第27話 悲劇のヒロイン。
どんどん行きます!
小さな村で三人の英雄が生まれる。
一人は力が強く、剣の扱いには王国一番と言われるまで育つ男「ブラスト・ミュラー」。
一人は賢く、森羅万象を解き明かす天才と言われた女性「ソフィア・アレシア」。
一人は狡猾で、けれども右に出る者はいない程のハンターの腕を持った男「ステラ・グラム」。
辺境の片田舎に三人の英雄が同時に生まれた。
それは一つの悲劇を起こす、当時国と国は戦争をしていた。
当然、優秀にして息のピッタリだった三人は戦場に駆り出され、夥しい戦果を残していた。
だが、心やさしきソフィアは、人間同士が傷つき合う戦争を嫌悪していた。
持て囃され、莫大な恩賞と栄誉を賜りながらも。三人の顔は優れなかったのだ。
三人の英雄は戦争の終結後、自らの行いを悔い行動を起こす。
戦争孤児を引き取ったのだ。
「みんなご飯よ!」
金色の髪をなびかせてソフィアは昼飯をテーブルに乗せる。
ホカホカを湯気が出ている料理は見るだけでも子供達の食欲を駆り立てた。
「早く! 早く食べたいんだな!」
孤児の七人のうち食いしん坊のラドンは待ち切れずにヨダレを垂らす。
それを見てレイネシアがラドンを諌める。
「もう! はしたない」
「だって……」
「はいはい、喧嘩しないの!」
真ん中に入って二人の仲裁をするソフィア。
美味しそうな匂いにつられて他の人も集まってくる。
「美味しそうな匂いだな……これはベーコンとほうれん草のキッシュか!」
弾む声で嬉しそうに声を掛けてきたのはブラストだった。
「おいらは忙しいんで、お先に〜」
「あ! ステラ行儀が悪いですよ!」
「へへっ! 早い者勝ちだぜ」
風の様にキッシュを手につかんで去っていくのはステラという飄々とした男。
ソフィアはもう! と頬を膨らませながらも直ぐにはにかんだ。
「す、ステラおじさんはいいんだな?」
「いやあれは特例です、真似しちゃいけませんよ?」
食べ物を持っていくステラを見てラドンはそんなことを呟く。
全く子供の教育に悪い大人だ。
「あいつも忙しいんだよ、色々俺たちの為に動いてくれてる」
「……ええ、感謝してもし足りないくらいに」
三人の英雄は余りにも活躍した為に他国から抹殺の対象となっていた。
何故なら国が変われば、彼らは殺戮者となんら変わらないのだから。
ステラは巧みなハンターとしての能力を使い、子供の安全を守っていたのだ。
「さぁ、今日も大地の恵みに感謝して……頂きます」
ソフィアと同時にみんなも頂きますと声を出す。
そんな平和な日々を英雄たちは大切に守っていたのだ。
だが平和な日々は長くは続かなかった。
「……ねぇ、目を開けて! マルス! リーミラ! カーミラ! みんな!」
贖罪の為に行っていた三人は、真っ赤に燃え上がる家を見て崩れ去る。
「熱い、熱いよ! 助けて、助けて!」
家の中から少女の声がする、レイネシアだ。
花を育てるのが好きな、何処にでもいる優しい少女。
そんな少女が今は燃え盛る炎に包まれている。
「なんで、なんでこんなことに……」
ソフィアは泣き崩れる。
三人が王国に召還されていた間に起きた出来事だった。
まるで待ち構えていた様に三人の居ない間に子供達は襲われたのだ。
誰が一体こんな事を、他国の暗殺者? 放火の愉快犯?
「俺たちは嵌められたんだ……すまねぇ、俺のせいだ」
ステラは自分を責める、こうなる可能性はあった。
信じたかったのだ、信じて居たかった。
「国が……母国が裏切った」
ステラたちが信じて居た自国が、三人が裏切るのを恐れ凶事に出たのだ。
「あの召還は俺たちを嵌める為の口実だったのか…」
ブラストは召還の真の意味に気づく、遅すぎる結果だった。
周りを見ると王国の騎士が何千人も囲んで居る、三人の英雄は抹殺されようとして居た。
「なんで……こんな事が許されるの? 私達は国の為に戦ったっていうのに……」
呆然とした表情で周りを囲む兵士をみるソフィア。
自分達の行いは否定され、贖罪さえもさせてくれない。
私達に救いはないのかと。
ソフィアの心がポキっと折れる音がした。
「あぁああああああああああああ」
身体を焼き付ける様に熱くなる、肌が溶けそうだ。
掻き毟る指は肌に食い込んでソフィアは激しい自傷行為を行う。
その異常を感じ取りブラストとステラは共にソフィアを抑える。
「ソフィア! 駄目だ! やけになってはいけない!」
「おいおい! 落ち着け、なぁそりゃ不味いって」
呻き声を上げながらソフィアの肌がどんどん黒く変色していく。
人はこの現象を「魔力暴走」と言った。
「あぁあああ、みんなぁああああ!! ああああぁあああ!!」
溢れ出す悲しみが魔力の歯止めを効かなくしていた。
自分でもどうすることの出来ないソフィアはやがて人外の存在へと変化を遂げる。
「ソフィア……なんて事を」
「こんなのが俺たちの……俺らが描いて居た未来ってのかよ!」
「グォオオオオオオオオオ!!!」
理性をなくし、ただ叫ぶだけの廃人。
魔力暴走は人間を魔族に変化させてしまうものだった。
「ミ……ンナ、タス……ケル」
本来なら自我を失ってしまう筈の魔族化にソフィアは僅かながらに知性を残して居た。
魔力の暴走をしてまで成したかった魔法が存在した為だ。
自らの命と引き換えにソフィアは禁断の魔法を唱える。
「リバース!」
森羅万象を知り尽くし、天才の名を欲しいままにしてきた彼女にとって、理論上では可能は魔法。
【蘇生魔法】
その魔法を唱える為には膨大な魔力を必要とした、魔力暴走は体内の魔力を枯渇させることによって生じる症状。
肌が黒くなるのは魔力の枯渇を表わして居た。
天才と言われたソフィアでさえ枯渇するほどの魔力を彼女は惜しまず魔法に込めた。
最後に唱えた魔法は命と引き換えに成功する。
燃え盛る炎の中から七人の子供は命を吹き返したのだ。
「ソフィア姉ちゃん、何でよ。何でよ!」
聡明にして優しかった少年アルベルトは叫ぶ。
「みんなソフィア姉ちゃんを助けるんだ、ソフィア姉ちゃんを生き返らそう!」
アルベルトの掛け声によって愛されて育った七人の孤児は共に禁断の魔法を唱える。
まるでさっきの復唱をする様に、未熟な魔法しか使う事の出来ない七人は未完全な魔法を唱えてしまう。
「おい! お前達なに馬鹿なことしている! ソフィアの想いを無駄にするのか!」
ブラストは声を張り上げて子供達のやって居ることに異を唱える。
今すぐにでも止めに行きたい、けど目の前の兵士たちがそれを叶えてくれない。
七人の孤児は真っ黒に変わってしまったソフィアを中心に取り囲んだ。
これが最悪の結果を残す。
それぞれの魔力が暴走しだし虹色の幻想的な光を放ち出す。
周りにいた兵士とブラストそしてステラを覆い包み全体を巻き込んだ全体に魔力の波動が漏れ出てしまう。
このままでは兵士も含め全員が魔族化してしまう危険性があった。
「おいステラ! 悪いな、お前に全てを押し付けることになりそうだ」
「は? 何言ってんだ?」
「俺は魔力の暴走を抑えるよ……これでな」
「おい、待てよ何で今「マーメイドの祝福」なんて取り出すんだ? おい!」
ブラストが海の女神から賜った至宝「マーメイドの祝福」を服から取り出す。
天に高く掲げると同時に透明だったマーメイドの祝福はその場にある魔力を急激に吸収し出す。
やがて魔力を全て吸い取ると、石は虹色に輝きを放つ様になった。
膨大な魔力を吸収したブラストは自らの魔法が変質した事を知る。
光が収まった後、周囲に残った光景は兵士も含めた中途半端な魔族たちだった。
「ソフィア姉ちゃん……お姉ちゃん」
マルスは泣きながらソフィアに抱きつく、異常な魔力暴走によって七人の身体能力は向上し異能を授かった。
真ん中には不完全に復活したソフィアの姿、異様な姿は人の姿を半ば残した化け物と言うしかないものだった。
「ワタシ……なんで、イキ……テル?」
ソフィアは立ち尽くした、蘇生魔法は成功した筈。
何で私は生きて居るのかと。
前を向くと懐かしい二人の姿。
「ブラスト……ステラ」
化け物になってしまったソフィアを見て二人は顔を下に伏せる。
あまりにも救われない結末、死ぬ事も出来ず生きているのかも疑わしい。
密かに想いを寄せていた二人は目の前の惨状を見て誓いを立てる。
「ステラ……俺はいつかソフィアを生き返らせる」
「ブラスト、おいらは逆だ。一思いに楽にさせてやりてぇ」
ブラストは涙を流しながら変質した光魔法を唱える。
マーメイドの祝福のお陰で膨大な魔力を手にすることに成功していたブラストは、周りの全てを巻き込み。
自分の中に封印した。
いつの日かみんなを復活させる事を夢見て。
相反発する考えが二人の仲を引き裂いた。
仲良く三人で戦った英雄たちはこの悲劇をきっかけに別々の道を描くことになる。
ブラストは大勇者となりソフィアを助ける為に。
ステラは大盗賊となりソフィアを殺す為に。
二人は共に魔王となってしまったソフィアの両眼をくりぬいた。
唯一ソフィアに残った人間らしい最後の部分だったから。
泣きながら二人は決意する、ソフィアを救う為に。
その後ブラストは裏切った王国を壊滅させ新たに国王となる。
ステラは戦争を終結させる為に各国の宝、兵器を盗む盗賊に身をやつした。
彼女が残した蘇生魔法を元に蘇生の間が完成する。
蘇生魔法のお陰で人間が魔族化することがなくなった、魔力暴走の前に蘇生してしまう副作用によって。
死ぬことがなくなった大勇者の王国は繁栄を極めた、そして豊かに平和になった王国を見て大勇者は眠る様に死んだ。
そうして歴史が繰り返される、大勇者に眠っていた魔族たちが世に解き放たれた。
事情を知らなかった後世の人間たちはあまりの悍ましい姿にソフィアを魔族の王、魔王と僭称した。
国民は勝手にソフィアを恐怖の象徴としたのだ。
大勇者の身体に封印されていた為に、民衆は勘違いした。
大勇者が魔王を倒したと、そうして素敵な物語が完成する。
魔王を倒す大勇者の伝説の物語。
偽りで固められた嘘の物語。




