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第3話 出発の日は冒険の始まり。

読んで頂いてありがとう御座います。

 

「よろしくお願いします!」


 元気よく挨拶をしたアレクは、最高に気分が良かった。

 あの憧れの勇者様と一緒に冒険が始まるのだから。

 勇者と共に冒険ができるとあってアレクはその日のうちに沢山の書物を持って行こうとした。

 その書物の山を見て勇者はこの旅路に不安が募った。


「えぇ、アレク君よろしくお願いします」

 少し不安な顔をしながらもラインハルトは結局このアレクと言う少年を連れて行くことにした。


「アレク、迷惑をかけるんじゃないぞ!」

「アレク、体には気をつけてね」

「アレクよ、世界を見てきなさい」


 両親とおじいちゃんが出発の門出を祝ってくれた、長年育った故郷の町。郷愁を感じながらも旅立ちの決意をする一人の少年がいた。

 勇者とアレクの二人は、まず足を確保することにした。

運良く馬車に乗っていた商人がいたので声をかける。


「あの、次の街まで馬車に相乗りさせて貰っても良いでしょうか?」


馬車の幌の中にいた商人が何事かと顔を出した。


「あぁ、はいどちら様で? えーとお金は持ってますか?」


中から出て来たのは青いニュースボーイキャップをした小太りの優しそうな商人だった。


「お金ならあります、お願いできますか?」

「えぇ、えぇ分かりました。大丈夫ですよ」


優しそうな顔で相乗りを許可してくれた、幸先が良いとアレクとラインハルトは共に顔を合わせて笑いあった。


 馬車に乗り込んだアレクは、馬車の後ろから身を乗り出して手を振る。


「また、必ず戻るからね!」


 別れの言葉を残し馬車は走り出す、ラインハルトは泣きながら別れを交わすアレクを見て、この純粋な子を守ってやろうと思いを強くするのだった。


 走り出して数分後、馬車が小石にぶつかって少し跳ねる。


「ここは田舎だから道路が凸凹なんだな、なぁアレク馬車に乗るのは初めてかい?」


 緊張をほぐすために、隣にいるアレクに声をかけた。

 だか隣から声が返ってこなかった。


「あれ? アレク何処だ?」


 アレクは馬車が小石を乗り出す振動で昇天していた。





「……い、行ってくるね」

「お、おう」

「……気をつけてね」

「3回目じゃな」


 アレクはあの後すぐに蘇生の間で復活をした。

 最初に目覚めた時、アレクは余りの恥ずかしさに蘇生の間から逃げようとした、だが微笑みながら教会に帰っていたおじいちゃんと鉢合わせになり、間の悪い再開を果たしてしまう。

 気まずい空気を漂わせながらもアレクとラインハルトは再出発を遂げた。

 二度目の出発はアレクの貧弱性を考慮し、ラインハルトは少しの振動でさえ昇天してしまう大賢者の為に馬車を使わず出発した。だが運動能力の無いアレクは見事に小石につまづいてしまう。

 その時のラインハルトの言葉が。


「……あっ」


 と言う、なんとも勇者としては間の抜けた声を出してしまった。


「今回は大丈夫ですよほら!」

「……恥ずかしい」


 二回も冒険前につまづいた勇者の出した答えが『おんぶ』だった。


「ねぇ勇者様恥ずかしいよ」

「しょうがないだろ?こうしなきゃ君は死んでしまうんだから」

「う〜う〜」

「ウーウー言わない」

「ぶーぶー」

「ブーブーも言わない」

「……なんか思ってたのと違う」

「アレクよ奇遇だな私もだ」


 最初からこんなにも困難があるのかとため息を吐きながら勇者はゆっくりと歩き出した。

 こうして例を見ない勇者におんぶされる大賢者の冒険が始まったのだ。






 「えーと、確か一番近い町でここから4日か……」

 ラインハルトはこれまで来た道を頼りに町を目指して歩いていた。


 「ねぇ勇者様、その町はなんていうの?」

 アレクは勇者の背中の上で揺らしながら見果てぬ町にワクワクしていた。


 「こら! 揺らさない! また昇天したいのか?」

 「……だって、むぅ」

 「はぁ……次の町は「ヘルザ」と言う町だ、特徴と言ったらだな……」

 「知ってる! 紡績の町ヘルザ!」

 「……なんで知っているんだ?」


 ラインハルトはこの少年がなんで行ったこともない町を知っているのか不思議だった。


 「何でって、本に書いてあったよ?」

 「本……」

 大神官が言っていた事を思い出す、このアレクはこれまでの生涯をずっと部屋の中で過ごしていたと。


 「……君は一体どれだけの本を読んで来たんだい?」

 「うーん、分かんない。 僕遊べなかったからずーっと本ばっかり読んでたんだ」


 この背に乗っている少年は、普通の子供のように外で遊んで怪我して無邪気に喧嘩することも出来なかった。

 改めて、その灰色な生活にラインハルトは胸を痛めた。


 「そうか……ヘルザという町はね、沢山の糸を紡ぐ職人が暮らしていて……」


 そう語り出したラインハルトは、次に辿り着く町の情景を事細かく少年に話し出すのだった。

 ヘルザに留まらず、勇者が旅した町の思い出を面白おかしく、その長い冒険譚を聞かせた。

 もう日が暮れる頃になってラインハルトはついつい話し込んでしまった事に気付き、背中におんぶしていたアレクに声を掛ける。


 「おっといけない、もうこんな時間だったか。 アレク? 退屈だったかい?」


 そう後ろを振り向いた、アレクの方から安らかな寝息が聞こえてきた。


 「……眠ってしまっていたか、そうだったな君はまだ子供なんだよな」


 ラインハルトは近くの木にアレクをゆっくり起こさないように降ろした。


 「私がこんな弱い子を身請けするなんてな……」


 五年前ラインハルトは巫女より神託を受けた、内容は魔王の復活とその打倒。


 「あの時の私は、何というか独り善がりだった」


 自他共に認める天才剣士、ラインハルトは自分よりも強い存在など居ないと本気で信じていた。


 「だが違った、私は井の中の蛙だった」


 意気揚々と勇者は魔王討伐に乗り出した、一人で。

 自分にはそれだけの力がある、そう信じて居た。

 そんな幻想は最初に出会った魔王の部下によって喰い千切られる。


 「暴食のカーミラ……」


 それは最初に出会った初めての魔族だった、そこで手も足も出ずに勇者は敗れた。

 王都にボロボロの姿で戻った時、帰って来たのは称賛ではなく侮蔑と嘲笑だった。


 「考えたくない過去だな……」


 民衆の落胆する顔、馬鹿にして来る貴族。

 ラインハルトは自分の信じる強さを失ってしまう。


 「この子は、そんな私が勇者で落ち込まないだろうか……」


 満天の夜空で思うのは、過去に挫折して足掻き続けている一人の男の姿だった。


 

今回は後1話でラストです、それからは毎日更新頑張りますので見捨てないでください、よろしくお願いします。

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