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第22話 最悪のタッグ

お早う御座います、ありがとう御座います。


因縁の戦いが始まります。

 爆発して落ちゆく塔を騎士団と勇者達は眺めているしか出来なかった。

 その異常自体は城下町の人も知り得なかった情報だった様で、皆同じく王城を向き、落ちゆく塔を眺めていた。

 王都は王城が小高い山の山頂に存在している、そして柳の様に山の傾斜に沿って建築がなされていた、そのことが不幸を呼ぶ、城下町まで坂を滑っていく様に塔がずり落ちてきたのだ。


 うず高い白煙を曇らせながら王城に近い場所から逆流した煙が迫り来る。まるで街を飲み込む様に。

 市民は夢の出来事だと錯覚してしまいたかった、恐怖が目の前に迫っている状況に理解が遅れる。

 危険が迫っている、そう気が付いた時には活気溢れていた町の喧騒は絶叫へと科学変化を遂げる。


 我先にと王都の門という門に市民が殺到する、検閲なんてしている隙などなかった。空を見上げれば噴火と見間違える威力。 天高く伸びる灰色の土の混じった煙は市民の不安を煽る。


「何だよこれ……何がどうなっている?」


 丁度王都に到達した勇者達は、出来の悪い映画でも見せられていると嘆きたくなる。

 誰もが声を無くして逃げ惑う市民を眺めることして出来なかった。


「……助けに行かなきゃ、勇者の私が行かなければ!」


 目が覚めたばかりだと言うのにその場から王城へ向かおうとする勇者、そうして身を捩った時に気付いた違和感。

 勇者の手首には縄で固く結ばれて身動きが出来ない状態になっていた。 

 それでも必死に縄を解こうと手を痛めながら動かす。


「おい! この縄は何だ! 早く解いてくれ!」


 ジタバタと動く勇者は周りの仲間も縄で縛られている事を知る、王都の危機に目が行って自分たちの状況を理解していなかった。

 状況を薄っすらながら理解してきても、なお縛られている意味がわからない、だたそんな事よりも助けに向かわなければいけなかった。そうなるとこの縄を解ける可能性のある奴が一人いる。


「サラ! 縄を解いてくれ!」


 ラインハルトはサラを呼ぶ、連行されてから鳴りを潜めていた大盗賊の子孫に。

 サラは勇者と目があった瞬間小さく微笑んだ、そして一言言葉を放つ。


「勇者さん、縄に小指を引っ掛けてそのまま通しな。私が言えるのはそれだけさ」


 何かの暗号かと思ったが、勇者はサラの発言通りに縄を動かしてみた、すると不思議なことに縄に空間が生まれたのだ。僅かに空いた空間を使って拳を引き抜く。簡単に抜けるものだから拍子抜けしてしまったほどだ。

 幸いなことに騎士団の連中は気付いていない、みんな王城の爆破に夢中になっている。


「……っと、外れた、待っていろ!」


 器用に手を動かして縄抜けを行ったラインハルトはそのまま全速力で王城に走り出す。 

 突然勇者が走り出したことで縄から脱け出たことに気付いたのだろう、騎士団達が面白い様に慌てふためき出す。


「勇者殿! いつの間に、皆追え! 勇者を捕らえろ!」


 完全に虚を疲れた状態からの追跡が間に合う筈がない、相手は人類最強なのだ。

 風に運ばれる様にヒューと掛けていく勇者の後ろ姿を見つめるしか出来ない、もうこうなったら一緒に王城へ向かうしかなかった。


「勇者様行ってしまいました……」

「あの馬鹿、また一人で行っちゃって」

「勇者さんだからな、しょうがない」

「ふふ、本当に真っ直ぐなお方」


 四人も勇者の後を追って騎士団と共に王城へ駆け抜けていく。

 逃げる民衆とすれ違う、騎士団達の行動は大多数の逃げる渦の流れに逆らうものだった。

 故に遅々として進めない、もう豆粒の小ささになっている勇者に追いつくために、騎士の背中におんぶされて居たアレクが魔法を放って援護する。


「サンドアップロード!」


 騎士団達の前にいきなり隆起し出した土が現れた、グネグネと地面が動いたかと思うと、数秒たったのちに見事な道ができていた、それも自分達の向かいたい先に一直線に。ご丁寧に他の道よりも1M程隆起した状態で。


「こ、これなら邪魔なく進むことができる」


 おんぶしていた騎士はその魔法で作られた道に驚いたが、直ぐに気を取り直して解放された道を一気に突き進む、モーセの海割りの如く。その道を阻むものはいなかった。

 時間にして約数十分、走り切った騎士団は疲れ切っていた。それは同じ様に体力のないユリア・ティアラも同様。

 息を切らしていなかったのはラインハルトとサラ、そして歩いてすらもいないアレクだった。


「一体こんな酷いこと誰がやったんだよ」


 先に到達していたラインハルトがそう呟く、王城に近い城下町の家は塔によって見るも無残に潰されひしゃげていた。

 その答えに返答してくれたのは神なんかではなく、勇者が聞きたくない濁ったダミ声の音だった。


「あはは! 勇者のその顔ぉ、さいっこうだね! 計画は成功ってか?」


 塔の壊れた先端に居たのは少女と言っていい小柄な女の子だった、ただ雰囲気が只者ではない。

 それもそのはずだ、彼女は少女に見えても歴とした使徒なのだから。


「暴食! これは貴様の仕業か!」


 ラインハルトは食って掛かった、こんな酷い事を企んだ暴食のカーミラが許せなかった。


「確かに、企んではいるけどこれは別、あたし破壊とか興味ないし」


 知らないと言わんばかりにジェスチャーをするカーミラ、その手振りだけでも勇者の心をかき乱す。

 しかし、カーミラがこの状況を作り出して居ないとなると一体誰がやったと言うのだろうか。

 その答えは最悪の結果を意味して居た、絶体絶命の窮地に勇者達は追いやられて居たのだ。


「初めましてだねお兄さん、ねぇカーミラ? 案外格好イイじゃん」

「何言ってんのリーミラ、あんたセンスダメダメだね」


 カーミラに隠れる様に居たもう一人の少女、顔と身長、様子までが瓜二つ。


「何だ……カーミラが二人?」

「バーカ、こいつはあたしの妹のリーミラでしたぁ」


 いちいち小馬鹿にする様に話しかけるカーミラ、妹? 妹がいたのか?

 ラインハルトは混乱する、今までカーミラに妹なんていると知らなかったのだ。


 端から見て居た大賢者は妹にしては似過ぎている容貌からアレクがポツリと声を漏らす。


「姉妹……悪魔の双子」


 信じられないものを見る様に、アレクは目の前の二人を見る。 そして天才なアレクは知識と推察からことの事件のあらましを解き明かしてしまう。


「勇者……弑逆……爆破‥‥繋がる、繋がりますよ! この人たちが、この少女が国王を殺した人達!」


 二人の使徒の能力、その能力二人が王都にいる事。 導き出される答えは、王国の破壊。


「そんな! 私のお父様はこの人達に殺されたって言うの!」


 ティアラが我を忘れて叫ぶ、信じられない。


「あはは! バレちゃったーバレちゃった! でもでもぉ! みんなここで死ぬんだし分かったところで意味ないよね?」

「きゃはは! そうだねそうだね、全部ぜーんぶ壊しちゃおう!」


 悪魔の双子は、楽しそうに塔の上で手を繋いでクルクル回って童謡でも歌う様に悍ましい話をする。


「あはは! でもさ……危険な奴は排除しないとね」

「きゃはは! そうそう、大賢者なんて物騒な人いなくなっちゃえ」


 二人の双眸は一人の子供に向けられていた、カーミラは勇者との会敵後、王都に潜入して居た。別口で行動して居たリーミラが齎した情報を聞きアレクが大賢者だと理解する、目の前にいる子供が我ら同胞を倒したキーマンだと。大賢者の異常性もその危険度も。

 真っ先にアレクは狙われていたのだ。


「……! 不味いアレクが狙われている! みんな守るんだ!」


 ラインハルトが声をあげて全員に喝を入れる、その声に反応して元同僚だった騎士団のメンバーもアレクを囲む様に参加する。


「ッチ、鬱陶しいハエどもが! 邪魔なんだよ!やっちまいなリーミラ!」

「イイねイイね! 全部吹き飛んじゃえ!」


 リーミラは指を鳴らす、パチンと。

 音がなった瞬間に周りを囲む様に凄まじい爆発が鳴った。


「な、何だこれは! あの少女は一体何なんだ!」


 全体が混乱する、その中でアレクだけは正確に少女の能力を知っていた。


「みんな落ち着いてください! あの少女は嫉妬の使徒「リーミラ」悪魔の双子の片割れです! 能力は「爆発 (Explosion) そしてもう一人が……」


 そこまで言って後の言葉は当の本人の口から語られる。


「変身 (Transform)の能力、あはは! 見せてあげるよあたしの力を!」


 そういってカーミラが勇者と全く同じ姿に変身する。

 周囲がより一層混沌とし出した。いきなり目の前に勇者がもう一人増えたのだから。


「落ち着け!」


 大きな声で怒鳴り散らしたのはラインハルトだった、勇者の一声でみんな冷静になる事が出来た。


「私が倒したかった相手だ、暴食のカーミラ、今度こそお前を倒す!」


 成長したラインハルトは誰よりも落ち着いて相手の出方を伺う。


「あはは、腰抜けに用はないんだよ!」

「破壊破壊破壊! 全てを壊して私の地獄を見せてあげる!」


 まだ混乱は止むことはない。

 王国の中心地にして王都「ハルザ」にて、二人の使徒との戦いが始まる。

 周りを見渡す様に睨みつける双子の瞳には、隠し切れない狂気が渦巻いていた。

 

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