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第28話 賢者の秘密。

これ読むの追いつかないんじゃなかろうか……


読んで頂いてありがとうございます。


 「これが本当の大勇者の話です」


 王妃が秘められて物語を語った、周りは余りの内容にだんまりする。

 シンと静まり返った最初の間で誰も声を発しない。

 王妃はゆっくりと周りを観察していた、やがてその瞳はアレクに向かう。


 「小さな英雄さん? どうだったかしら?」


 アレクに尋ねる、大賢者はまだ物語の内容を咀嚼できていなかった。

 その為上の空で対応することしか出来ない。


 「あ、はい。びっくりしました」

 「それだけかしら?」


 小さく首を傾げて瞳は一心にアレクを見据えていた。

 何故もここまで見つめられるのか居心地の悪さを感じたアレクは話題を変える為に別方向から切り込む。


 「王妃様、一つ聞いていいですか?」

 「……なんでしょう?」

 「なぜその話を王妃は知っているのですか?」


 アレクにとって当然の疑問だった、何故王族のしかも外部から嫁いできた王妃がその真実を知っていると言うのか。


 「何故? 何故だと思いますか?」


 だが王妃は答えない、どうして知っているのかを答えようとしない。

 アレクは王妃のことをよく知らない、だからその質問に答えようもない。


 「お母様、今の物語は私も知り得ない話です。王族のみに伝わる話? 可笑しいです!」


 ティアラは第一王女である、王族のみに伝わる話ならば知っていて当然。

 しかしティアラは知らないと言う、一体どうゆうことだ?

 すると王妃は物語の続きを言うかの様に話し始める。


 「魔王となったソフィアの復活を望むのは何も大勇者だけでは無かった」

 「……何?」


 話の途中でラインハルトが話を挟む、異なる雰囲気を王妃から感じ取ったのだ。


 「取り残された七人の子供達もまた、愛する母を復活させようと動き始めた」


 そう、話には続きがあった。


 「歴代の勇者は、ラインハルト? なぜ使徒を倒す事が出来たと思いますか?」


 急にラインハルトに話を振ってくる王妃殿下、確かに歴代の勇者は使徒を倒している。

 そんな当たり前のことを何故今になって聞く?


 「私は、ずっと待っていたのです。大勇者の子孫を」

 「何を言っている? 子孫は王族の事ではないのか?」

 「今の話を聞いておかしいと思わなかったのですか? ねぇ愛しのティアラ?」


 皆の警戒レベルが上がる、流石にみんなも気づき始めた。


 「神託の巫女は代々王族の姫が継承しています」

 「……それがなんだと言うのだ!」

 

 ラインハルトは大声で威嚇する。

 

 「気付かないのですか? 誰からの神託だと?」

 「誰から?」

 「魔王の復活、いえ。魔王の命が消えかける時悲鳴が聞こえるのです」

 「悲鳴?」

 「えぇ、タスケテ、タスケテと……」


 誰も知られない神託の言葉、いま知ってしまうと違う意味に聞こえる。

 そう、魔王は生かされている。代々勇者たちによって。


 「勇者は王族に連なるものから排出してきました、それは光魔法ともう一つの能力を持って」

 「もう一つの能力?」

 「ええ、回復の力」

 「回復の……力」


 王妃の発言にアレクがハッと顔を上げて驚いた様に見つめる。


 「そう、歴代の勇者は勇者になるときに既に一つ能力を持っていたのです」

 「なんだそれは、おかしいだろ!」

 「おかしくありませんよ、付与されていたのですから」

 「……付与?」

 「みんな王妃様から離れて!」


 アレクが大声で叫ぶ、みんなも薄々気付いていた。

 王妃が何者なのかを。


 「あの悲劇の日、私だけは自分の異能の力で生き永らえて来たのです」

 「そんな………そんな! お母様!」

 「ねぇティアラ? 貴方は何故自分だけ人の心を読むユニークスキルの様な能力を持っているか分かる?」

 「嫌だ!……いや、いやぁあ! 聞きたくない!」

 「血族の力だからよ、私の傲慢の血が流れている! 貴方は魔族の子よ!」


 王妃はこの最初の間で自らを暴露する。

 人気のない場所、最初の間という小さな領域で行われる使徒との戦闘。

 魔力が集まる場所だと言った、ここには全てが揃っている。

 勇者、最初の間、マーメイドの涙。 そして……


 「小さな英雄さん……いいえ大賢者アレク! 恐ろしい、その幼い体にどれほどの魔力を溜め込んだというの?」

 「何言ってるの?」


 アレクは分からなかった、自分が何故勇者ラインハルトよりも警戒されているのかを。


 「知らないの? 何故蘇生の間があるのかを」

 「それは人々の命を救う為に……」

 「違う!!」


 王妃はビックリするほどの声を貼り鳴らした、まるで部屋が震えるくらいに。

 アレクを睨み続けて話し出す、大賢者の秘密を。


 「大賢者、貴方は知っているはず。とぼけないで、賢者の職業に到達するにはある魔法の習得が不可欠よ!」

 「……」


 誰も知らない、誰にも話したことのないアレクの秘密、彼は何故大賢者になれたのか。

 勇者は光魔法、聖女は心読み、賢者は?

 永い時、いや側でソフィアを見ていたから分かる賢者になる為の資格。


 「貴方……蘇生魔法が使えるわね?」

 「……」


 賢者に必要な資格、それは蘇生魔法の習得。

 幼き頃より魔法の習得に明け暮れ、本を擦り切るまで読み込みアレクは到達してしまったのだ。

 深淵よりも遥か深い場所に、禁術と呼ばれる領域へ。

 人を生き返らせるという生命のルールから外れる今はなき魔法。

 全ての魔法が霞んでしまう程の最強の魔法。


 「沈黙は肯定と見ます、今代に生まれた最大のイレギュラーが!」

 「……確かに、僕は蘇生魔法を使える」


 アレクは静かに自分の真実を話し始める、ポツポツとこの幼い少年が持つ異常な力を。


 「最初は死んだ時何かの間違いかと思った。蘇生する時に記憶が流れ込んだから」

 「貴方はHP1、普通ならすぐ死ぬ筈の子供」

 「そうですよ、傲慢の言う通り。レベル1で死ぬと皆さんどうなるか知ってますか?」


 アレクが10歳になるまでにその身に感じた体験を聞かせてくれる。


 「レベル1で死ぬとですね、魔力が増えるんですよ。記憶と共に」

 「何を言ってるんだアレク?」

 「勇者様、嘘ついてごめんなさい。封印術の事知ってたんですよ」

 「知ってた?」

 「うん、死ぬ度に流れ込んでくるんだ大勇者の記憶と賢者の記憶が」

 「!」


 巧妙に隠されていた真実、いかに天才なアレクを持ってしても本の僅かな知識だけでは到達できない話。

 知っていたのだ、何回も何回もフラッシュバックする様に古代の英雄達の記憶を辿りながら。


 「魔法の本に夢中になったのもそれが理由、ただ魔力が増える理由が分からなかった」

 「そうだ! レベルが減少する筈だ!」

 「その理由はずっと謎だった、なんで僕はこんなにも魔力があるんだろうって、でもいまの話を聴いて分かった」


 悲しそうに話すアレクはどこか自棄になっている様にも見える。

 ラインハルトを見て話す、優秀な頭は一つの結論を教えていた。


 「王妃様、今代の勇者様は魔力が少ないんです。何故だか知ってますか?」

 「此の期に及んでしらを切るつもりかしら? 当たり前じゃないの貴方が全て()()()()()()()


 アレクは懺悔する様に話し始める。


 「蘇生魔法には莫大な魔力を消費します、かの賢者ソフィアを持ってしても魔族化してしまうほどに」

 「アレク……お前」

 「大勇者は意思を受け継ぎ蘇生魔法を設置した、完全な蘇生魔法を使用する為に愛するソフィアの右目を触媒にして」

 「俺に魔力が無いのって」

 「そうですよ、勇者継承の儀式がこの最初の間で行われる理由はここに集まる魔力を勇者に与える為。その為に大勇者は王国中に蘇生の間を設置したんだ!」


 涙を流しながらアレクは吐き出す様に話す。

 

 「僕は、僕はただ魔力が増えるのが嬉しかった! こんな意味があるなんて知らなかった! 蘇生の間の副作用は魔族化を止める事。僕はレベル1だから! HP1だから! 無理矢理蘇生するには周りの魔力を貰うしかない! それがたとえ賢者の復活に必要な魔力だったとしても!」

 

 泣き出す光景を見て傲慢の使徒は笑う。


 「そう! そうゆう事よ勇者! この子供は貴方が本来持つべき魔力を奪ったの!」

 「……なんて事だ」

 「そうよね! これは裏切りといってもいいわ! でも大丈夫よ! ここは最初の間! 魔力を吸い取る間。殺しなさい! そのガキを! 殺せぇ! 忌まわしき我が母と同じ賢者を語る泥棒が!」


 HP1しかない少年は殺されようとしていた。

 その保有する莫大な魔力を吐き出す為に。


 王妃は全身の肌が黒く変色していく化けの皮が剥がれ落ちる。

 傲慢の使徒「マーレ」の本性が姿を現わす。


 殺されそうになっている大賢者は涙を流しながら呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

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