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第23話 力になりたくて。

読んで頂きありがとうございます。

 周りを見渡して嗤う双子の悪魔、およそ人の表情をして居ない醜い笑い顔をこちらに向けて動き出す。


 「あはは! 死ねやぁ!」


 地面を高速に蹴り出す、勇者の身体能力を持ってしても軋む筋肉の音が聞こえるほどの脚力。

 真っ直ぐに、狙うは子供。最弱の男。


 「君だけがイレギュラーなんだよ! 喰らいな!」


 目に見えない手刀が繰り出される、アレクは反応が出来ない。圧倒的なステータスの差、その差を見せつける様に、上段から小回りを効かせて最小の動きで最大の効力が出る最適な動き。

 風を切り裂き一瞬に近付いた手刀は大賢者を真っ二つに分断するかに見えた。

 その手を手首から止める男がいる、その目は炎の様に燃えていた。


 「邪魔すんなって言っただろ! 雑魚が!」


 同じステータスだからこそ間に合う、ラインハルトがガッチリとカーミラの手首を固定して居た。


 「悪いがこの子には一歩も触れさせない、カーミラ。まずは俺を倒してみろ!」


 返す刃で聖剣を中段から押し出す様に突き出す、腹部に向けた刺突はギリギリのラインで躱される。

 避けて一歩間を離す、カーミラのお腹の服がバッサリと裁断されていた。


 「……少しは成長したみてぇじゃねぇか」

 

 苦々しく言葉を呟く、勇者がレベルアップした2レベルとはほんの僅かなステータスの変化、正に紙一重の差、その差が命に直結する原因を揺り起こす。


 「お前の能力もどうやら万能では無いらしいな、動きが鈍いぞ?」


 今の一撃で少し余裕が生まれる、襲い掛かれた子供。アレクはと言うと。


 「変身……爆発……歴代の勇者はどうやって倒して居た? 弱点が存在しているはず。いや違う、弱点を()()()()()()


 勝利への方程式を組み始めて居た。

 

 「勇者ウゼェ! おい、リーミラ! 周りから大賢者を襲え! 爆発の能力を全開放しろ!」

 「全開放?! 嬉しい、嬉しいわ最高だわ! キャハハ! みんな吹き飛んじゃえ!」


 嬉しそうにテンポ良く飛び跳ねるリーミラ、またひとつパチンと音を鳴らすと周囲から爆発が鳴り響く。

 先程からポンポンと爆発されるリーミラを見てアレクは予測を立てる。


 「爆発の方は何かタネがある様ですね、さっきと同じ場所が爆発して居ます」


 楽しそうに子供が小さな玩具を壊す感覚で、無垢な瞳は王都「ハルザ」をぶっ壊していく。

 次第に勇者たちが戦っている場所は粉々に爆破された瓦礫が積まれていき、爆撃が落とされた都市の様に、炭の燃えた匂いと散在した建物の残骸で辺り一面を塗り替えた。


 「私の麗しき王都が、見るも無残に……」


 ティアラは放心してその破壊活動を眺めて居た、自分はなんて無力なんだろうと。

 大層なレジェンドスキルを持って居ても勇者と同じだと、いや私こそ無能で非力な女なんだ。

 周囲を見渡せばユリアもサラも、この王国を守護する騎士団でさえも心を折れずに戦っている。


 「なんで? ……なんで貴方達は戦えるの?」


 自分に向けた呟きをそう漏らした、誰に向けても居ない呟き。声が聴こえたのだろうかユリアが答えを教えてくれる。

 

 「何でって? 坊やを見なさい! あの子が諦めない限り勝てるのよ!」


 その言葉は疑いのない確信を持って居て、ユリアの双眸から反射して見えるアレクの姿は信頼を一身に受けている。


 「それだけなのですか? なぜそこまで信じれるのです!」


 この絶望的な状況でなおも光り輝く瞳は色褪せない、王宮で人の嘘を見破って来たティアラにとって他人を信じるという行為は馬鹿がすることだと、勝手に思って居た。

 あの子供が何なんだというのか、それほどまでに凄いのだろうかと。


 「おい、突っ立って居ないで君も動いたらどうなんだ?」


 斜め右前から後ろを振り向いてサラがそう声をかけて来た、この状況で私が出来る事があるの?


 「私が、何を出来ると言うのです……」

 「言っとくがな、私だって何をすればいいか分からないよ、せめて今出来る事は大賢者さんが集中できる様に守っているだけさ」


 サラもまた戸惑って居た、けどアレクに寄せる信頼はユリア同様篤いものだった。


 「聖女様! ここは我らにお任せを!」

 「ラインハルト様は負けはしない!」


 一方では勇敢に暴食と戦う勇者の姿に同じ同僚の騎士団達は、心を勇み恐れを払拭して居た。

 戦いの中でティアラだけが動けずに傍観者たる行動をして居たのだ。


 「ミュラー様! わ、私は一体何をすれば!」


 慌てて勇者に助けを求める、自分は何をすれば良いと?


 「ティアラ姫、貴方のお力を私に! あいつらが何を考えているのか教えてください!」


 急ぎ足で矢継ぎ早に話すラインハルト、でもその言葉はティアラの気持ちを楽にする、私に出来る仕事がある。

 そこからティアラは必死に相手を見つめる、僅かな情報も漏らさぬ様に。

 高速で動いている暴食の瞳を追う事は困難を極めた、なのでまずは嫉妬のリーミラの瞳を覗き込むことにする。


 「なんて邪悪な瞳……それに凶悪な破壊衝動、こんな子がいるなんて」


 経験した事もない、それこそ王宮内でも散りばめられた嘘が可愛く思える程に。

 人の心を読むと言う行為はいい事ばかりではない、その思想に共感して染まってしまう危険性も孕んで居た。

 ティアラはリーミラから一旦視線を外す、額には思いの外大粒の汗が吹き出て居た、化け物だわ。

 無垢にして邪悪、いや邪悪だと感じて居ない無垢な心。その思想に鳥肌が立つほどの寒気がする。

 覗き込めば覗き込むほどに嫉妬の異常性が分かる、この子達は何故こうも世界を恨んでいる?

 彼女らに明確な理由が存在しない、ただ純粋にこの世界を憎んでいる、憎悪している。


 「恐ろしい……! いけないわ飲み込まれる!」


 強烈な思想を感じ取り思わずその思想に取り入られそうになる、首を横にかぶりを振り、自己の存在を再確認する。


 「深層意識を見ても意味がない……まずは彼女達の表層意識を読み取らないと」


 彼女達の短絡的な行動思考を読み取っていく、そこから分かるレジェンドスキルの心読みを持つティアラしか知り得ない新事実。意外に簡単に読み取れたのは、彼女達がそれだけ一つのことに集中して居た事実が浮き上がって来た。

 もし、この事が本当なら大賢者を真っ先に爆発させなかった事が理解できる。伝えなければいけない、この情報は有用だ。


 「ミュラー様! 嫉妬の能力発動条件がわかりました、接触です! 接触しなければ能力は発動しません!」

 「何! それは本当か!」


 ティアラが見たのはリーミラが丁度指を鳴らす瞬間だった、嫉妬が指を鳴らす瞬間確かに脳裏に手で触れている描写が浮かび上がって来たのだ、その発言を聞いてアレクが目を見張る。


 「ティア姉それ本当? 本当なら対処出来るよ!」

 「え、えぇアレクくん本当よ。彼女は触れなければ爆発できない」

 

 新事実に一番食いついたのはアレクだった、接触が発動条件なら色々と書物との符号が合致する。

 そこからはアレクは深くより深く思考する、相手を嵌めこちらに勝利を捥ぎ取るために。


 「ティア姉、暴食の考えている事分からない?」


 もう一つ情報が欲しかった、確信できる情報が。 アレクに目を向き合った時にその深い緑色の瞳にティアラは声を失った。

 あまりにも、そう子供にしては複雑なくらい膨大な光景が頭の中を駆け巡って居た。

 質問されている事を忘れてしまう程濃密な思考能力、このアレクという大賢者もまた化け物だと気づいてしまった。


 「……ティア姉聞いてる? 大丈夫?」

 「ご、ごめんなさいアレクくんちょっと考え事して居て」

 「それなら良いんだけど、暴食のことも覗ける?」

 「えっとその動きが速すぎて……ごめんなさい捉えられないの」

 「なるほどね、じゃあユリ姉に協力してもらおう!」


 ティアラに話しかけている時でも頭の中は万華鏡の様に多様な状況を予測して居た、大賢者の肩書きは伊達ではない。

 驚いているティアラを他所にアレクはユリアに協力を求める、アレクを中心に守る様に陣形ができて居た為にユリアなどの低レベルは内側に位置して居た、お陰でアレクはユリアに直ぐに相談できた。

 

 「ユリ姉! ちょっとやってほしい事があるの!」

 「良いわよ! 倒し方分かった?」

 「ううん、でも分かるかもしれない」

 「そう、上出来だわ!」


 上機嫌になるユリア、ユリアもまた自分の力を頼られる事に喜びを感じて居た。ヘルザで力になると面を向かって言ってくれたこの坊やに、あの時から心の底ではアレクの力を疑ったことはない。

 アレクのちょっとした作戦が伝えられる、彼女の糸の能力を使った足止めをまた敢行する。

 ユリアは糸を紡ぎ出す、その糸にアレクは捕縛の為のスキルをかけていく。

  

 「これで良いよ! 糸をかけて!」

 「いくわよ!」


 二人が威勢良く放った糸は、意図通りに嫉妬のリーミラを捕らえた。

 ティアラはポカンとする、なんで? 暴食を捉えるんじゃなかったの?

 あの膨大な思考はなんだったのか首を傾げる、見間違いだったのかと、でもアレクの狙いはいつも相手の裏をかく。


 「何これ! 動けない! お姉ちゃん! 助けて!」

 

 思いも寄らなかった攻撃にリーミラはあっさりと糸によって捕縛されてしまう。 爆発の条件をティアラから教えてくれた時に、早く接触が分かった事と読み取りの速さからアレクは爆発は接触の他に高い集中力を必要という結果を割り出したのだ。

 ティアラの能力ですぐに分かるということは、それだけ頭の中が爆発の思考で満たされている事を伝えて居た。


 「何ぃ! あのチビガキ、リーミラを離せ!」


 自分の妹が捕縛された事に気づいたカーミラは恨めしそうな顔でラインハルトから距離を取ってリーミラの元へと走り出す、その隙をアレクは見逃さない。

 アレクはサラに目線で勇者に促す、大賢者の考えを理解したサラは勇者に駆け寄り背中を押す様にタッチする。

 勇者は自分の背中が押されて後ろを瞬時に振り向いた、押した相手がサラだと分かると笑いながら押されるがままにカーミラへと接近する。


 「あぁクソッ! この糸離れねぇ、もう少しだもう少しで糸が解ける」

 「お姉ちゃん待って! 後ろから勇者が!」


 リーミラの糸を解く事に一生懸命だったカーミラは判断が遅れる、遅れた理由は他でもないサラが勇者に音消しの能力を付与して居たからだ。

 カーミラが振り向いた時はもう遅かった、目の前まで接近している勇者の刃が心臓を突き刺す様に伸ばされる。

 勇者はまず間違いなく心臓を突き刺せるのは必然に思われた、次の瞬間カーミラの様相がガラリと変わる。


 「ま、待て! わしを刺すでない!」


 一瞬にしてカーミラの外見が変わる、勇者は頭では理解して居ても剣先が止まってしまった。


 「お、お父様?!」


 一番変化に動揺したのはティアラだった、カーミラは咄嗟の判断で国王に変身していた。

 瞬く間にカーミラは勇者が突き出して居た聖剣を蹴り上げる、老人とは思えない機敏な行動、不可解な俊敏性。


 「ふぅ、危なかったぜ、この身体も使い道があったみてぇだな。 あはは!」


 危機を脱したカーミラはみんなが見ている中で高らかに嗤う、何がおかしいのかわからない、ただ一つ暴食が起こした行動はアレクにヒントを与えて居たことは確かだ。


 「……ティア姉、暴食の動きが止まったよ。何が見える?」

 

 高笑いが続く中でアレクだけが恐ろしいほどに冷静だった、ティアラに命令に等しい語調で話しかける。

 ビクッと驚いたティアラだったが、確かに暴食の動きが止まって目をみつめる事が出来る様になっていた。

 ここまでをアレクは想像して作戦をでっち上げた、ただ暴食の考えを読み取るためだけに。

 もう一つは情報を精査して居た、変身の能力のカラクリを。

 ティアラから教えてくれた情報はアレクの脳内を素早く往復して誰にも気付かれることなく大賢者は微笑んだ。



 「作戦を伝えます、一つ思いつきました賭けですが……」


 ティアラにだけ分かる様に作戦を話す、天才の策略が牙となって双子に噛み付く。


 アレクの右手には魔力の錬成が始まっていた。

 

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