人はよくアレシアに行くのだろうか、会話の流れから少し興味を持ったラインハルトは会話を遮らない様に進めた。


 「良くアレシアにはいらっしゃるのですか?」

 「えぇ、緑しかありませんが。私は自然を眺めるのが好きですからね」

 「そうなんですか」

 「はい、良いところです」


 帰ってきたのはいたって普通な返答だった、アレクが何故生まれ故郷に戻りたいなんて言ったのか。

 その理由の一片でも分かればと思って聞いて見たが、簡単な話ではなかった様だ。


 やがて勇者の一行は馬車に振られながらゆっくりとアレクの故郷「アレシア」に到着した。

 アレシアは小太りの商人が言っていた通りに緑の自然が生い茂る調和というより、単に放置されて生い茂っていると言った村だ。

 村自体も大きくなく、到着した時にラインハルトは違和感を覚えた。


 (確かにこんな辺鄙な場所に何故「蘇生の間」があるんだ?)


 普通蘇生の間がある場所は命が保証されたも同然。

 現にここから離れた一番近い紡績の町「ヘルザ」でさえ大きな規模の街が出来上がった。


 大きな町があったのではなく、大きな町に自然となったと言ったほうが語弊がない。

 蘇生の間の設置場所はどこも大都市で、魔力吸収する目的に合致していた。


 だがここに蘇生の間があるのはどうゆう訳だろうか?

 ラインハルトはその疑問に到着早々たどり着いたが、今は取り敢えず商人に感謝の挨拶を行った。


 「今回も有難うございます、本当に助かりました」

 「いえいえ、こちらも旅の途中に楽しい会話が出来て有り難かったですよ」


 ラインハルトは小太りの商人と別れの握手を交わした。

 たった数週間の旅を共にしただけだったが、商人は温厚で人の良い性格をしていたのか。

 ラインハルトは名残惜しそうに言葉を交わした。


 「また、是非会いたいものです」


 勇者は商人にそう声をかけた、小太りの商人は一瞬目を見開いたが直ぐにまた優しそうな表情を湛えて。


 「えぇ、また会いましょう」


 そう言って商人は別の道、東へと向かって行った。


 

 別れを済ました後、ラインハルトはアレクに先ほどの疑問を質問する。


 「なぁアレク、質問いいか?」

 「何でしょう勇者様?」

 「何故ここには蘇生の間が設置されてるんだ? あ、いや分からなければ別にいいんだ」

 「勇者様、その通りです。僕は旅をして途中で気が付きました。この町に蘇生の間があるのはおかしいと」


 大賢者は色々な町を見て行くにつれて、必ず勇者と再登録をする羽目になっていた。

 それは蘇生の間で行う魔力の同調する儀式。

 至って普通で誰も不審な点を感じない行為。

 だがアレクにとってはそうでは無かった。


 考えても見て欲しい、アレクがいつ最初に死亡したのかを。


 生まれた瞬間に昇天したのだ。


 蘇生の間には登録が必要である、それは何処でも変わらない。

 そうするとおかしな矛盾が生まれるのだ。


 アレクは登録をいつしたのか?


 普通の赤ん坊は出生後直ぐに蘇生の間で再生の儀式を行う。

 優しく母に抱きかかえられて、神官に登録を行うのだ。

 アレクにはその時間すらも無かった、瞬殺レベルである。


 「僕はおじいちゃんに抱き上げられたんだよ、蘇生の間で。おかしいと思わない? 僕登録してないんだよ?」

 「そうだ……確かに」

 「それに町の名前「アレシア」。賢者ソフィアの苗字と一緒」

 「それって……」

 「確信できないけど、憶測なら出来る。蘇生の間には魔法陣が書かれているんだ、そして魔法陣には祝詞が書かれている」


 アレクは恐ろしい真実を語り出す。


 「ヘルザもアクレイアもハルザもダグレフトも祝詞は一緒だった、だからこのアレシアだけ祝詞が違っていたけど特に気にしなかったんだ。でも最初の間の祝詞は……ここと一緒なんだ」


 勇者と大賢者は小さな田舎には不釣り合いに大きな教会を二人で見る。


 「きっと、ここには語られてない秘密がある。おじいちゃんに会いに行こう」


 恐らく全てを知っているであろう人物、アレクのおじいちゃん「シビージャ・サレス」の元に勇者の一行は向かうのだった。

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